オレンジ色の月
久しぶりのエントリー。
この間、犀川君とは仲良くやってきた。
今日も会って、バイバイを言うその瞬間まで、ずっと触れ合っていた。
なのに、なんだろう…この感覚は。
会えば必ず、かけがえのない人だと思えるのに
離れると、とても不安定な気持ちになる。
私は本当に犀川君が好きなのだろうか。
何だかよく分からなくなってしまった夜。
帰り道、オレンジ色の月を見たせいだろうか。
妙に胸騒ぎして、落ち着かなくなった。
久しぶりのエントリー。
この間、犀川君とは仲良くやってきた。
今日も会って、バイバイを言うその瞬間まで、ずっと触れ合っていた。
なのに、なんだろう…この感覚は。
会えば必ず、かけがえのない人だと思えるのに
離れると、とても不安定な気持ちになる。
私は本当に犀川君が好きなのだろうか。
何だかよく分からなくなってしまった夜。
帰り道、オレンジ色の月を見たせいだろうか。
妙に胸騒ぎして、落ち着かなくなった。
とある案件の締め切りが月末で、私は今、猛烈に忙しい。
連日、深夜まで作業し、時には泊まり込んでの作業の日々。
元々カラダの弱い私が、これまで何とかもったのも、
気が張っていたからと、ブルーベリージュースのおかげだった。
が、一つの山を越えて、ほんの少し気が緩み、
運悪くブルーベリージュースが切れてしまったら…
途端に体調を崩し撃沈…。この大切な時期だと言うのに!!
だが、どんなに気が焦っても、カラダが全く動かない…。
そんな時、ずっと犀川君がメールで励ましてくれた。
撃沈ゆえに、まめに返信ができなかったにもかかわらず
絶えず、メールを入れてくれたことが、私の心を和ましてくれた。
なんとか、体調が完璧とまではいかないまでも戻った今日、
なんと、今度は励まし続けてくれた犀川君が風邪をひいてしまった。
「あったかくして寝てね」と言うと
「あったくして寝るね」と犀川君。
「抱き締めてあったかくしてあげたいなー」と言うと
「風邪がうつっちゃうから、治ったらね(笑)」と犀川君。
かわいいなー(^_^)
今度は私の番だな。
仕事の合間をぬって、いっぱい励ましのメールを送ろうっと。
その後、犀川君と私はとっても仲良くやっている。
淡白だった犀川君も、近頃は情熱的で、
どこか物足りなさを感じていた私も、大満足な日々を過ごしている。
何もかも、合う人とようやく出会えた、という実感を持てるようになった。
今の仕事が一段落したら、二人で春の旅に出掛ける予定。
春が嫌いな犀川君。
春が好きな私。
去年よりも素敵な春を見つけに、電車に乗って春の海へ行くつもり。
犀川君と私、これからの旅に備えてリュックが欲しい。
加えて、私は旅を刻む、ハイクオリティなデジカメが欲しい。
犀川君は来週、友人と旅に出るので、リュックは急ぎで欲しい。
ならば、ということで、バレンタインのチョコを一緒に買いがてら
お買い物をしようとデートの約束をした。
週間予報では雨、ということだったので、
買い物が終わったら、喫茶店でまったりしようと計画を立てた。
が、デート前日に春一番が吹き荒れ、
当日は驚くほどの晴天と夏日のような陽気。
一気に春がやってきた。
が、とにかく歩いていると熱い。
すると、しばらくして、犀川君の様子が変だ。
聞けば、「この陽気、駄目だ…」と元気がない。
そう、犀川君は春が大嫌いなのだ。
春となると、憂鬱になって、花見に行こうと誘っても嫌だと言う。
あの浮かれたような雰囲気が、たまらなく滅入るのだそうだ。
それでも、私はデジカメの下見で興奮。
それまでパンフレットであるカメラに目をつけていたのだが
店頭で実物をみると、思っていた以上に素敵だ。
それに思いのほか値段が下がっていて、躊躇いが薄れてきた。
どうしようか、と思っていると、犀川君が「中古で十分」と言う。
犀川君は写真が趣味で、カメラにも詳しい。
実はこの私が狙っているカメラと同じシリーズのカメラも
去年の秋に中古で購入したらしく、「十分満足」なのだそうだ。
「だいたい、デジカメはどんどん新商品が出てくるからキリがない。
解像度も頭打ちのところまで来たと言っていいだろうし、機能も性能も
十分なレベルまで来ているしね。だったら中古で安く買った方が賢い」
とはいえ、中古かあ…とあまり乗り気になれなかった私。
誰が使ったか分からないようなものに安くなっているとはいえ
それなりの大金を投資するのだから、う〜んとうなってしまう。
そんな私に、とりあえず中古カメラを見せようと思った犀川君に
連れられて、彼がよく行くという中古屋さんに行くことになった。
どうせ小汚い雑多な店なんだろうと思っていたら大間違い。
雑居ビルの3階までエレベータでいくと、なんとそこにはオシャレな店が。
高級感あふれる店内は、私の中の中古屋の概念を完全に打ち破っていた。
「きれいだな」とつぶやくと、「でしょ」と誇らしげな犀川君。
「このモデルは超人気だから中古出ているかなあ」と言いながら
そのモデルが置かれているはずのガラス棚のところまで行ったら
2台鎮座していた。「うわ、ラッキーだね、2台もある」と犀川君。
見れば、新品とどこが違うんだろう?と素人目には全く分からないほど。
見れば、そのうち1台はメーカー保証1年有効となっている。
てことは…ほぼ新品??? 早速、お店の人に言って、出してもらって
カメラを手にとってみることに。詳しい犀川君があれこれチェックを始める。
私はよく分からないので、すべて犀川君に任せると、最後に犀川君が
「うん、こっちのメーカー保証1年の方がいいね」と言う。
ならば、ということで、ヨドバシよりも15,000円も安い値段でお買い上げ。
あとで箱を空けてみて気づいたのだが、備品は新品のままビニール袋に
入ったまま開封されていなかった。あらー、めちゃラッキー。
浮いたお金でSDカード(4GB)と電池を買って、喫茶店へ。
早速箱から出して、セッティングして、撮影開始。
元気がなかった犀川君も次第に元気になってきて、
あれこれ撮影方法についてアドバイスをくれた。
「雑多な都会の中にいると息が詰まりそうだから、都電に乗って
少しでもここから離れよう。その方が撮影素材もありそうだし」
犀川君がそう言うので、2人してバスに乗り込み、都電のある街まで。
そこであれこれ撮影を始めると、想像以上にいいカメラだと判明。
腕の無い私でも、味のある(と思える)写真が、ぼちぼち撮れるのだ。
こうなってくると面白い。
パチパチ町中でカメラのシャッターを切っていたら
犀川君も、「じゃあ、僕も」と言って、彼はフィルムの一眼レフカメラを
鞄の中から取り出して、都電を撮影していた。
帰宅後、私の撮影した写真を見てもらい、アドバスをもらった。
「これからはお互いに写真を見せ合う楽しみができたね」
犀川君は嬉しそうだ。
図らずも同じ趣味を持てそうで、私も何だかワクワクしている。
日記を書き怠っている間に、本当にいろんなことがあった。
まずは、あ〜あ、と思ったこと。
昨日、本当に久しぶりにハヤテに会った。
仕事の打ち合わせがあって、今年初めての顔合わせ。
もう、今更ドキドキワクワクはしないけれど、
久しぶりだったから、会う前までは多少は楽しみであった。
が、どうだろう…。
久しぶりに会ったハヤテは、哀しいくらいにくたびれていた。
髪は伸び、何だか脂っぽく頭に張り付いている感じ。
前からこうだったのだろうか?
私の見る目が変わったから?
ずっと、ハヤテはこうだったのだろうか??
最初に思わず目を見開いて、そんなハヤテを愕然としながら捉え、
すぐに目をそらして、それ以降、まともに見れなかった。
こんな哀しい姿をこれ以上、記憶に焼き付けたくない。
おまけに、哀しいくらい仕事の話も盛り上がらない。
完全に二人の関心事は異なってしまったようだ。
ああ、こんなもんだろうか。
だが、その距離を縮めたいとは、全く思わない自分がいる。
3年も恋焦がれた人なのに、
人の心はなんと移ろいやすいものか…。
帰り道の電車の中で、車窓を見ながらつくづく思った。
「ああ、犀川君が私の恋人でよかった〜」
もちろん、犀川君はハヤテよりも10以上若い。
肉体的な若さからくる、溌剌とした印象があるのは当然だ。
だが、それだけでは説明しきれない違いがある。
ハヤテはそもそも、だらしがないのだ。
もちろん、私はそこが好きだった。
一方、犀川君にはそういった所がまるでない。
そもそも几帳面だし、マメだし、ハヤテとは対照的なのだ。
はじめは、それが嫌だった。
もっと適当になってくれればと思っていたものだ。
ところが、付き合ううちに、几帳面でマメな性格が
私を幸せに導いてくれていることに気づいた。
たとえば、犀川君はとにかくマメで、よくメールをくれる。
犀川君に言わせると、他のことはあまりマメじゃないと言うが
こまめに私を気遣ってくれる。これが心地いい。
たとえば、犀川君と一緒に駅弁を食べたりしていると
食べ終わると同時に、てきぱきと片付けてくれる。
それでいて、細かいことは一切言わない。
私に何かを強いることもない。
私は私でいいのだ。それがとても居心地がよい。
すっかり私は、犀川君に染まっているわけだ。
となると、不安がなくもない。
ハヤテへの思いが消えた途端に見えてきたように
恋のフィルターが掛かって犀川君を見ている以上、
本当の犀川君がどんな人なのか、
私は冷静に見えてない可能性が高い。
ただ、それを差し引いても、
ハヤテよりも犀川君の方が私を幸せにしてくれる
可能性ははるかに高いことだけは明らかだ。
第一、犀川君はとても私を思ってくれているのが分かる。
それ以上、幸せになる条件があるだろうか。
ということで、「あ〜あ」と思いながら、
ついにハヤテとの恋を完全精算したミサトなのでした。
で、そんな犀川君とは雪暮れの旅に行ってきた。
好きなもの、感動するものがとても似ているので
とにかく楽しい旅で、あっという間に終わってしまった。
二人の距離がさらに近づいたように思う。
帰ってきてからも、毎日、あきれるほど仲良しで、
自分たちで「こりゃまさにバカップルだ」と笑っているほどだ。
付き合い始めてから、ずっと楽しみにしていた旅行だっただけに
終わってちょっと寂しくなった。
そうしたら、「次の計画をたてよう」と犀川君。
これまでの旅、これからの旅を記録するために
二人は今、アルバムを作っている。
犀川君は趣味の写真を。
私は趣味の水彩画を。
それぞれを互いに素材としてプレゼントし合い、
一緒にアルバムにはったり、コメントを入れたりして
二人の時間を刻むことにしたのだ。
「ずっとアルバムを二人で作ろうね」と犀川君が笑う。
今日は、「旅の写真が出来たよ」と連絡があった。
私も急いで、旅の絵日記を描かなくては。
こういうことが好き、を共有できるのは
こんなに楽しいものなんだな、としみじみ。
いつまでも、アルバム作りが続きますように。
昨年末。急遽思い立って一人旅に出かけた。
とはいえ、旅中、頻繁に犀川君とはメールで連絡を取り合っており
半ば、一緒に旅先をめぐったような錯覚に陥るほどだった。
別に、犀川君と何かあったわけではない。
年末に思わぬ時間が出来たのと、クリスマスに寝台列車を見て
急に旅に出たくなったのと、たまたま買った観光本に影響されたのと
ひとりで気持ちの清算をしたかったからだ。
このブログを書き始めた2006年8月。
私はハヤテに片思いをしていた。
生涯最愛かつ最後の恋だと思っていた。
ハヤテ以外の誰かに心奪われる日がくるなんて思いもしなかった。
ハヤテはそれまで出会った男たちとはまるで違っていた。
破天荒で予測不可能。流星のような彼に私は翻弄された。
あれから丸2年。正直、私は疲弊し切っていた。
そして、犀川君に出会った。
はじめは、彼がハヤテを超える存在になるなんて思いもしなかった。
ただ、犀川君の穏やかさに触れると
日だまりにいるみたいで、心地よさがじんわり心にしみた。
犀川君は決して、ハヤテのように私をドキドキさせない。
いつもジェットコースターに乗っているような時間を
私に与えるハヤテは、私を飽きさせないし、魅力的に映る。
ただ、ハヤテは私の気持ちを察することは絶対にない。
彼はいつだって自分本意で、彼の神輿に私は便乗するだけの話だ。
一方、犀川君は違う。
犀川君は自分の大切なものと、私の大切なものの間合いを考える。
そこにはジェットコースターのようなハラハラはない。
だけど、一緒に神輿を担ぐあったかい楽しさがある。
それは私の心を芯から温め、優しくする。
気づけば、私はその日だまりを心から愛していた。
時々は、慎重すぎる犀川君の言動に、イライラもさせられる。
きっと、犀川君にしてみれば、私という存在は
かつて私にとってのハヤテみたいなものだろう。
彼の背中を押しまくり、ぐいぐいリードする私をみて
犀川君は「ミサトさんといると楽しいなぁ」と笑うのだ。
時々、そんな私にペースを乱されて、
犀川君が疲れやしないか心配になる。
だから時々、私は確認するように「好きだ」と告げるのだ。
こんな心の変化がまさか自分に起きようとは思いもしなかった。
2008年の予想外の展開に自分が一番驚いている。
一人旅をしながら、しみじみ一年を振り返って思った。
ハヤテに恋をした。
片思いだったけど、心底楽しかった。
片思いだったから、とても苦しかった。
ハヤテは今でも仕事の上での同志だ。
きっとそれは、これからも変わらない。
ハヤテとの欧州の旅は一生忘れない。
あの時、結局、何もできなかった自分。
何もしてこなかったハヤテ。
あれでよかったのだと今は思える。
早朝のロビーでハヤテが言った「寂しいなぁ」。
あれを思い出すと今も胸が苦しくなる。
どうしても距離を縮める事ができなかった。
一時は、心が重なっているようにも思えた事もあった。
チャンスを逃したら、軌道は二度と重ならない。
それを思い知った恋だった。
でも、それでよかった。
ハヤテ、大好き。
幸せになってね。
私も幸せになる。
いつか、もっと年をとって
もう一度出会いたいね。
そうしたら、笑って
あの頃、ハヤテが好きだったと言えるかもしれない。
その時まで、この気持ちは封印する。
さよなら、ハヤテ。
私は犀川君の元へ行く。
犀川君に恋をした。
まさかまさかの年下だ。
年下の男と付き合うなんてあり得ないと思っていた。
2歳年下の弟がいるから、年下は苦手だったのだ。
ところがどうだろう。
タカ君には「年下はダメだ」と言って断ったのに
犀川君は事もあろうか、8歳も年下だ。
だから、はじめは、恋仲になるなんて想定外だった。
かわいい後輩だと思って話していた。
彼も油断していたのだろう。
奥手の犀川君が私だと気楽に何でも話してきた。
話すうちに、何だか気が合うと分かった。
価値観がとても似ていると気づいた。
はっとした時には、恋に落ちていたのかもしれない。
ふとしたきっかけで始めたメール交換。
気づけば、次第にやりとりの間隔が縮まり、
いつしか、互いの心の距離まで縮まっていた。
最初は互いに緊張して、会えば空回りしていたけれど
次第に打ち解けて、離れがたき恋人になった。
年の差は全く感じない。
時々、たまらなくかわいくなり、
時々、年上のように頼りになる。
犀川君も年の差は全く感じないと言い、
「だいたい年なんてどうでもいいし」と笑う。
気持ちが重なってしまうと、
年なんて関係ないのだと初めて知った。
そう自覚した時、
私の心の中から、ハヤテが消えていた。
そして今、私の心は犀川君であふれている。
心変わりは、驚くほどあっけなかった。
それでいい。
前へ進んだのだ。
これまで心変わりが怖かった。
だから、それをごまかすように刹那的に生きてきた。
相手に心変わりを促すような事も言ってきた。
心変わりされるのが怖くて先回りしていた。
そんな癖がしみついた私に犀川君は言う。
「ずっと一緒にいようね」
口先だけの人じゃないと知っているから驚いた。
誠実にそう言われると、先回りできなくなる。
今もまだ、心変わりは怖い。
怖いから、心底それを信用できない。
できないけど、信用してみようかなと思えるようになった。
こんなこと、人生で初めてだ。
犀川君は初めて、私に「ずっと」を約束してくれた男だ。
だから思う。
もう少し素直に、一緒に歩んでもいいんじゃないか、と。
心変わりしてもいいじゃないか。
心変わりしたからこそ、私は今幸せなのだ。
2009年は、怖がらず、犀川君と歩んでいく。
そう決意して帰ってきた。
新年早々、インフルエンザにかかった。
その間、犀川君がずっとメールで励ましてくれた。
私のそばには犀川君がいつもいてくれる。
そう思うと、病気でも心強かった。
もうすぐ…
犀川君と出会った昨夏に約束した「雪暮れ」を
二人で見に行く旅に出る。
この半年、互いにずっと心待ちにしてきた旅だ。
この旅で、二人の距離はまた縮まるだろう。
地味でも一歩一歩、今年も距離を縮めていきたい。
先週末から絶不調に陥り、昨日まで床に伏していたのだが、
今日は仕事上、どうしても外せない案件があったうえ、
犀川君が「僕も早く終わるから会いましょうか」と言い出したので
なんとしても這い上がらねば!と、根性で出社した(笑)。
根性で這い上がった甲斐あって、コンペを勝ち抜き案件ゲット!
これでひどい頭痛もかなり軽減されたものの、熱のせいか
悪寒→発汗→悪寒→発汗を繰り返して、ぐったり。
そのまま会社に戻るのはやめて、喫茶店で休憩して
犀川君と落ち合うまで、時間を潰すことにした。
夕方になって、犀川君から「東京駅で会いましょうか」と連絡。
待ち合わせの時間に東京駅に向かうと、中央線のホームで犀川君が
待っていてくれた。やあ、と声を掛けると、すぐさま「こっちこっち」と
足早に犀川君がホームのエレベーターを降りてゆく。
慌てて追いかけてゆくと、寝台特急富士のホームへ。
方向幕には「大分」の文字。なんて懐かしいのだろう…何十年ぶりだろう。
来年3月についに廃止が決まったブルートレイン富士。
私が幼い頃、毎年のように実家の大分に戻る際に家族で乗った、
思い出深い列車なのだ。あの青を見る度に、胸がきゅんとなる。
犀川君にとっても、特別な列車だそうで、
思えば、富士の話で盛り上がったのが、付き合うきっかけだった。
思いがけず、富士を間近に見て、切なさでいっぱいになる。
6時すぎ、東京駅を後にする富士を見送りながら、
しばし2人、ホームで黄昏れた。
その後、丸の内のライトアップされた町並みを二人で歩いた。
犀川君は「洒落臭い街だな〜」と笑いながらも
「なんかね、ここが注目らしいよ」と何げに詳しかった(笑)
「よかったじゃん、私と一緒なら洒落臭い所行けるっしょ?」と言うと
「うん、まあ」と照れ笑いをしている。
途中、カフェに入って、二人でケーキを食べた。
そのまま、体調もいまひとつなので午後8時半には東京駅でお別れした。
健全な二人だな〜(笑)でも、悪くない。
しばらくしたら、犀川君からメールが入った。
「しまった!プレゼント渡そうと思ってたのに、忘れた!」(笑)
思わず、メールを読んで、ぷっと吹き出してしまった。
「明日の夜、会社抜け出していつも喫茶店に行くからその時に渡すよ」
思いがけず、明日も会えることになってラッキーだと告げた。
それにしても…犀川君がプレゼントを用意してくれていたなんて!
私なんて、思いつきもしなかった(笑)
これまで、犀川君はあまり、こうしたことに無頓着だったこともあって
私の方もすっかり油断していたのだ。いやはや、驚いた。
「期待しないで」と犀川君は言うけれど、
何をくれるか、なんてことよりも、
その気持ちだけで、十分嬉しい。
それが最高のクリスマスプレゼントだ。
帰りの電車、嘘のように頭痛が消えていた。
「ちょっと時間が作れそうだから、ちょっとだけ会おうか」
夕方に犀川君からメールがあった。
夜8時にいつものカフェで待ち合わせ。
顔を出すと、既に来ていた犀川君がニッコリ笑って出迎えてくれた。
青森・秋田への旅について、あれこれまた相談した。
ブルートレイン好きの二人なので、あけぼので青森まで行く。
やれ、B寝台にするか、個室にするか。
やれ、上野で乗り込む前に風呂に入れるかどうか。
やれ、上野で乗り込む前に夜ご飯どうしようか。
やれ、翌朝の朝ご飯はどうしようか?車内販売の駅弁か?
やれ、その翌日はどこに泊まろうか。温泉宿がいいな。
まだ犀川君と出会って間もない頃、彼に勧められた鉄道の写真集があった。
その中に、「雪暮れ」というタイトルの写真があった。
雪深い里にある小さな駅の夕暮れに、しんしんと雪が降る場面。
雪が積もる音以外は静寂だけがあるような、そんな写真。
すっかりこの世界観に魅せられて、見てみたいと言い出したのが
今回の旅プロジェクトの始まりだ。
ところが、この駅、とっても電車の乗り継ぎが悪い。
ここを目指すと、他の予定がすべて超タイトになってしまうという。
なので、「いいよ、ここ、行かなくて」と言うと
「でも、ここに行きたかったんだよね、ミサトさん」と犀川君。
「うん。でもさ、時間的に余裕があるわけじゃないしね。いい、いい」
「それじゃね、この駅じゃなくてもいいなら、この写真よりももっと
素敵な駅が他にもあるんだよ。そこに連れて行ってあげる」と犀川君。
「おお!それで十分。そうしよう、そうしよう」と私。
電車の乗り継ぎ等、鉄道周りの一切は彼に任せておけばよい。
私はかわりに、宿を探すことにした。
犀川君と初のお泊まりとなる宿である…。
雪深い街をさんざん歩いてたどり着く先だから
私としては温泉宿でゆっくり湯を楽しみたい。
食いしん坊なので、できればご飯がおいしい方がよい。
欲張るときりがない。でも、一番は、
なんとなく、雪深くて静寂で、まるで二人しかいないみたいな
そんなロマンチックな宿がいい…なんて夢は広がるばかりだ。
「雪でも見に行こうか」と犀川君が言い出した。
雪が好きだ、雪が好きだと私がよく言っていたからだろうか。
冬の青春18きっぷが届いたから、ゆっくり行こうかと犀川君。
たくさんの食べ物を買い込んで、グリーン車に乗り込んで、
仲良く並んで、話したり、手をつないだり、寝たりして電車を満喫。
「こんなデートでごめんね」と犀川君は言うけれど
実は私は電車に乗っているのが好き。
おまけに、電車内で食べるのが、幼少の頃から好きなので苦でない。
もちろん、犀川君と付き合うようになってから、
鉄道を意識するようになったけれど、こういう方が楽しいのだった。
そう言うと、犀川君は気を遣ってくれているでしょと笑う。
でも、二人がけのシートの列車は、ずっと二人で寄り添えるので
こんなに楽しい乗り物は、そうそうないのではないかとさえ思う。
そう言うと、犀川君は「ミサトさんはエッチだね」と笑うのだ。
天気予報がはずれて、結局、雪は降ってなかった。
それでも、風は剃刀のような鋭い冷たさで、すぐに喫茶店に入った。
「犀川君とこれからいろんな所に行ってさ、
行く先々で犀川君は鉄道を堪能する。
私は行く先々で駅弁を堪能し、カフェを探すというのはどうだろう?」
そう言うと、犀川君は目を輝かせながら「いいね!それ」と賛成してくれた。
そして、二人で初の泊まりがけの旅として、秋田へわっぱを買いに行こうと
いうことで盛り上がった。偶然に二人して、わっぱが欲しかったのだ。
ぽっかぽかの喫茶店の中で、私は旅のしおりとなるイラスト入り
行程表を書き、犀川君は時刻表でスケジュールを決めていった。
喫茶店にあったナプキンに書き込んだ旅のしおり。
途中、鉄道の写真を撮影に犀川君が席を外している間に
もう一枚のナプキンに同じ行程表を書いて、犀川君にプレゼントした。
「いいね、こういうの」と喜んでもらえて嬉しい。
これから、旅の予定をたてる際には、毎回、こうしてしおりを作ろう。
このしおりの数が増えるたびに、私たちの仲がますます深まりますように。
今日は久しぶりに、ミーティングでハヤテに会った。
会合場所にやってきたハヤテは、何だか、疲れきった顔で
髪もねっとり頭にはりついていた…。そして開口一番、
「体調わりぃ。目覚めたら、カラオケボックスの床に寝てた…」だそうだ。
相変わらず、仕事なのか、遊びなのか、その境界すら曖昧な中で
風呂にも入らず、家にも帰らず、年甲斐もなく徹夜する生活を繰り返している。
以前の私なら、これら全てが愛おしく感じたというのに
なぜだろう、今日は全く心動かされることもなく、シラッしていた。
むしろ、なんで、こんなに小汚い風貌の男に惚れていたのだろう?と
不思議に思えるほどだった。いよいよ、恋の魔法は解けたらしい。
恋している目は本当に不思議だ。
何もかも美しく、何もかも素敵に変えてしまう。
恋のフィルターは本質を歪ませてしまうことを、経験で知っているのに
何度恋しても、この魔法に落ちてしまう。
この恋こそは本物。
この恋こそは最後。
そんな切実な思いに突き動かされて、激情に身を焦がしていたのに
恋の嵐が過ぎ去ってしまうと、何もかもが幻のように朧だ。
あれだけハヤテが好きだったのに。
何もかも投げ打っても、ハヤテだけは欲しいと思っていたのに。
ハヤテさえいえば、他に何も要らないと本気で思っていたのに。
嘘のように、全ての感情が消えてしまった。
今はむしろ、本当に好きだったのかな?なんて疑問ばかりが浮かんでくる。
どうやら、私の心はすっかり犀川君に染まったようだ。
相変わらず、彼の煮え切らない態度にはイライラは募るけれど
それでも、犀川君に夢中であることに変わりはない。
ミーティングが終わり、ハヤテと別れた後、
無性に犀川君に会いたくなった。
無論、年末の仕事に忙殺されている犀川君に会えるはずもない。
なので、唐突だけどメールで「大好きだ」と送った。
すぐに犀川君から「僕も大好きだよ」と返ってきた。
じんわり胸の奥があったかくなる。
これが幸せというものか。
こんなにあったかくしてくれるのは、
今は犀川君以外にあり得ない。
いつか、魔法が解ける日が再び来るかもしれないけれど
ずっと一緒にいる努力をしましょうと言ってくれた
犀川君を信じて、私も努力しようと誓ってみた。
なんとなく、「私のことまだ好き?」ってメールで聞いてみた。
「まだってどういう意味?愛してるよ」とすぐに犀川君から返事がきた。
「ふふん、そうか、よかった」と返事したら、
「ミサトさんは??」と聞き返されて、「好きだよ」と返した。
その夜、犀川君が「まだ好き?って聞いてきたということは、
もしかして、僕の愛してるオーラが足りないのかな?と
心配になりました」と大まじめなメールがやってきた。
愛してるオーラて何だ?(笑)
あの生真面目な犀川君の口から、こんな言葉が飛び出すなんて!
ほんの少し、不安の影が忍び寄ってきていたのに、
この言葉ですっかり飛んで、大笑いしてしまった。
それでも、犀川君は相変わらず仕事の鬼で、なかなか時間がとれずにいる。
一度、帰りがけに喫茶店で落ち合ったけれど、すぐに犀川君は会社に
戻らなきゃと言って、寂しそうな目をしながらも去っていった。
初お泊まりの話もしていたのに、約束の日にちが近づいてきても
話を一向に進めないなと思っていたら、いきなり、仕事だと言い出して
結局、この話はぽしゃってしまった…(´Д`|||)
私はいろんな心労がたまったのか、辛口韓国料理の食べ過ぎか…(笑)
胃を再びぶち壊して寝込むと、今度は私の体調を口実に、無理しないで
近場へ出掛けようとか何とか…。
もう、うじうじうじうじ、意気地なし!!!
「ちょっと、会いたくないなら、年内は会わなくて結構よ」と言うと
今度はあわてて、会いたいに決まっているじゃんかと返事を寄越す。
こんな調子だから、クリスマスどころではない。
久しぶりにちゃんとした恋人ができて、人並みにクリスマスに
ロマンチックな思い出を…なんて思っても、夢のまた夢だ…。
そもそも、犀川君自身、こういう事に無関心で、好きじゃないと言っていた。
当然、嫌いなだけあって、まったく気づかないし、配慮がない。
イライラしながらも、悟られないように、それでいて、断言するように
「もう年内はいいよ。でも、年明けに初詣くらい行きたい。それくらい
時間を作ってくれてもいいと思う。仕事で作れないなら別れる」
そういうと、「初詣行こう。どこがいいか、相談しようね」と
あまり危機感のない回答が戻ってきた…orz
なんとも、感情がうまく噛み合ない…
多分、愛し合えてはいるけれど、どうも、波長が合わない。
好きだ好きだと言うわりに、まるで行動が伴わない犀川君に
私のイライラや不満は募るばかりだ。
今の私は、優しい言葉なんて欲しくないのだ。
オーラなんて要らない。確実に抱き締めてほしいだけなのだ。
この不安は、ロマンチストの彼には分かるまい。
いつもなら、犀川君よりも早く家を出る私が、バス停でバスを待っている時間、
犀川君がちょうど起きようかどうしようかという時間に私はメールを送る。
おはようと挨拶し、今朝の気温だとか天気だとかを告げるためだ。
だが、今朝は送らなかった。
なぜなら、犀川君が昨夜、遅くまで仕事をしていたのを知っていたので
ゆっくり寝せておこうと思ったのと、きっと今朝も気分はよくあるまいと思い
そっとしておこうと思ったからだ。メールが来てないと残念に思うだろうが
着信音で目覚めさせてしまうのが、何だか今朝は気がひけた。
すると、いつもメールを出すよりも1時間後くらいに、犀川君から
おはようメールが届いたが、行間から元気のなさがにじんでいた。
何だか、私の方まで気分が滅入りそうになるが、なるべく忘れる事にした。
仕事中、何度かメールが来ていたが、「無理をするな」と送った。
「今日は早めに仕事をあがります」と連絡があったので、
「そういう日はさっさと家に帰ってゆっくり休め」と励ました。
「優しいですね」と犀川君は言うけれど、
決して優しさから出た言葉ではなかった。
正直、だんだん面倒になってきただけで、
決して犀川君の心に寄り添って出た言葉ではなかったから後ろめたい。
違う、違う。私は本当の意味で、君の心の痛みが分からない。
なぜ、そんなに落ち込んでいるのか、迷っているのかが分からない。
「すいません、よくあるんです」と犀川君は言うけれど
なぜ、よくそういう事態に陥るのか、きっかけが何なのかが分からない。
多くを語ろうとしない犀川君に、理由を尋ねるのも気が進まない。
そりゃ人間だもの、落ち込むこともあるのは分かるけれど
何だかこうして付き合うようになってからというもの、
犀川君の落ち込んでいる時間は、かなり長い。
半分くらいはナーバスな時間で、会うことすら叶わない。
楽しい時間はほとんど幻にように思えてくる…。
こんなもんでしたっけ?
仕事がどんなに多忙でも、ほぼ連日のように深夜に落ち合事だって
これまでの恋愛ならば当たり前のようにあった。
落ち込んで会えない…なんて言い出す男は皆無だった。
皆、もっとバイタリティがあり、もっと欲望に忠実で、もっと楽天的だった。
犀川君はこの先も、5割の確率で鬱な時間を過ごすのだろうか。
私は残り5割の躁の時間のうち、彼が恋愛に割いてもいいだろうと
計算した1割弱程度の時間をいただいて、思い出を重ねるのだろうか。
単純計算して、1年のうち6カ月は鬱状態で会えない。
残り6カ月の1割弱としたら、わずか18日。
20日に1回会えればいいという計算になる。
同じ会社にいるというのに、この数字だ。なんて驚異的なんだろう。
この事が、つまり彼の言う「ゆっくりいく」という事なんだろうか?
そりゃ、たしかにスローなペースだ。
スローな恋。スローな進展。スローな愛情。
さ〜て、私の我慢はどこまで耐えうるのだろうか。見物だ。
時々、何とも言えない気持ちになる。
犀川君は私が想像していたよりも、はるかに繊細だ。
決して弱いわけではないのだが、ガラス細工のようで触れるのが怖くなる。
その薄くて壊れそうなココロの外側には、見えない強固なバリアもある。
そのバリアは時として、私の声すら通さない。
バリアの向こうで、力なく犀川君は笑うけれど、
私はバリア越しにそのはかない笑顔をただただ見つめるだけだ。
そんなことが、しばしば、ある。
要は、「気難しい」ということになるのだろうと思う。
ぱっと見、好青年だし、決して暗いわけでもなく、話にもユーモアがあり、
品のよさと賢さがにじむ犀川君は、おそらくモテないわけでもないだろうが
彼はおそらく、ほとんど女性と付き合ってこなかったはずだ。
本人もそう言っているし、態度からも想像がつく。
最近、なるほど、と思うのは、その「気難しさ」だ。
彼のこの「気難しさ」に付き合うには、根気がいる。
こちらまで神経質に、これに付き合っていたら、気持ちがまいってしまう。
ある程度、聞き流し、ある程度、無視するくらいの余裕がなければ
おそらく相当イライラもするし、翻弄されてしまうだろう。
なんで、こんなに年が離れてる私を好きなんだろう?と不思議だったが
なるほど、こういう彼の性格に付き合うには、年上の方が向いているのだ。
それでも、時々、何だか彼の不安が伝染して、こちらまで不安になるから困る。
はあ、本来の私は、もっと全面に相手に甘えたいのだ。
甘えられるなんて、まっぴらなのに、
相手に先に甘えられてしまうと、嫌だとは言えない性格なのだ。
誰かに思い切り甘えたいなあ。
そして、笑って頭をなでて安心させてほしい。
近頃、私がしっかりしなくっちゃ!明るくいなくっちゃ!と
ついつい気が張ってしまって、気づけば精神が結構疲れてしまっている。
無理する必要なんてないのに、勝手に気負ってしまうのだ。
やっぱり合わないのかな…なんて思う今日このごろ。
それでも今更、安心しきった犀川君を放置して他には行けない…。
すっかり更新を怠っているうちに、
私と犀川君の間にどんなことがあったのか、細かい事は忘れてしまった。
ただ確かなことは、小さな紆余曲折を重ねながらも、
それなりに順調に気持ちを重ね合い、仲良くやっているということだろう。
この間は二人で秩父まで遊びに行ってきた。
なんで秩父?と最初は思ったけれど、鉄道好きな彼の好きな
西武鉄道のレッドアローに乗ることもかねていた。
偶然にも紅葉がきれいだったし、偶然にも秩父に着いたら
SL列車がやってきて、じゃあせっかくだからと乗り込んだり、
ダム好きな犀川君のリクエストで浦山ダムを訪れたら
思ったよりも素敵で、なかなか愉快な旅ができて大満足。
彼の趣味は私のこれまでの人生ではあまり体験することが
なかった事ばかりで、想像以上に刺激的で面白い。
今ではすっかり、二人でどこかに旅するのが趣味になってしまった。
相変わらず彼は多忙で、相変わらず時々、ココロに余裕がなくなり、
相変わらず小さく凹み、相変わらず私には理解不能な面もあるけれど
それでも毎日、好きだと言ってくれ、
それでも毎日、こまめにメールを寄越してくれ、
それでも毎日、ずっと一緒にいようと言ってくれ、
そんな人はこれまでの私の人生にはいなかったな、と思うと
犀川君という存在がどれほど私にとって貴重なものか痛感する。
思えば2008年は犀川君に出会い、犀川君に恋をした。
ただそれだけの人生で、他はあまりぱっとしなかったけれど
でも、これ以上の幸せは他になかなかあるまいと思うと
十分な一年だったように思う。
そう、だから、2008年を振り返った時、最大の収穫は犀川君という事になる。
先週、ハヤテのリクエストで、ミーティングの後、牡蠣を食べに行った。
互いに牡蠣が大好物とあって、大いに注文し、大いに食べ、大いに飲んだ。
ハヤテは珍しく弱気になっていて、終始彼の相談事を聞いていた。
「大丈夫!」と励ますたびに、弱々しく微笑むハヤテを見て
内心、もう私をあまり頼っちゃいかんよ、とつぶやいた。
距離をとろうとすると、ハヤテはすぐに、その距離をつめてくる。
でも、もう遅い。私のココロはもう、ハヤテから離れてしまったのだ。
相変わらず、ウマはぴったり合うけれど、致し方あるまい。
その翌日、犀川君が夕方、ちょっと会いませんかと連絡してきたので
いつもの喫茶店で落ち合った。
会社を出る直前、上司に凹む話を聞かされて、ブルーな気分で顔を出すと
犀川君は既に来ていて、「今日はもう帰れるんだ」と笑う。
その笑顔を見たら、なんだかほっとして、愚痴りたくなった。
「なーんかさ、会社、辞めたい気分」
そう言うと「じゃ、辞めちゃおうっか、一緒に」と犀川君が笑う。
「僕が今の職業じゃなくてもいいでしょ?」と続けて聞くので
「職業を好きになったんじゃないもの。犀川君が好きなんだもん」
そう応えると、犀川君は照れながらも、嬉しそうに笑って
「じゃ、菅平で喫茶店でもやるか〜。カモミールティ出してさ」
と、以前、二人で冗談で笑っていた話を持ち出した。
「いいねー」と二人で笑ったら、少し気が楽になった。
会社のことなんて、どうでもいいじゃんと犀川君は言う。
どんな仕事をするか、会社じゃなくて、中身。
そっちのほうが大事だと言う。そりゃそうだ。
少し気が楽になった。
日曜日、犀川君が会おうと言う。以前の忠告が未だ活きている。
無理しなくていいと言ったのに、会いたいからと言ってきかない。
友達と徹夜ごしの約束があったのに、そのまま、会いにきてくれた。
嬉しいけど、身体がちょっと心配だ。
それでも、顔を見たら、思ったよりも元気そうで安堵。
二人で海の見える駅で、お弁当を食べて、ぼんやりした。
歩く時はいつでも手をつなぎ、人目をしのんでキスをして
口を開けば、好きだ好きだと連呼する…
こんなにデレデレでいいものか…と不安になるけど止められない。
そして、犀川君は「ずっと一緒にいようね」と微笑むのだ。
ああ、こんな風に言われたら、未来に期待をつないでしまう。
ずっと一緒にいるなんてことが、本当に可能なんだろか?
「僕は本気です」とまじめな犀川君は繰り返す。
もちろん、私だっていい加減な気持ちで付き合っているわけではない。
が、「ずっと」は「永遠」に近い意味を持つ。
「ずっと」は「継続」を意味するのだ。
犀川君と話している時に、ふと思い出と匂い、思い出と音楽の
関係性についての話になって、何気なく「いつか、犀川君が
私とのことを思い出す時、どんな匂いと共に懐かしい気分に
なるんだろうな〜」と言ったら、鋭く「それじゃ、まるで
別れることが前提みたいじゃないですか!」と突っ込まれて
「うっ」と詰まってしまった。「別れるのが前提なんですか?」
とまっすぐに見つめられて、「いえ、違います…」と私。
「ずっと一緒にいたいな、僕は」と訴えられて、切なくなった。
ずっと一緒にいようね、なんて、思えば初めて言われたのだ。
そんなこと言ってくれる人って、最初で最後だろうなあ。
こういう、まっすぐなとこに、どんどん引かれてしまって、
今ではすっかり、犀川君にメロメロ状態。
傷ついてもいいから、今回は「ずっと」を信じてみようと思う。
なんとなく、テンションが低いまま、それでもメールの文面では
なるべく悟られないように明るく装ったつもりだったけれど、
犀川君は敏感に何かを感じ取って不安になっていたらしい。
私の方はすっかり疲れてしまって、昼すぎまで寝ていて
目覚めたら、早朝に犀川君がおはようメールをくれていた事に気づき
おはようとはとても言えない時間に、おはようメールの返事を送った。
すると、すぐさま犀川君から返事がやってきて、
「よかった、寝てただけなんだ」と安堵した様子だった。
「どうしたの?」と言うと、「ずっと返事がなかったから、
何かあったのか、嫌われたのか、どっちかと思って心配した」と言う。
仕事だと言っていたのを思い出し、「仕事がんばってね」と書いて
送ると、「ありがとう。これで安心して出かけられる」と返事がきた。
私の方は、今日はあまり考えすぎず、ぼうっと過ごそうと決め込んで
そのままメールには返事を出さず、家で本を読んで過ごしていた。
すると、1時間ほどしてから、犀川君からメールが来て、
「結局、仕事に行かずに茫然としてしまいました…」と言う。
どうしたのかな、と思いつつ、「では、ゆっくり休んで下さい」と
返したら、「僕、嫌われましたかね? 何かあれば言ってくれると
嬉しいんですけど」と返ってきた。きっと私の返事がそっけないと
感じて不安になったのだろう。メールのやりとりだけだと、
どうしたってこうやって不安になる。だけど、それを望んだのは
君なんじゃないか?…と思わずにはいられない。
どうやって返事をしようかと迷っていたら、時間だけが流れていった。
するとまたしばらくしてから、犀川君から長文メールがきた。
要は、どうやら私が気分を害してしまったようだというのは
分かるけど、その理由が明確に分からない。だから、その理由を
聞きたいというのと、私の気持ちが覚めてしまったのではないかと
とても不安だけど、僕の気持ちは一向に変わらないというのを
とにかく伝えたい、ということだった。
一所懸命な気持ちが伝わってきたので、私も正直に不満をぶつける
ことにした。
私が時々、不安定になる理由として、一つだけ犀川君の事で理解に
苦しんでいるところがあります。
犀川君が現在、仕事がとても忙しいこと、そして犀川君にとって
一人の時間がとても重要であること、これらについて私は理解し
ているつもりです。でも、平日にそんなに時間がとれないならば
たとえば今日みたいに、休日にぽっかり空いた時間ができれば、
それを調整して二人の時間を作るというのが普通だと思うんだけど
犀川君は、それをしないよね。それでいて、時間がないけど会いた
いと言う。ん?って私には思えてしまう。本当に会いたいの?って。
それとも休日に会うのは負担かな?
犀川君はメールで甘い言葉を掛け合っていれば満足かもしれないけど
私はそれではやっぱり不満です。言葉だけだと実体を感じられず
相手の体温を感じてないと私は不安になります。だから、私なら
時間を作る。でも、それは私の考えであって、押し付けるつもりは
ないです。とはいえ、この考え方の相違について、私が今、躊躇っ
ているというのは事実です。だからといって、この躊躇いが、
嫌いになったということを意味しているわけではないのだけれど…。
犀川君は、すぐに「そう言われたからという訳じゃないけど、
明日、もし時間があれば会ってくれませんか?」とメールを寄越した。
嬉しかったけど、なんだか、無理矢理、誘導したみたいで、気持ちの
座りが悪い。それに、今度ここで、犀川君に無理をさせたら、単に
無理をする立場が入れ替わるだけで、意味がない。会うならば、
犀川君が私の気持ちに、少しでも共感してくれていないとダメだ。
「明日会いたいから言ったんじゃないよ。犀川君の考え方について
聞きたかったから言ったんだよ」と返した。
「会いたいというのは、いつでも本当です。負担でもないです。
言い辛かったと思いますが、言ってくれて本当に嬉しい」と犀川君。
「それはよかったです」と返すと、とにかく会いたいと返ってきた。
無理にいいと何度も断ったが、どうしてもと粘る犀川君。
すぐに「そうですか」と引き下がると思ったのに、今回ばかりは
私がうんと言うまで絶対に引かないぞ、という決意が感じられた。
正直、あまり気が進まなかった。なんだか照れ臭いのもあった。
でも、ここであまり意地を張っているのも、大人げない。
最後は根負けする形で、「じゃあ、何時にどこに行けばいい?」と
聞くと、「よかった。じゃあ、海を見に行きましょう」となり、
翌日、海に近い駅の改札口で朝10時に待ち合わせた。
翌日、やっぱり気持ちはいまひとつ乗っておらず、
気まずいな〜と思いながら約束の場所へ向かった。
一足早く来ていた犀川君が、改札のところで待っており、
気づいて目が合うと、笑いながら手を振っていた。
見れば、髪を切って、少年のようになっていた。
「髪切ったんだ、かわいいね」と言うと、照れ笑いしていた。
その顔を見たら、何だかわだかりまりが、一気に消えた。
一方、犀川君はしばらく不安げに私の顔を何度も覗き込み、
「どうしたの?」と声を掛けると、何でもないと言って笑った。
海へ行って、二人で岩場に腰をかけて、手をつなぎながら
ぼうっとしていると、犀川君が「安心したら眠くなった」と
ぼそりと言った。「何に安心したの?」と聞くと、
「ミサトさん、笑っててよかったなと思って」と言うので
「なんだそりゃ」と笑うと、「昨日、すごく心配でさ」と言う。
「仕事に行こうと思って、仕事の格好してさ、家の鍵かけたんだ。
でも、どうしても気力がわかなくて。ミサトさんからのメールが
気になっちゃって、何も手につかなくてさ。ミサトさんのメールは
素っ気ないし、なんか嫌われたのかと思ったら不安で仕方なくて。
ようやく会ってくれると言われても、夜、心配で寝れなかったんだ」
力なく笑う犀川君が、とっても切なそうな目でこちらを見る。
「そっか、そんなに心配だったんだ」と言うと、こくりと頷いた。
「だから、今日会えて、本当に嬉しいし、ほっとした」と言って
犀川君が急に抱き締めてきた。ちょっと肌寒かったのであったかい。
「私も会うまで何だか気が引けていたんだけど、顔見たら消えた。
やっぱり、こうやって会って、体温感じた方が早いと思わない?」
そう聞くと、犀川君は「うん、思う」と言ってキスをしてきた。
不器用で、奥手の犀川君にしたら上出来だ。
犀川君は夕方に用事があるというので、昼すぎに駅に向かった。
駅のベンチで手をつないでぼやっとしていたら、犀川君が
「また来週会おうっか」と笑った。「いいよ、そんな無理しないで」
そう答えると、「無理じゃないよ。会いたいんだよ」と言う。
「ミサトさんが言ってくれたおかげで、なんか吹っ切れた」と
犀川君は言う。本当に無理をさせていないのだろうか。
ちょっと心配にはなるけれど、自分勝手な私は嬉しさが勝ってしまう。
犀川君は帰り際、海にお茶のペットボトルを置き忘れた事に気づいて
自分で驚いていた。「僕、忘れ物ってほとんどしたことないのに
ショックだなあ」と笑う。「海で何してたんですか?」と笑うと
「つい、我を忘れていたんでしょう」と犀川君も笑う。
「我を忘れるほど何をしてたんですか?」とさらに突っ込むと
「キスですよー!」とまたもや脇腹をくすぐられた。
これだけ戯れ合えるならば、もう大丈夫だ、多分、しばらくは。
別れた後に、「これでまた二人の距離が近くなった気がする」と
メールすると、「僕もそう思う。言ってくれてよかった」と
犀川君から返事がきた。
素直になるのは難しい。本音をどこまでぶつけていいものか
毎度躊躇ってしまう。でも、これまで本音をぶつけず我慢して
いい結果に結びついたことは皆無だ。今回は極力素直になろうと
決意したのだから…そう思っても、今回だって言うまでに多少の
時間を要してしまったし、言うまでの間、私の情緒は乱れ、その
影響で犀川君まで極度の不安に陥れてしまった。
こうしたことが今後もないとは言えないだろう。
次回も、二人の距離を近づける試練だったと、最後に笑えれば
いいけれど…どうなることやら。
ただ、今回一つのことを発見。
相手が年下だと、思いのほか、私は素直になれるらしい。
そして、相手が年下のほうが、思いのほか、甘えられるらしい。
これは実に驚きの発見だ。私のこれまでの思い込みを見事に
裏切る結果だからだ。いやはや、食わず嫌いはいかんもんだ(笑)
あれから…
私も犀川君も気持ちがより高まり、メールでは連日
甘い言葉をささやき合い、会いたい、会いたいと繰り返していた。
相変わらず、仕事が多忙だと犀川君はゆっくり時間がとれず、
昨日は夜にちょっとだけ、と言って、いつものカフェで
小一時間ほどお茶をして別れた。
その夜、メールで、明日も会いたいと話していた犀川君は、
今日の夕方になって再び、会いたいと言い出して、
再び、いつものカフェで落ち合った。
金曜日だというのに、相変わらずゆっくり時間は作れないらしい。
後からやってきた犀川君は、嬉しそうに封筒の中から
自慢の風景写真を取り出して見せてくれた。
趣味で長年撮り続けているだけあって、
なかなかの腕前だということが素人の私にも分かるほど。
仕事帰りにふらりと鉄道の写真を撮りに行ったり、
休日、ふらりとカメラ片手に出かけて撮影したりするのだそうだ。
嬉しそうに写真の話をしている彼はそれでも
とても疲れた表情をしていた。
「今日も何だかすごく忙しくてさ」とため息まじりに言う。
「やっぱり金曜日は(疲れがたまって)ダメだな」と言うので
「私は翌日休みだと思うと、金曜日は精神的に楽だけど」と言うと
「だって、明日は休みじゃないもん。午後から仕事」と犀川君。
ところが「え〜、仕事なのか〜、かわいそうに」と同情したら、
「いや、でも1時間くらいで終わるんだ」と言う。
「その後は、都内をぶらぶらしに行くんだ」と嬉しそうに言う。
休日の午後、都内をあてもなく歩くのが好きなんだそうだ。
…だけど。
一瞬、その台詞を聞いて、私は凍り付いてしまった。
え? 1時間仕事して、後は都内を散歩?
むちゃくちゃ忙しいんじゃなかったっけ?
なんだ、結局、自分一人の時間の確保が最優先なんじゃん。
それでいて、会いたいけど、会う時間がない???
この奇妙な矛盾を彼はどういう精神で受け止めているんだろう?
私にはさっぱり理解できないんだけど。
こんな思いが瞬時に頭を駆け巡り、笑顔が引きつっているのが
自分でもみじめなほど分かった。が、どうすることもできない。
「へえ〜、そうなんだ」と、引きつった顔で笑って答えると
犀川君は、「いや、仕事だよ、明日は」と
まるで言い訳でもしているように言っていた。
「ですよね」と、私もどこか上の空で答えた。
休みがあるたびに会ってくれとは言わないけれど
平日だって、仕事後にゆっくり会う時間がとれないならば
互いで調整して休日に会うしかないじゃないか。
毎度毎度、カフェで小一時間、顔を合わせるだけで
「密会みたいだ」と喜べる犀川君はいいけれど
私はたまには、うまい肴とうまい酒を飲んで
ほろ酔い気分で浮かれたいのだ。
まあ…、犀川君はそもそも大して飲まないけれど。
そろそろ職場に戻るという犀川君が、カフェの階段を降りる時
脇腹を手でついて、ちょっかいを出してきたのだが
思わず、「私に触らないで」と真顔で言ってしまった。
犀川君は一瞬ひるんで、苦笑しながら「哀しいな」と言っていた。
内心、哀しいの私の方だと叫んでも、言葉にはならない。
別れて夜道を早足で歩いていたら、急速に覚めていく。
思わず、「ばかばかしい」とつぶやきながら歩く。
犀川君は所詮、一人の世界が一番大切なのだ。
分かっていたはずじゃないか。
少々腹立たしい思いでいたら、犀川君からメール。
「会えて幸せな気分になれた。ありがとう。大好き」だと言う。
どこまでも鈍感で、どこまでもノーテンキだな。
気分がのっている私なら、迷わず「私も大好き」と返すだろうが
どうしても、「大好き」という言葉を使うことに抵抗があった。
「こちらこそ、ありがとう」という返事にとどめていたら、
「気分害した?」と犀川君。
「いや、なんで?」と聞くと、メールに元気がないからと言う。
そりゃそうだ、事実、元気がないのだから。
すると犀川君が「ミサトさんは僕にとって、かけがえのない人
です。大好きです。また会ってください」と言ってきた。
思わず、携帯から目を離して、強く目を瞑る。
何だか、どうしようもなく、いたたまれない気持ちになった。
きっと、一人の世界が最優先の犀川君は、
以前指摘した通り、メールで愛をささやき合うのが好きなのだ。
そこに実体は別にあろうがなかろうが、大差ない。
本人はそんなことないと言うだろうが、
私から見れば、大差ない。私である必要なんてなさそうだ。
なのに、かけがえのない人だと言うのだから、摩訶不思議。
分からない、全然分からない。
ありがとうと返事をしたら、すぐに
「僕もミサトさんにとって、そういう存在になりたいです」と
けなげにも犀川君は返信してきた。
「そういう存在ですよ」と無表情でメールを打って返信した。
その無表情を隠すつもりで、文末には絵文字まで入れたが
私のこの複雑微妙な気持ちを隠すことができただろうか。
笑顔の顔文字を入れるだけで、どんなにこちらの顔が
ひきつっていようが、気持ちが覚め(冷め)始めていようが
メールの文面からは分からない。あくまでも、受け手は
メールの文言から相手の気持ちを推測することしかできない。
犀川君は、笑顔の顔文字とともに、「ありがとう」という
単語から相手の気持ちを察するよりほかないのだ。
そして、犀川君は「ありがとう」「大好き」を連発。
私の方は、気持ちがドン引きしながらも、
犀川君に合わせる形で、同じような言葉と笑顔の顔文字を
随所に挿入して返信した。これでいいのだ。
明日になったら、今よりも少しは落ち着くだろう。
落ち着けば、たとえ一人の世界を最優先していても
それでも犀川君が好きだと思えるようになるだろう。
だけど、今日ほど、彼の「大好き」という言葉が
嘘っぽく聞こえたことはない。
かけがえのない人か…。それでも私という存在は
未だ彼一人の世界に勝っていないという事だけは事実。
「今日中止になったみたいだよ」とは上司。
「はあ?」と聞くと、なんでもハヤテの体調が悪く、ミーティングに欠席すると上司のところに昨日連絡があったらしく、ハヤテと彼の後輩とで、日程を再調整してね、と言ったまま、話がうやむやになって、ミーティング当日を迎えたという。
「なったみたいじゃなくて、中止にするんですね?」と確認すると、「○○さん(=ハヤテ)が来れないと意味ないからな〜」と上司がぼやっと答えるのに苛立ち、「いいです、中止の連絡をメーリングリストで流しますから」とぴしゃり。まったく、どいつもこいつも、はっきり決断しない男ばかりだ!
そもそも、ハヤテはハヤテで、私の上司にSkypeで休むかも〜と、適当なことを言うのではなく、メーリングリストに欠席します、と投げれば話は済んだのだ。上司は上司で、その場で判断して、ハヤテが欠席ならミーティングを延期しましょう、日程再調整お願いしますと投げれば、これまた済んだ話なのだ。何の為の情報共有メーリングリストなのだ!(怒)
怒りに満ち満ちて、延期と日程再調整をお願いするメールをメンバーに投げた。「○○さん(=ハヤテ)に日程再調整をお願いしても無駄なので、△△さん(=ハヤテの後輩)、申し訳ないですけど、再調整お願いします」と書き添えた。これくらい言ってやらないと目が覚めないのだ。
すると、メール配信後、すぐにSkypeで話しかけてきたハヤテ。
「ここ2日、会社休んでたんだ」と言う。
「あんな生活してりゃ、風邪も悪化するわい」と私。
mixiの日記によれば、超無謀な徹夜を繰り返していた。
「今、会社に来たんだけど、すまん」とハヤテ。
「はあ?出社しただと?何してるんだ、今すぐ帰れ!」と私。
「うーん、でもなー」と煮え切らないハヤテに「そんなんだから、いつまで経っても治らないだ」と言い放つと、力なく「そうだね」とぼそり。あまりにも弱々しいので、さすがにかわいそうになり、「あのさ、だから、とにかく早く帰って、ちゃんと治さなきゃだめだよ。ミーティングは来週でいいから、ね」と言うと、「うん、わかった。すまん」と元気がない。
それにしても…、どうしてこんなにハヤテはいい加減なんだ。
風邪をひくのは仕方ないとしても、そもそも、生活がいい加減すぎる。それを律することはなく、弱るとすぐに甘えてくる。何でも許してくれると未だ思っている。この無垢なまでの信頼(?)はなんだろう?? ハヤテに恋い焦がれている時は、そんないい加減なところも素敵に見えていたけれど、こうしてちょっと距離をおくと、時々、無性に腹が立ってきて、しまいには飽きれてしまい、最後は同情してしまう。おいおい…いつまでそんな事やってるつもり? いつまで助けてくれると思ってるわけ?と。
私の心はすっかり犀川君に奪われてしまって、すっかりハヤテは色あせた。そのせいで、これまで何でも甘えさせていた私の対応も、少しずつだけど確実に変化しているはずだ。はっきり、恋人が出来たよと、ハヤテには言った方がいいのかもしれないなあ。
犀川君と見頃を迎えた箱根・仙石原のススキを見に行った。
思えば、二人きりでちょっとした旅に出るのは初めてのこと。
日帰りではあるけれど、目一杯楽しもうと朝9時に小田原で待ち合わせ。
「おはようございます」と笑顔で現れた犀川君は、寝ぼけた顔をしていた。
それでも、ホームに滑り込んできたロマンスカーを見るなり、
すぐさまホームにいた駅員さんから指定席券を購入する当たりは
さすがに「鉄っちゃん」なんだけあって、行動が機敏だ。
「ミサトさん、ロマンスカー好きだって言っていたし、
短い時間だけど、乗るとちょっと旅気分が高まるでしょ」と犀川君。
二人で並んで座ると、窓から燦々と太陽の光が。
「なんか、縁側でひなたぼっこしているみたいにあったかいね〜」と
言うと、「気持ちよくて寝ちゃいそう」と犀川君があくびする。
箱根湯本駅に着くと、今度は登山鉄道に乗り込んで宮の下を目指し、
目的の日帰り温泉施設へ向かった。一日100人の入場制限をしている
施設だったため急いで訪れたが、早すぎたのかガラガラだった(笑)。
それでも、空いた露天風呂は実に気持ちがよく、ゆっくり堪能できた。
天気予報は曇りだったけれど、空を見上げれば青空が広がり、
木々からは野鳥の鳴き声が聞こえ、どこからか川のせせらぎが聞こえてくる。
犀川君は「エセ科学だ」と笑いながら「マイナスイオンがすごい」と嬉しそう。
風呂上がりは、個室をとって、2人でゆっくり寝転がりながら休んだ。
私も犀川君もカフェとか喫茶店が大好きなので、街を散策して
小洒落たカフェを見つけて入った。
こういう時、カフェがおしゃれであればあるほど、犀川君は
「洒落臭い!」と笑いながら文句を言う。大好きなのに、照れくさいから
こうして文句を一言言わずにはいられない。「いいの、素敵だから」と
私がすたすたと店の中に入っていくと、嬉しそうについてきて
「嫌いな訳じゃないですからね」と言い訳を言う。
「知ってるよ、照れ隠しでしょ」と鼻を鳴らして言うと
照れ笑いしながら、私の腰の当たりに手を突いて、くすぐってくる。
最近、犀川君は照れ隠しをする時に、こうやってじゃれてくる。
これがかわいい。かわいいから、つい照れるだろうなという事を言う。
何だか暑かったので、アイスティーを頼んだら、
「身体が冷えるよ」と犀川君が心配する。
だから、犀川君が注文したコーヒーを横取りして飲むと、
「これ、もうちょっと苦い方がいいな」と言うので
「私はアメリカンが好きだから、これくらいがいい」と言うと
「僕は思い切り濃くて苦いのが好き」と言う。
切り立った山の中腹に立つそのカフェは、大きめのウッドデッキの
バルコニーが気持ちよく、「ここに住みたいなあ」と私。
すると犀川君が「素敵だけど、買い物とか大変だよ」と言う。
「いいじゃん、まとめ買いしに行けば」と返すと
「そうだけどさ〜。でもいいね、ここから会社に通うのもいいかな」と
不思議なことに、犀川君は一緒に住む気満々なのだ(笑)。
「僕の家は海の近くでいいねって、よく言われるんだけどね、
海の近くって洗濯物がカラッと乾かないんだよ。
だから僕、洗濯物が乾くかどうかと、買い物に不便じゃないかとうか
それが凄く気になるんだよね」と笑う。
「なんか、主婦みたいな心配だねえ」と私も笑うと
また、脇腹を突いてくすぐられた。
その後、ロープウエイに乗り込んだ。
実は犀川君は高所があまり得意ではない。
出来れば乗りたくないのを、私が無理矢理連れて行ったのだ。
手をつなぎ、「これで怖くないっしょ?」と聞くと
笑って「別に怖くないよ」と強がっている犀川君。
「ふーん、じゃ、手離すよ」と返すと、
「意地悪だなー」とまた脇腹を突かれた。
何だか無性にいじめて遊びたくなるのだ。
桃源台に着き、バスに乗り込んで、仙石原へ向かう。
すっかり夕方になっていて、高原についた時にはかなり寒くなっていた。
夕日を受けて、何千本ものススキが黄金色に輝く。
犀川君は上着を持って来なかったので寒い寒いと連呼して私の手を握っている。
ススキの中をしばらく歩くと、ちょとと開けた場所に出た。
観光客やアマチュアカメラマンが大勢、カメラを構えていた。
その中で、おばちゃんたちの一行が果敢にもススキの中にかき分けて
進んでいく姿が目に入ると、犀川君が「行ってみよう」と歩き出した。
おばちゃんたちは、ずんすんと勢いよく進んでいって
すぐさま見えなくなってしまった。時々、遠くから声だけが聞こえる。
「おばちゃん、元気だな〜」と犀川君が笑って、
追いかけるのを諦めてその場に急に止まったので、
後ろから手を引かれていた私はふいに犀川君にぶつかった。
見上げたら、思わず犀川君と目が合ってしまう。
しばし見つめ合っていたら、何だか堪え難い気持ちになってきた。
犀川君は奥手で、決して自分から仕掛けてくるようなことはしない。
温泉の部屋でも、いちゃついても、何もなかった。
私が踏み込まないと、この人は一生踏み込まないだろう。
えーい!と思って、犀川君に抱きつき、キスをした。
犀川君は最初こそ物凄く照れていたけれど、
一度キスをしたら気が楽になったのか、
その後は、犀川君の方からキスをしてきた。
どうやら、一歩、私たちは踏み込んだみたいだ。
やれやれ、こんな男の子は初めてだ。
しかし、もしも年上や同級で、これほど奥手なら嫌気もさしそうだが
さすがにこんなに年が離れていると、仕方ないな〜とかわいく思えて
ついつい、私が何とかしてあげなくちゃという気にさせられる。
きっと、犀川君にしてみれば、そういう女の方が
安心して付き合えるに違いない。
こうやって、一歩一歩、歩みを丁寧に進めていくなんて付き合い方は
初めてのことなので、何とも新鮮で、返ってドキドキしてしまう。
その後、バスに乗り込んで、箱根湯本を目指した。
日曜日の夕方の箱根は、予想通り、物凄い渋滞。
バスの中でうたた寝したり、くすぐって遊んだり、手をつないで
いちゃついたりしていたら、犀川君がこのまま小田原まで行こうと
言い出した。1時間以上もバスに揺られて小田原へ着くと
すっかり夜になっていた。甘いもの好きの犀川君のために
喫茶店に入って、ケーキを食べながら次の旅の予定を立てた。
次は、雪を見に行こうと決めて、お別れした。
翌朝、犀川君が「昨日のことを思い出すな〜」と言うので
「何を思い出しているの?」と意地悪な質問をしてみた。
すると、「そりゃ〜仙石原とかバスの中とか…」と照れていた。
そりゃ〜、私だって思い出す。
これでますます、離れがたくなることだろう。困った困った。
先日、目覚めたら、視界がグルグル回って、目眩がひどい。
なんだこりゃ?と思って、しばらく目を瞑り、安静にするも
グルグルは一向に去らない。困った、これじゃあ、出勤は無理だ。
ちょうど決まった予定は入ってなかったので、会社を休んだ。
犀川君からおはようメールが来たので、今日は休むと返信した。
犀川君は大いに心配してしまって、とにかく安静にしろと言う。
事実、安静にしていないと気持ち悪かったので、
その日はご飯を食べる時以外は、ずっと横になり、うとうとしていた。
夜中になってようやくすっきりして、メールをチェックしたら
なんと犀川君から何通もの心配メールが届いていた。
ずっと携帯を放置して、うつらうつらしていたので気づかなかった。
どのメールも、体調を気遣いつつ、愛情がふれている。
なるほど、恋人がいるというのは、体調を崩した時に
こんなにもじんわりと、染み入るものなんだなあ、と実感。
ここ3年はずっとハヤテに片思いしていて、こんな思いとは無縁だったし
その前は、世間様に顔向けできるような恋は少なかったし、
思えば、こういう、ある意味、普通で、ある意味、健全な恋は
もしかしたら初めてと言えるかもしれない。
安定なんてケッ!…と思い続けてきたけれど、
こういうあったかい恋ってのも、いいもんだなと思った。
私もやっぱり年なのかなあ〜(苦笑)
近頃は、犀川君がくれる、ほんわか温かい安定が愛おしく思えてきた。
午前1時すぎに、返事しなくてごめんねとメールをすると
「お待ちしておりました!(笑」と返事がきた。
よかった、連絡がないから悪化しちゃったんじゃなかと思って
心配してたんです、と言う。私が逆の立場なら、
さぞやイライラして返事を待っていたことだろう…(苦笑)
翌日、出社すると、夕方に犀川君がちょっとしか時間がないけど
私の帰り際に時間を作るから会おうと連絡があった。
指定された喫茶店に先に行って待っていたら
運悪く携帯が圏外…ガ〜ン。
あいにくその喫茶店は3階まであって、どこに座っているのかを
知らせたいのだが、いかんともしがたい。
席を移動しようと思って、立ち上がり、階段へ向かおうとしたら
ちょうどレジのところで注文をしている犀川君を見かけた。
思わず、「あっ」と言うと、犀川君が少し驚いた顔をして振り返り、
「あ、来てたんだ」とすぐに笑顔になった。
すっかり涼しくなったので、犀川君はシャツの上にニットベストを
着ていて、何だか上品な坊ちゃん風で、いつもに増してかわいい。
思わず、にやにやしながら眺めていたら、犀川君がじーっと
まじめな目つきで見つめてくるので、どうした?と聞くと
「いや、本当に大丈夫かな、と思って」と言う。
「本当に大丈夫だよ」と笑うと、
「うん、安心した。メールだけだと心配で顔見たかった」と言う。
それからしばらくおしゃべりをして、仕事が残っている犀川君を
送り出して、私は帰路についた。
心配されるなんてこと、慣れていないからこそばゆい。
大したことでもないのに、心配してくれるとこそばゆい。
それでも、悪い気はしない。いやむしろ、じわりと幸せ。
みんな、こんなに幸せだったのかあ〜と、今更ながら驚く。
幸せだな〜と思う反面、いつか終わると思うと、やっぱり怖くなる。
あんまり好きになると…と思ったところで今更止まらない。
紅葉を見に行く約束をして、そのルートを任せると言うので
ネットであれこれ調べて、当日のアクションプラン案をまとめた。
それを犀川君に知らせる際に、温泉に立ち寄りたいという彼の希望を
実現すべく、日帰り温泉リストを作って、それも送った。
中から行ってみたいと思う施設を選んでもらうためだ。
私個人的には、高級日帰り温泉施設と銘打ったところがいいなと思い
★を3つ付けておいた。すると、犀川君もここがいいなと言う。
なんでも、その施設のホームページを見たら、個室にこたつがあった
のが気に入ったという。実は私も、そのこたつでゆるゆるしたいなと
思ったので★3つを付けたのだったが、まさか同じ思いとは(笑)
結局、私が決めたアクションプランに従い、その温泉に立ち寄ることで
決まった。今なお、体調が完全ではない犀川君。昨日も今日も仕事だったが
早めに切り上げて帰ってきて、早めに寝ていたが、まだだるさが消えないと言う。
「当日までに体調を整えるべく、無理するなよ!」
という私の掛け声に、ハイ!と素直な返事を寄越す犀川君。
なんて年下はかわいいのだ!
なんで今まで年下を拒絶していたのか全く理解できない!。
いやはや、年下はサイコー。
ん? 犀川君がサイコーなのかな??(笑)
今日も会いましょうと犀川君が言うので、
飲み会に行く前に時間を作って、彼が待つ喫茶店へ急いだ。
3日連続の逢瀬というのも、悪くない。
犀川君は今日は何だか調子が悪いらしく
ちょっと鼻声で、だるそうな顔をていたけど、
「風邪っぽい男って色気があっていいよね」と言うと
「何言っているんですか!!」と笑って、脇腹を突かれてしまった(笑)
紅葉を見に行く予定をたてていたら
「温泉入って、あとは和室でぼ〜っとしてたいな」と犀川君。
一緒に並んでぼや〜っと寝ているのも幸せだろうなと思うとニヤニヤしてしまう。
飲み会からの帰り道、メールをチェックしたら
「顔が熱い」と犀川君からのメール。
「あら、私と会って幸せで顔が火照った?」と返信したら
「風邪だよ!」と突っ込みの返事がきた。うむ、そうか(笑)
つい、酔っぱらって気持ちが高まって、大好きだ〜と告げると、
「どんなにカリカリしていても、大好きだ」と犀川君が言うので
「この恋が終わるとしたら、君次第だな〜」と返すと
「そんな悲しいことを言わないでくださいよ」と言う。
そう、そのコトバが聞きたくて、わざとそんな台詞を言っている私。
ちなみに、飲み会で一緒だった男の上司曰く
「その恋は結局、ミサト次第だな。彼はもうどうしようもなく夢中だね」
という。そうなんだろうか? 私の感覚では、私が夢中なんだけど。
ま、どっちが夢中の度合いが強いとか弱いとか、ある意味どうでもいい。
問題は明日も今日以上に犀川君が好きかどうかだ。
明日も、犀川君のことがたまらなく好きでありますように。
犀川君が会いたいと言うので、今日再び、夕方に喫茶店で落ち合った。
夜は仕事で早めに終われそうもないからとのこと。風邪っぽいのに心配だ。
いつもの喫茶店に行くと、犀川君がノートパソコンに向かって仕事していた。
顔をあげると、いつものようにまぶしそうに私を見る。
きっとあの表情は、嬉しいのと照れが混ざったものなんだろう。
私の方も、先日、異様にカリカリしていたのもあって、妙に照れくさい。
しばらく、そのカリカリ事件について二人で話す。
犀川君は「やっぱり僕が原因なんでしょう?我慢してたでしょ?」と言うので
素直に「うん」と答えた。でも、私が一人でどんどん怒りを増幅させたのだとも告げた。こういうことが、我慢の末によく起きる。そういう人間だから、今後は、一人で勝手に怒らずに、不満などがある場合は、とにかく犀川君にちゃんと言うよう、約束させられる。
1時間ほど話して会社に戻ると、犀川君からお礼メールがきて、さらに続いて、心配メールがきた。
「僕がぼーっとしている間に、いくつもチャンスを逃してしまって、気づいたら離れてしまっているんじゃないかと思うと怖くなります」
うむ。なるほど。確かに私はこれまで、そういう事がよくあった。相手に何も告げないまま、怒り、あきらめ、絶望し、離れる…よくあるパターンと言えなくもない。犀川君はそれを恐れているらしい。なかなか鋭い考察力だ。
冷静さを失っている時の私ならいざ知らず、平常心の時ならば
可能な限り、こうしたパターンは避けたいと思っている。
これを回避する方法はひとつ。素直になって言葉で伝えることだ。
「欲求や不満は極力素直に言葉にして伝えると約束する」
すると「カリカリしていてもいいから、言って下さいね」と犀川君。
互いにこうして言葉にして伝える努力を重ねれば、
ココロのすれ違いを最小限にとどめることくらい出来るだろう。
喫茶店を後にする直前、犀川君が。次か次の休みに出かけましょうか、と言い出した。以前、紅葉を見に行きたいと私が言っていたので気遣ってくれたんだろう。
「どこがいいかな?」と聞くと、北がいいだろうと言うので、北へ行くことにした。
これでようやく、二人の間の約束が現実のものとなりそうだ。
もちろん、相変わらず犀川君は多忙なので、
「やっぱり無理」となる可能性だってゼロではない。
それならそれでも構わない。だって、約束は約束として実体を伴ったんだから、それだけでも十分手応えがある。それでいいのだ。
その後、何でも言いたいことは言うと約束したのもあって、「箱根のススキも見に行きたい」とも告げた。すると犀川君は「いいですね、ススキのあるうちに行けるといいな」と返ってきた。
結局のところ、約束は待ちの姿勢では動かない。
自分から仕掛けないことに事態は打開しない。
年下の男の子だからとか、忙しいからとか、
そんな遠慮ばかりしていたら、一向に前進できない。
時には、強引に無神経に、えーい!と飛び越える事が肝要だと今更ながら痛感。
夜、早々に寝てしまおうとしていたところに、犀川君からメールが来た。
「どうしたら元気になってもらえるんでしょうね…」というもの。
もう!!!放っておいてくれと思いながら、「元気だからご心配なく」と素っ気なく返した。
すると、さすがに飽きれたのか、「分かりました」と一言だけ返ってきた。
もう!!!布団を頭から被り、寝ようとするけれど、一向に寝れない。
なんだよ、分かりましたって!何が分かったんだよ!!!…イライラは最高潮。
そのまま強引に寝入ろうと思ったが、どうにも無理そうだし、
だいたい、このまま誕生日を終えて、明日になったら、なんて言えばいいのだろう?
そもそも、これが間違いなく溝になって、本当に終わることになるかもしれない…。
そう思うと、さすがに何だかためらってきた。
ふう…と深呼吸してみる。そして、冷静に考えてみる。
何がいけなかったんだ?
どうしてイライラしてたんだ?
悪いのは本当に犀川君?
頭にのぼった血を沈めながら、出来るだけ冷静に振り返ってみる。
どうしてイライラしてたの?
そう、朝から天気が悪かったから。
そう、そもそも今日が誕生日だと犀川君に告げていなかった自分が嫌だったから。
そう、誕生日だから、普通にやっぱり会いたかったから。
そう、でも、誕生日だと告げていないから、会いたいとも言えないから。
そう、だいたい仕事で忙しいと犀川君が言っていたし。
そう、仕事が忙しいとか言って、休みはあるし、一人で出掛けている時間はある。
そう、そもそも休みの日に会おうとしてくれない態度が腹立たしかったから。
そう、誕生日と告げたら、おめでとうと言うだけだったから。
そう、だいぶ時間が経ってから会おうなんて、遅過ぎたから。
そう、それでも待っていると言ってくれなかったから。
で、悪いのは犀川君?
いや、天気は自然現象だもの。どうしようもない。
いや、誕生日を知らなかったんだもの。
いや、素直に会いたいと言ってないもの。
いや、休みなら会えって普通思いますよね?という問いに「気にしないで」と
言ったのは、私の方だもの。
いや、おめでとうって言われて怒る方がおかしい。
いや、そりゃ、仕事のメドってもんがあるだろうし、そもそも私の方から会いたい
と言い出したわけじゃないし。
いや、私の返事が素っ気ないし、断じて会わない、という雰囲気ありありだったし。
ね、だから、やっぱり、冷静なれば、私が悪い。
私が勝手に、一人でどんどん怒りを募らせてしまっただけの、要はワガママだったのだ。
むしろ、犀川君は優しく、根気づよく、元気を出してもらおうと、
気を遣いながら、仕事の合間にメールをくれた。感謝こそすれど、怒るなどお門違いだ。
分かっていたのだ。要は、自分で収拾つかなくなっていただけだと。
それでも、どうしてもそれを認めたくなかった。
強引に接してほしかったのだ。ただ、それだけだった。
だが、それを全く伝えずして、相手に求めるというのは所詮無理な話だ。
このままじゃいけない。きっといつか後悔する。
いくら犀川君が気が長くて、優しい人だと言っても限度というものがある。
やはり、今日起きたことは今日解決すべきだ。
誕生日が終わるまであと少し。今なら間に合う!
布団から出て、素直に謝りのメールを打って送った。
そして、なぜイライラしていたのか、どうして欲しいと思っていたのか
それも素直に伝えた。そうしないと、犀川君だって納得できないだろう。
すぐに返事が返ってきて、「僕の言い方が悪かったんだと思う」と謝ってきた。
そして、自分の気持ちは全く変わらないから、と言ってくれた。
素直になったら、イライラはすーっと消えていった。
イライラが消えたら、急に眠気が襲ってきて、ようやく寝付けた。
目覚めたら、昨夜のイライラが嘘のように消えていて、心が軽かった。
やっぱり、昨夜、きちんと思いを伝えて、謝ってよかった。
お礼とお詫びの気持ちを込めて、おはようメールを送ると、
「元気になって本当によかった」と犀川君からすぐに返事がやってきた。
犀川君から昼間きたメールによると、のどが痛くて風邪をひいたかもしれないと言う。
「今日は仕事を早めに切り上げて、早く帰るように」と言うと
「午後は外出なので、直帰して、早めに休みます」と返ってきた。
風邪ぎみの、少し鼻声の男は、案外色気を感じるものだ。
ちょっぴり、そんな犀川君を見てみたいなと思ったりもしたが
昨日のように、マグマのような激情は影を潜め、今日は遠くから
心配するだけでも、心穏やかな状態をキープできている。
悪化しないことを願いつつ、犀川君に「お大事に」とメールした。
これほどに、自分の感情の波が激しいと、ふいに取り返しのつかないことを
してしまうのではないかと不安になる。しかし、不器用にいろんなところに
激突しながらも、こうやって出来る限り、素直になることを心がけていれば
今後、またこうしたことがあっても、私たちは乗り越えることができるかな。
そういえば、ハヤテが今朝、メッセで話しかけてきた。
「昨日、誕生日プレゼントを渡したのに、忘れていったな!俺は悲しい」
確かに、もらった漫画はオフィスに放置してきてしまった(笑)
「ごめん、2008年の心に響いた誕生日プレゼントNO.1に登録したから許して」
そう言うと、よし、と許してくれた。
そして、ジジが都合により今の会社を退社することになり、そのお別れ会を
しようと言い出したので、「最後、特別に私への暴言を許そう」と言うと
「俺は今後も暴言を言い続けるから、常に許してもらわないと〜」と
ハヤテは実にご機嫌だった。あいつ、今後も言い続けるつもりなのか…orz
そう、まだハヤテには、犀川君という存在が出来たことを告げていない。
言ったらどうなるだろう…。なんとなく怖くて言えない。狡いかもしれないけれど。
余談だが、昨日のミーティングはタカ君もいた。
実に1カ月ぶりの再会だが、目を合わせるようなことは避け、席も遠くに座った。
元気そうだったので、ひとまず安堵。
しばらくは、直接声をかけるのは避けておこう。念には念を。
なんてイライラした一日だったろうか。
よりにもよって誕生日の日に。
今なお、イライラ、悶々とした気持ちは全く解消されていない。
朝から雨で憂鬱だった。
おまけに、犀川君からのおはようメールが実に遅かった。
ま、こんなことを一方的に期待して、憤慨している私もどうかと思うけど。
私の憂鬱な気分をよそに、犀川君は朝から喫茶店で仕事をしているからか
文面からは珍しく気分がよさそうだ。それが返ってイライラする。
どうせメールの文面だけなのだから…と思うけれど、
どうにも今日は明るい気分を演出する文章にならない。
反比例して、犀川君の文面はいつもよりもゆったりと構えていて
何だか余裕すら感じる。その余裕がまた、私をイライラさせる。
中途半端な絡み方をするので、素っ気なく「ありがとうございます」
とだけ、突き放した雰囲気で投げると、今度は犀川君がしょげる。
犀川君にしてみれば、私が何故にイライラしているのかが分からない。
そう、犀川君に、今日が誕生日だということを教えてない。
別に隠しているわけでもないのだが、聞かれないから言わなかっただけだ。
しょげられて、思わず「今日だけは仲良くしたいんだけど」と返すと
「今日は何かあるんですか」と聞いてきた。そりゃそーか。
でも、今更言いたくない気分だ。とはいえ、変な理由をつけるのも大人げない。
仕方ないので、「あと1時間半で忌まわしき誕生時間を迎えるから」と答えた。
すると、「そうだったんですか!おめでとうございます」と返ってきた。
ただそれだけだ。うんうん、分かっていたのだ。どうせ、誕生日だろうが
何の日だろうが、君は仕事が忙しいから、メールでおめでとうと言うだけだろう。
そんなことは言う前から分かっていたことだ。
分かっていたけど、本当にそれだけだったことに失望した。
これまで付き合った男で、これほどに無頓着な男がいただろうか。
普通なら、「そうだったの?じゃ、時間ないけど、ちょっとでも会おうか」
くらいは言うだろう。もし、それがダメでも、ダメな理由を告げたうえで
「じゃ、今度の休みにでもお祝いしようか」というのが、妥当な線だ。
それがどうだろう。「おめでとう」と言ったきり、それでおしまいだ。
別に、盛大に祝ってくれと言っているわけではなくて、
誕生日が一つのきっかけになって、会おうと言って欲しかっただけだ。
しかし、やっぱり、メール男の犀川君は、おめでとうと言えば私が喜び
それで満足するものだと、疑ってないのだから、心底驚いてしまう。
昔の彼女と別れた理由が「楽しませることが出来なかった」とは犀川君の
談だが、まさに、そりゃそうだろうと思わざるを得ない。
何のために一緒に歩もうとしているのか、さっぱり理解できないじゃないか。
そのうえ、なんで忌まわしいのだと聞いてきた。
そりゃ忌まわしい。恋人と呼んでもいいはずの人はこんな調子だし、
いい加減、いい年になっちゃったし、これまで別に生まれてきてよかったと
心底思えるほど楽しい人生じゃなかった。むしろ苦痛の方が多く、
なんで生まれてきたんだと恨めしい気持ちになることのほうが圧倒的なのだ。
すると、犀川君は「生まれてこなければ、僕らは出会えなかったんだし、
両親に感謝しなくちゃ」なんて、おめでたいことを言っている。
なんで感謝なんてせんといかんのだ。
だれが一体、「生まれてきてよかった」なんて偽善的な事を吹き込んだのだ。
だいたい、出会ったって、こんなんじゃ、出会ってないのも同然じゃんか。
何もかも、イライラする。イライラがどんどん募って、顔が歪んでくる。
返事を返すのも腹立たしい。どっかの偽善的小説や絵本のように
一人で勝手に真に受けて、喜んでいてくれ。私は全然そんな気にはなれん。
だから、無視して、ハヤテの待つ都内のオフィスへ向かった。
ビルの前で、偶然にハヤテに会った。
向こうからやってくる男が手を振っているのに気づいて、よく見たら
ほんの少し痩せたハヤテがいたのだ。
「ミサトさん、誕生日おめでとう。これ、プレゼント」
満面の笑みのハヤテが差し出したのは、週刊ジャンプ(マンガ)だった…。
「なんだ、こりゃ」と言うと、「だって、HUNTER×HUNTER読みたいって
言ってたんじゃん。捨てようと思ったけど、持ってきた」と嬉しそうに言う。
「あのさ…要はゴミじゃん」と言うと、「ええ、そんなことないよ!」と
いたずらっぽく笑う。思わず、吹き出して、「涙が出るよ」と言うと
「だろう〜〜」と誇らしげだ。
だが、犀川君よりも数千倍、ハヤテの行為の方が嬉しかった。
あの忘れっぽいハヤテが私の誕生日を覚えていた事自体、奇跡だし、
HUNTER×HUNTERが好きだということを覚えていたのも驚きだし、
何よりも、このアホ臭いほどの機転が、私を喜ばしてくれた。
その後、ミーティング中、何度となく、私の方を見て、
「どうしようか」と甘えた顔を見ていると、その心地よさとおかしさに
どうしようもなく、懐かしさを覚えてしまって、泣きそうになる。
会議が終わり、飲みに行こうかとみんなが言い出したが、
たまらずに、「今日は帰る」と言って、オフィスを後にした。
こんなイライラした日に、ハヤテと飲んだら暴走してしまう。
こんなイライラした日は、一秒でも早く終わらせたかった。
早く帰って寝てしまおう。
そうするに限る…。そう思って家路を急いだ。
駅に着くと、犀川君からメールが入った。
「今忙しいですか?」と言うので、「なんでしょうか?」と返した。
どうしても刺のある返事になってしまう。
「いや、もし気が向いたら、コーヒーでも飲みませんか、と」と犀川君。
何を今更…携帯の画面を見て、つぶやいてしまう。
何を今更…どうして、その一言を昼間に言えなかったのだ。
どうせ、私がカリカリしているのを気遣って、仕方ないと思ったのだろうが
そんなんで私が喜ぶとでも思ったのか。アホくさい。
「今、都内にいるんで、間に合わないと思います」ときっぱり。
すると、「そうですか…では、気をつけて帰ってください」と返ってきた。
ふん。何が気をつけて帰ってくださいだ!
そういう時は、何時になってもいいから待ってますよ、と言うもんだ!!!
憤慨を通り越してしまい、そのまま無視した。
聞き分けがいいのと、鈍クサいのとは、全く違うのだよ。
もう、いや。もう、全然楽しくない。全然幸せじゃない。
メールの文面だけで、気のいい返事をして、犀川君が喜ぶ女を演じるのは
もう、いやだ。聞き分けのいい自分になろうとするたびに、どんどん
自分の首を絞めてしまって、息苦しいったらない。窒息しそうだ。
ゆっくり歩みたきゃ、一人でゆっくり歩いてくれ。
近くにいながら会えない恋人なんて、無用にもほどがある。
さあ、今夜の誕生日プレゼントは、時間だ。
こんなに早く帰ってきて、こんな時間に寝れるなんて、そうそうない。
さあ、今宵はさっさと寝てしまおう。
大嫌いな誕生日はこれでおしまい。
ついでに、犀川君への想いも、おしまいだ。
休み。美容院に行っている間に、犀川君からおはようメール。
しかし、どことなく元気がない様子。
何を言っても、何だか絡まれているような…(^▽^;)
「休みなんだろうから、ゆっくり休んでね」と言うと
「休みなのに、なんで会わないんだ?って思いますよね、普通」と言う。
そりゃそう思っているわよ!
てか、言うか?君が!?…と内心思ったりしたのだが、そこは年上の女。
ぐっと堪えて、「ゆとりのある時に会ってくれれば嬉しいけど、無理しないで」
なんて言ってみる。言葉とは裏腹に無理してほしいのだが…。
しかし、犀川君は「優しいですね」と返してくるばかりで私の本音が
どこにあるか、なんてことに気を回すようなことはしてくれない。
それでも何だかんだと絡むうえに、「会いたくなったらいつでも言って下さい」
なんてトンチンカンなことを言ってくるもんだから、少々頭にきた。
そこで、「一人でいたいくせに寂しがりだからね。会うよりも、こうして
メールでやりとりしている方がいいいのでは?」と厭味を言ってやった。
すると、「会わなくていいなんてことないですよ!」と逆グレされる。
…分からん…一人でいたいと言ったのはアンタだろうに…(;´Д`)
そしてまた、「会いたくなったら、本当に言って下さいね」と
犀川君は、優しいだか、鈍感なんだか、よく分からない台詞をよこすのだった。
そこで、「私は別に。犀川君のタイミングでどうぞ」と半ば投げやりの回答。
すると、さすがに「どういう意味ですか??」と焦って返事がきた。
「私は君ほど一人でいたいわけじゃないから、会うなら、君の都合次第
という意味だけど」と言ってやった。すると、今度はしおらしく謝ってきた。
謝ってほしくて言っているわけじゃないのにねえ…。
で、その後、数回やりとりして、疲れた私は「まあ、とにかく、しばらく
余裕がないんだろうし、無理せず、気にしないでどうぞ」と言うと
「ありがとうございます。さらに好きになりました」と、これまた
実にトンチンカンな返事がやってきた…。まあ、いいけどさ。
犀川君は難しい男の子だ。
一人でいたいのに、すぐに人恋しくなってしまう。人恋しいくせに
怖くて他人に踏み込むことをしない。だけど、踏み込んでみたいと思っている。
思っているけど、うまくできなくて、また一人の世界に逃げ込んでしまう。
それでも、そこにはずっといられなくて、人恋しくなる。
だけど、どこかでやっぱり、自分を受け入れてもらえないと思っている。
分かるけど、そのままじゃ、私にはどうすることもできないだろうな。
無理矢理そこから引きずり出すまで、私も強引なことしたくないし、
私自身も、そこまで他人に深く踏み込むほど、執着心がないし。
それは犀川君への執着心がない、というのではなくて、誰に対しても。
はあ〜あ、と思って返事をするのが億劫だなあ、と思っていたら
すぐに犀川君から「僕のこと、まだ好きですか?」とメールがきた。
そう、犀川君は自分をちょっとでも曝け出すと、不安になって
あきれられていないか、嫌われていないか、確認しないではいられない。
「好きだよ」と返してため息をつく。
こんな時、メールは表情まで伝わらないから実に便利なツールだ。
「僕も大好きです」と安心した犀川君から返事がきた。
大好き、か。そりゃそうだろうな。
犀川君の望む通りだもの。一人でいたい気持ちを満たして、寂しくなったら
私がメールで「好きだよ」と言ってあげるのだから。
だけど、私の気持ちは消化不良のままだ。
まあ、何も言わない私も悪いけど、察しの悪い犀川君もどうかと思う。
そんなもんか、男と女は。相手が誰でもそうだったかもな。
犀川君にとって私ってどんな存在なんだろう?不思議だなあ。
休日には会いたくないけど、大好きなんだって。なんだろ、それ。
それでいて、あそこへ行こう、ここへ行こうと言って、近い未来の
約束はするんだけど、思えばどれも曖昧な約束で、いつ、というのは
どれもはっきりしない。行こうね〜という、聞こえだけはいい約束ばかり。
最近、どの約束も果たされないのではないかという気がしてきた。
まあ、それならそれでいいや、と思い始めている。
彼は私という実体はいらなくて、メールで気持ちのいいことを言ってくれる
そんな都合のいい存在がいればいいだけで、ならば私である必要はないのだろう。
もしかしたら、犀川君にとって、私という存在は、
そんな彼のスタンスに、気づかせてあげるだけのものかもしれない。
君、人じゃなくて、メールのオート転送みたいな機械とかサービスがあれば
それで十分幸せになれるのよ、あなたは、と。
私である必要はないのよ、と。
そんな気がしちゃう、ほんと。
だから、「恋人はいるんですか?」と聞かれると、
「いや、いません」と、今なお答えてしまう私。
うん、犀川君は、恋人と言うにはあまりにも実体がない。
そう、私にとっても、犀川君は実体がない。
本当にいるのか、どうなのか、分からない。
こんな気持ちになっているなんて、犀川君は夢にも思わないだろう。
私の「好きだよ」という言葉を額面通り受け取って、
今頃、幸せな気分で眠りについていることだろう。なんてこった。
昨日、母にひょんなことから、職場の人たちの写真を見せるはめになった。
その中に、ハヤテの顔があり、「これがハヤテだよ」と教えてあげた。
さんざん、ハヤテは熊さんのようだ、太っている、と言っていたから
写真を見て、母は心底驚いていた。
「いやだ、あんた、全然太ってないし、男前じゃないの!それに知的な顔つきだ」
だから、おなかがポンポコリンなんだよと教えてあげると、
「いや〜男前だな。それになんか、余裕があるね、この人」と
とにかく絶賛していた。そう、ハヤテは余裕がある。器が大きいのだから当然だ。
犀川君のことがあってから、ハヤテのことは極力考えないようにしていた。
ハヤテがどんなにちょっかいを出してきても、もう迷わないように
必死に心を閉ざしてきた。もう、追わないと決めたのだ。
なのに、久しぶりに見た、写真の中のハヤテは、母が言わずとも
やっぱり素敵で、まぶしかった。
あっちへ行こう、こっちへ行こうと、欧州の街で私を振り回した
ハヤテの強引さが懐かしい。あの時のように、私を連れ去ってくれたらいいのに。
明日、生のハヤテに久しぶりに会ったら、久しぶりに心がぐらつくかもしれない。
一昨日のメールのやりとりの中で、「あさって会えたら会いたい」と
犀川君が言っていた日を迎えた。なんとなく、朝からそわそわ落ち着かない。
夕方、犀川君からメール。「夕方、ちょっとだけでも会えないですか?」
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
二人して仕事を抜け出して、喫茶店で落ち合った。休憩だと思えばよい。
久しぶりに会った犀川君は、すっかり秋っぽい雰囲気だった。
この間会った時は、シャツだけだったのに、今日はジャケットを羽織っていた。
それがなんとも新鮮な気がして、それだけでドキドキしてしまった。
喫茶店で仕事をしていた犀川君は、嬉しそうに顔をあげてくれて
破顔して「こんにちは」と言った。その顔を見ただけで、私の心は熱くなる。
30分だけのつもりが、つい他愛もない話をしているうちに1時間経ってしまう。
「そろそろ戻らなくちゃ」と言うと、「もうそんな時間かあ」と
悲しそうな顔をする犀川君が、なんとも甘える犬のようでかわいい。
「ずっとこうしてたいけど、しばらく忙しくて時間がとれないんです」と犀川君。
そして、ちょっと言いづらそうな表情をしながら、「あの〜…」と続けた。
「あの〜、その、どれくらいの間隔なら許してもらえるもんですかね?」
何を言っているのか本当に分からなくて、「はあ?何が?」と聞き返す。
「いや、会う間隔。1週間に1回とかでも平気ですか?」と言うので
「忙しいのに1週間に1回なんて無理せんでいいよ」と笑うと
「いや、多分、1週間に1回と言っても、今日みたいに短時間だけど」
そう申し訳ないように言うので、思わず吹き出してしまって、
「そんな!いいってば、無理しないで」と言うと
「いや、無理じゃないですよ。僕が会いたいんです」ときっぱり。
「まあ、それなら嬉しいけど。じゃ、まあ、そんな感じで」と照れてしまった。
その後、会社に戻って一仕事終え、帰宅しようとした時、
ふと、犀川君があのまま喫茶店で仕事をしているかもしれないと思った。
それならば、顔を見てから帰ろうかと思い立ち、「まだいる?」とメールすると
会社に戻ったんだけど、そろそろ出るところ、と返ってきた。
「そうか、顔見てから帰ろうと思ったんだけど、じゃまた今度ね」
そう返すと、今度は犀川君から「○○駅まで一緒に行きましょう」と連絡があった。
ちょうど駅に着いて、ホームに滑り込んできた電車に乗ろうとしているところだった。
「じゃ、待ってる」と答えて、2本電車をやり過ごした頃、犀川君が現れた。
ちょうどタイミングよく入ってきた電車に二人して乗り込む。
にやにや、へらへら、緩んでいる二人。
犀川君が「今日は2回も会えましたね」と笑う。
「ラッキーな日だね」と私も笑う。
そしてまた、にやにや、へらへら。
喫茶店での他愛もない話の続きで、しばし盛り上がる。
わずか2駅分の短い距離も、犀川君となら至福の時間に変わる。
「じゃ、僕はこっちなんで」
「うん、じゃ、私はこっち。またね」
手に触れようとして、やっぱりやめた。
何だか、離れがたくなりそうで、怖かったから。
その後、先約のあった宴席からの帰り道に、犀川君からメール。
「今、帰り道。人恋しいなー」
いじわるに「人恋しいのか、私のことが恋しいのか、どっちだろ?」と聞くと
「いじわるだな〜(笑)ミサトさんが恋しいに決まってるじゃん」
私もそうだったのだけれど、つかの間とはいえ、会ってしまってから
ようやく落ち着いていた心が動き出し、どうにも恋しさが募ってしまったようだ。
涼しい秋風がいっそう、そんな気持ちに拍車をかける。
「今の仕事が一段落したら、絶対にどこかへ行きましょう」
犀川君は、誰かさんと違って、絶対に約束を守ってくれるだろう。
吹き抜ける風がもっと冷たくなった頃、きっと二人で旅に行ける。
その日を楽しみに、じっくり構えて、犀川君を待ちたいと思う。
出来る限り、時間を捻出して会おうと誓い合った二人ではあるけれど、
犀川君も私もなかなか仕事が忙しく、まだ実現に至っていない。
それでも、メールでは毎日のように大好きだと言ってくれるので
それほど不安になったりすることはなくなったが、
やはり、そうは言っても会えないというのは、どこか不満も残る。
まあ、互いに仕事がある以上、それは仕方のないことだけれど。
今日は余計な仕事も降ってかかってきたせいもあり
何だかとても忙しくて、帰りも遅くなり、疲れ切って帰宅した。
思えば、犀川君からメールがないなあ、と思っていたら
「今、帰るところ」とメールが来た。
やっぱり、犀川君も忙しかったようだ。
同じ会社にいながらも、部署のフロアが違うこともあり
毎日顔を合わすことはないし、どれくらい忙しい状況なのか
互いにさっぱりわからない。
たまに他の用事にかこつけて、犀川君のいるフロアへ
顔を出そうかとも思ってみるけれど、やはり躊躇ってしまう。
そう言うと、「テンぱっちゃうから来ちゃ駄目です」と
冗談まじりに犀川君も言うものだから、なおさら会う機会がない。
まあ、私だってテンぱっちゃうから行けないのだけれど(苦笑)。
そんな犀川君が「あさって辺り、昼間でもいいから会いたい」と
珍しく積極的な内容のメールをよこした。
思わず、「随分と積極的だこと」と返すと、
「いや、消極的すぎたかなと思って」と犀川君。
「うまく距離のとり方がわからなくて」と言い訳をしている。
なので、「距離なんてとらんでいいよ」と返した。
すると犀川君は「距離をとるというか、会えない間に気持ちが離れて
しまうんじゃないかと不安になるという意味」だということで
その兼ね合いが分からないから、たとえばどれくらい会わなくても
大丈夫なものなのか?と聞いてきた。
これはこれで凄い問いだなあと思ってみたり(苦笑)
なので、「不安になるのは私も同じだし、だからといって会うことを
無理強いするのは嫌だから、たとえば目安として1~2カ月
会わなくても平気というのではどうでしょう?」という
誠アバウトな返事をしてみた。
質問も質問なら、回答も回答である(笑)。
すると、気持ちが共有できたことを犀川君は喜び、
「いずれにしても、時間を作るようにするので、無理をしない範囲で
会いたいです」と、健気で優等生的な返事が返ってきた。
犀川君のこうした生真面目なところが、とても愛おしい。
だから最後に「会えなくても大好きだから安心してね」と
ちょっと寛大な言葉で締めてみた。
こういうやりとりをしていると、自分の不安が自然と消えてしまう。
年下の男というのは、実にかわいいものだと実感する今日このごろ。
素直に思ったこと、感じたことを、出来る限り犀川君に伝えるように
意地をはったり、一人で悶々としたりしないで
メールで投げるようにしていたら、どんどんストレスがなくなっていった。
素直になるということは、思っていた以上に、簡単なことだったかもしれない。
言えば、それだけ伝わって、それに対する答えがもらえて
そうやってやりとりしているだけでも、
意地をはっていた時よりも、はるかに二人の距離が近づいている実感がある。
こんな幸せはいつか必ず終わりがくる…
そう思って、私はずっと、別れに先回りして生きてきた。
かつての恋人に「永遠なんてないんだよ」と言われて別れを告げられた
あの時の記憶がどうしても私を臆病にさせてきた。
今回もそうなると思って、先回りした私に犀川君は
そんな悲しいこを言わないでくれと言った。
僕は未来を信じたい気持ちを捨てきれないですと言った。
でも、私はその時は、「そうなるといいけどねえ」と流した。
先日、読んでいた小説の中で、永遠について触れているくだりがあった。
人は永遠を得られないと知っている。
知っているからこそ、今を愛し、大切にすることができる。
だから、永遠がないことは悲しいことではない。
同じ考えなのに、向き合う姿勢が前向きなのか、後ろ向きなのかで
全く印象が違うと驚いた。そうか、悲しいことではないのだと。
だから、今を大切にすればいい。先回りして壊すのではなく、
大切に過ごす日を、一日また一日と重ねていけばいいのだ。
そう思えた時、ようやく長いトンネルを抜けて、救われた気がした。
そう、心の芯に残っていた氷が今、ようやく溶けたという実感。
そう犀川君に伝えた。
すると犀川君が、そうやって長く続けていきましょうと言ってくれた。
そんな犀川君に私は今日、とても恋しいのだと伝えた。
すると、もっと会いましょうと犀川君が言った。
短い時間でも、長い時間でも、とにかく時間をみつけて会いましょうと。
ずっと、そう言って欲しかったのだと
犀川君の言葉を聞いてそう思った。
素直になることで、ようやく私たちは今、
寄り添う努力を始めたのかもしれない。
犀川君との事で悶々としていたら、
ストレス性と思われるニキビがどばっとあごに出現した。
なんたることだろうか…。
イライラを募らせていたら、ノーテンキな犀川君が
また再び、メール攻勢をしてきた。
「どうしたの?無理にメールしなくていいよ」と、ついつれない返事。
「なんか、心配になって。どうしたんですか」と犀川君。
「別に」と私。かわいくないと自分でも思う。
こんな時は、犀川君の方が大人で、素直にあれこれ言葉を掛けてくる。
だけど、ずっと放置していたくせに、急に自分が不安になったからって
急にこまめに連絡を寄越すという態度がどうにも許せない。
ついに、しまいには、やけくそになって言ってしまった。
「君と私とでは恋愛の初期における速度があまりにも違いすぎる。
初期に走れるだけ走れないというのは、私にとって物凄いストレスなの。
それでも、君が言うようにゆっくりした速度で進もうとすると
うまく自分をコントロールできない。一応、今はなんとか合わせようと
私なりに努力しているけれど…」
いつ限界がくるか知れたもんじゃない、いや、そろそろ限界だ!
そんな思いを込めてつい、メールを投げつけた。
犀川君にしてみれば、青天の霹靂だろう。
「安心して放置していいよ」と言った本人の口からまさか真逆の
台詞がわずか2日後に飛び出すなんて、想像もしてなかったろう。
素直に驚いた犀川君は「すいません、無理させていたんですね」と
謝ってきた。本当に謝るべくは私なのに…素直になれない。
「合わないと思ったら言って下さい。近づく努力しますから。
限界がきたら、僕に言ってくださいね」と、相変わらず優しい。
何だか、自分が子供のように拗ねているだけのようで恥ずかしい。
そんなこんなで、ようやく悶々とした心の雲が晴れた。
以来、私は独り言でもいいから、思ったこと、感じたことを
メールで犀川君に投げている。犀川君がそうしてくれと言うからだ。
すぐに返事ができなくても、絶対に返信するからと。
そうすれば、一人で考え込んで、すれ違う事がないだろうと。
そう、私はやっぱり、犀川君とすれ違いたくない。
できれば、もう少し、一緒にいたいので、寄り添う努力をしたい。
不器用だし、すぐに感情的になって、いつも迷惑ばっか掛けて
結局のところ、犀川君がそれをなだめてくれて事なきを得ているんだけど。
今日、ひょんなことから、犀川君と職場で出くわした。
想定外の出来事だったので、最初はテンパって、赤面してしまったけれど
うまくパソコンの画面の陰に隠れて、顔の火照りが消えるのを待った。
犀川君は、笑顔で登場して、私に手まで振っている。
びっくりしながらも「やあ」なんて間抜けな対応しつつ、
久しぶりに見かける犀川君に見とれてしまった…(笑)
その後、ミーティングをしながら飲むのだ!と男先輩が職場を出てゆき
私も犀川君も飲み屋へ移動することになったのだが、
幸か不幸か、飲み屋が混雑していて、女性陣と男性陣で店を分けた。
みんなの前で一緒にいるのは、互いにどうにも照れてしまうので
ちょうどよかったかもしれない。
宴席後、「ほんの少しでも会えてよかった」と犀川君からメールがあり
私もじんわり幸せな気分。「ゆっくり会いたいよー」と素直にメールしたら
「うん、ゆっくり会いたいね」と犀川君から返事がきた。
ああ、こんなやりとりで、とろけそうな位、幸せ。
今日は一日、犀川君からメールは来なかった。
昨日、中途半端にメールのやりとりが終わったまま時が流れてゆく。
犀川君は独りの時間をとても大切にしている。
犀川君が犀川君たるには、独りの時間がなければならない。
誰よりも寂しがりやなのに、誰かと時間を共有したままではいられない。
必ず、孤独の世界に戻ってゆく。
そんな犀川君を私はただただ見守ることしかできない。
だって、そこには誰も連れていってくれないから。
犀川君は分かっていない。
独りでいるよりも、誰かといる方が寂しくなる事があることを。
以前にそう言ったら、とても驚いていたし、
僕がもしそういう風にミサトさんに思わせているのだとしたら
本当にすいません、と謝っていた。
けれど、謝るだけで、彼はまた孤独の世界に帰ってしまう。
彼が孤独の世界に帰ってしまうから
私が寂しくなるということを、彼は本当の意味で気づいていない。
言ったところでどうにかなるものではないし、
無理やり彼から孤独の世界を奪ってしまったら
今度は犀川君が犀川君じゃなくなる気がして
何も言わないことにした。
ただ、私は最近、言葉とは裏腹にとても寂しい。
メールの文面では、こちらの表情まで伝わらないから何とでも言える。
時々、送信ボタンを押した後に、ふと、あまり幸せじゃないなと思う。
それは、犀川君のせいというよりも、
もしかしたら、誰とも分かり合えないと思うゆえの寂しさかもしれない。
結局、誰を好きになろうと、寂しさは埋められない。
人は孤独から逃れられない。
犀川君といると、独りの時以上に孤独であることを痛感してしまう。
誰かを好きになるということは、弱い自分を実感することである。
昨日、メールで「安心して放置していいよ」と犀川君に言った。
本心でもあるし、嘘でもある。
仕事が忙しい犀川君は、余裕がなくなるとメールを寄越さない。
余計な期待を持たせまいと、会う約束もしない。
あるとしたら、漠然とした約束ばかり。
ちょっと近い未来の、漠然とした旅の約束。
時々、そんな約束は決して果たされないんじゃないかと思うことがある。
甘い夢を二人して抱くことで、何かを誤魔化している気がする。
だけど、私はちょっと突っ張って、平気なふりをして
「忙しいだろうから、当分、私のことは放置していいよ」と言った。
「好きな気持ちは変わらないから安心して放置して」と。
犀川君の為であるようで、実は自分の為に言った台詞。
私は放置されている自分に、きちんと正当な理由が欲しかっただけだ。
少しでも安心したいから、そう突っ張ったに過ぎない。
犀川君は犀川君で、「優しいですね、ありがとうございます」と
何の疑いも持っていない。決して、優しさから出た言葉じゃないのに。
そして翌日、早速、安心して犀川君は丸一日、私を見事に放置した。
ここまで素直に行動に移されると、言葉もない…。
昨日、職場の女先輩と男先輩と軽く飲みに行った。
女先輩は相変わらず鋭くて、ミサトちゃんは実は相当複雑系で
扱いにくくて、相当高度なテクニックを持った男じゃないと
とても扱い切れないと笑っていた。
「ミサトちゃんはさ、一見、聞き分けがいいんだよね。
ていうか、つい、聞き分けのいいことを言ってしまうけど、本音じゃない。
それが男には、まあ、当然だけど分からない。
つい、言葉をそのまま受け取って、そう行動しちゃう。
だから、男には罪がない(笑)。
だけど、ミサトちゃんは本心ではそれが許せない。
本当は、そうじゃないと言って欲しいのに、全面的に自分を認めて
受け入れて欲しいのに、そう言えない。
それに、言って分かるような男じゃなくて、察して先回りしてくれるような
男を求めているから癖が悪い!
そのうち、我慢が限界に達して、えーい!と壊してしまう。
だから長続きしないんだよねえ。本当、難しいんだから(笑)」
…言葉もない。
「でさ、その限界到達までの期間が1カ月とか短いんでしょ」と
男先輩が笑う。これまた、言葉もない。
「いつかさ、丸ごと受け入れてくれる男が現れるよ」と女先輩。
その後、女先輩と二人だけになって、犀川君のことを知っている彼女は
「犀川君はミサトちゃんと似ているからなあ。
うまくいけば、すごくいいカップルだと思うけど、
二人とも複雑系だから、心配っちゃ~心配だけどね」と苦笑した。
確かに、犀川君と私は似ているところがある。
おそらく、孤独を認識しているところがとてもよく似ている。
ただ、孤独へのアプローチが異なる。
私は、二人の関係において、そのプロセスにおける孤独を好まない。
私は前提と最後に孤独を据えて考える。
人は所詮孤独だと認識したうえで、できる限り、それを埋めるような
関係になりたいと望む。ただ、それが叶わない場合、すぐにまた
孤独の世界に戻ろうとする。それが一番、私にとって救いだからだ。
ところが、犀川君は少々違う。
前提は同じでも、犀川君はゴールに希望を抱いている。
彼はプロセスに孤独を持ち込むが、最後は二人でその孤独を
埋め合わせて幸せになれるんじゃないか、という一縷の望みを
捨てきれない。
私たちは似ているが、プロセスが決定的に違う。
だから、一緒にいるとかみ合わない。
スタートはいいけれど、一緒にいると、どんどん辛くなる。
私は楽になりたくて、近い将来、終わりを望むだろうし、
終わりを望んだ時、犀川君は決定的に打撃を受けるだろう。
だが、その時にはもう、時すでに遅し、だ。
何とか、そうならないようにしたいのだけれど、
考えるほどに悲観的な未来しか見通すことができない。
終わりにすがるのではなく、安心するために
私は犀川君の体温を求めてしまう。
でも、犀川君はそんな私を拒みこそしないけれど
ちょくちょく独り、孤独の世界に入り込んでしまって
私は独り、寒さに震えている。
誰と付き合っても、こうなるんだろうか。
こんなんだから、誰かと付き合うとか、向き合うとか
面倒だし、気苦労が多いし、投げ出したくなってしまう。
恋は確かに素敵だけれど、
まるで囚われの身のようで、息苦しくなる。
犀川君からぱたりとメールが来なくなった。
海の見える駅に行った時に約束していた日がやってきても
朝から何の音沙汰もなかった。
待ち合わせの時間まで2時間となってもメールは来ない。
さすがに不安になってきて、「予定通りですか?」とメールした。
しばらくして、「連絡しなくてすいません」と返ってきて、
予定通りだが、少々遅れてしまうかもしれないから、また連絡するとのこと。
会うことを無理しているのだとしたら、こちらもあまりいい気はしない。
だから「無理しなくていいよ。忙しいなら中止しましょう」と返した。
「延期」とは書かずに、敢えて「中止」という言葉を選んだ。
「延期」には未来が含まれている。
犀川君が一足早く夢から醒めたのならば、「中止」の方がふさわしい。
「中止」には未来の約束など含まれないからだ。
しばらくして返ってきたメールには、「これから忙しくなるから
会えるうちに会っておきたいです」と返ってきた。
なんだか、私のテンションまで下がってきた。
ま、いっか、そこまで言うなら…と半ば投げやりな気分にもなった。
「じゃ、会いますか。時間は気にせずに、来れそうになったら連絡を」と
返して、私は一足早く待ち合わせ場所近くの喫茶店で待つことにした。
喫茶店で本を読むこと1時間。犀川君から「いまから向かいます」と
連絡があった。「いいですか?」と問うので、「いいですよ」と答えた。
それ以外にどんな言葉があったろうか。
約束の時間よりも1時間近く遅れて、犀川君はやってきた。
とても恐縮している。「すいません、どうにも抜けられなくて」と
かなり憔悴しきった様子。「忙しいんだ、今」と聞くと、こっくり頷いた。
そのまま、前回行った店へ行ってみた。
前回はとても混雑していて、カップルシートではなかったけれど
今回は空いていて、念願の(?)カップルシートに通された。
「並んで座れますね」と犀川君がようやく笑った。
醒めてしまったのなら、並んで座っても嬉しくなんてないだろうに。
戸惑ってしまって、私は曖昧に笑って頷いた。
犀川君は珍しく雄弁だった。
仕事のことや自分にとっての鉄道について熱く語ってくれた。
こんな犀川君は実に珍しい。
私はただただ、隣で、ふんふんと頷きながら聞き役に徹した。
ふと、「どんな恋愛をしてきたの?」と聞いてみた。
犀川君は「教えない」と冗談めかして、すねてみせたけれど
すぐに抽象的ながらも話してくれた。
「よく『つまらない?』とか『何考えているか分かんない』と言われました。
そうだろうなと思うけど、努力はしたんだけど、あまり変われなかった。
彼女はよく僕のこの気難しいところを理解してくれてたと思うけど、
それにちゃんと応えられなくて申し訳ないことをしたと今でも思ってます。
こんなんだから、いつも長く続かないんですよ。
いつも相手を楽しませてあげられないんだと思います」
哀しい顔をして、そんな風に話していた。
「幻滅すると思いますよ。というか、もうしてるかな」と苦笑する犀川君。
「僕、ここ何日か、すごくテンションが低いんです。今も低い。
波があって、低い時はどうしようもないんです」とつぶやいていた。
「今もテンションが低い」とは、すごいことを言われたものだ(苦笑)。
目の前にいる私は、なんて反応をするのがよいのか、さっぱり不明だ。
思わず、「今も低いのか」と苦笑いしてしまった。
そんな私の表情を見て、犀川君がはっとなって、「すいません」と謝った。
「ひどいですよね、そんなこと言うなんて。言う必要なかったな。
僕、ここ何日かすごくテンション低くて、ミサトさんに甘えてきたんですよ。
何も言わなくても、許してくれると思って、ずっと甘えてたんです」
へえ。へえ。そういう甘えがあるのかと、不思議に思った。
「普通、もう嫌だって思いますよね…」と犀川君がうつむく。
なんだかおかしくなってきた。決して嘘ではなさそうだからだ。
自分の感情の起伏のままに、素の自分をぶつけていたのだったとしたら
それはそれで、なかなか素敵なことだなと思えてきたからだ。
「あのさ、そういう甘え方があるなんて、私は初めてなんだよ。
すっかり君は、一足早く夢から醒めたのだとばっかり思っていた。
それはそれで仕方ないことだとも思っていた。
もしも今日、約束を守るためだけに、無理をしているのだとしたら
会うこと自体、意味のないことだと思った。なら会わない方がいいと。
もしも、このまま会う機会を失って、このままフェードアウトしても
それはそれで受け止めようと思っていたんだよ。
まさかね、テンションが低いだけとはね…驚きだ、素直に」
「ミサトさんとのことでテンションが低くなったのではないんです」
犀川君はとても哀しい目をして訴える。思わず「分かったよ」と苦笑い。
繊細で複雑な犀川君は、私の知らない世界で私の知らない苦悩を抱えている。
不器用な彼はそれをうまくコントロールできない。
私も似ているところがあるから、気持ちがなんとなく分かるのだ。
犀川君が手を握ってきた。
「今日は冷たいですね」とつぶやく。
「秋だからね」と私。
「落ち着くな」と言いながら、じっと私を見つめてくる。
何だか照れくさくて、「見るな」と言って酒をあおる。
「見つめていたいんですよ」と犀川君は手を強く握ってきた。
結局、店に入ってから殆どの時間、ずっと手をつないでいた。
店を出る時、犀川君の表情はほんの少し晴れやかになったように思う。
駅の改札口で別れを告げると、「今日は会えてよかったです」と
はにかんだ顔をして犀川君が言った。「うん、じゃ!」と背中を向ける。
しばらくして犀川君からお礼メールが来た。
「好きなままですが、いいですか?」という文章で締められていた。
「気が済むまで好きでいてくれたら嬉しいですよ」と返した。
遠い未来なんてどうでもいい。
ずっと未来なんてどうでもいいと思ってきた。
今、ほんの少し近い未来に希望を抱いていたいと思うようになった。
確かに犀川君は気難しい。
ハヤテのように、私を心の底から陽気にはしてくれないだろう。
だけど、犀川君はあったかい。冷たいけどあったかい。
もしかしたら、それを理解し、大きな心で包んであげられるのは
私かもしれないし…。そんな風に今は思い上がっていようと思った。
気のせいだろうか。犀川君の態度が少々変化したように思う。
昨夜、メールをやりとりしてすぐに、返事が来なくなった。
翌朝、「つい寝てしまった」と言い訳メールが来た。
まあ、疲れているんだろうからと思って、この時は流した。
日中、明らかにメールの返信が遅くなった。
まあ、仕事が忙しいのだからと思って、仕方ないと思い直した。
そして、この深夜になっても未だ、返信がこない。
まあ、今日はとても忙しいのだろうと思ったりもした。
だが、これまでなら、メールの返事ができない理由を告げてきた。
なのに、今日は何の音沙汰もないまま夜が更けてゆく。
まあ、これまでが互いに熱が上がって異常だったともいえる。
こんなペースでやりとりしていたら、身が持たないとも思える。
そろそろペースを落としてもおかしくはないともいえる。
そもそも、犀川君の口癖は「ゆっくり行きましょう」だ。
だが、私はチーターなのだ。
そもそもスタートが命の生き物なのだ。
だから、スタートから間もないのに、ゆっくり行くなどドダイ無理なのだ。
そう、まだ始まったばかりなのに、熱が冷めるには早すぎる。
そう思っているのは、どうやら私だけみたい…悲しい。
メールの返信が来ないと悶々としている自分を
もう一人の冷静な私が見ている。
「年下の男に熱を上げて、みっともない。目を覚ませ」
分かっているのだ。
だが、どうしようもなく、犀川君に猛進してしまう。
しかし、ここで完全なる盲目になれないのが私でもある。
いつだって、もう一人の私がブレーキをかけるのだ。
そこで、このまま乱心しないように、もう一人の私が
ミサトの行動10カ条を作ってくれた。
1、長文のメールは書かない
2、好きだ好きだと連呼しない
3、いちゃつくような内容は書かない
4、すぐに返事を書かない
5、メールのやりとりは、1日5往復までとする
6、こちらから何かしたいと要求を出さない
7、誰かに犀川君とのことを話さない・相談しない
8、犀川君は恋人ではないと定義する
9、バランスをとるためにハヤテへの恋をやめない
10、新しい恋を探し続ける
これを実行しよう。容易ではないが、できない話でもない。
夢中になりすぎては、やはりみじめだ。
揺れているくらいの方が、余裕があってくよくよしない。
そんなことを決意していたら、
ハヤテがまた「腹が減った」とメッセで話しかけてきた。
続けて「会いにいくぞー」と言い出したので、
「私に?」と聞いたら、「○○さん(=男先輩)」と返ってきた。
そう、ハヤテがやってくる。
こんな時はハヤテのノーテンキさが救いだ。
犀川君と海の見える駅に行った。
頻繁にメールをやりとりして、甘い言葉を重ねていたら
互いに無性に会いたくなった。
当初は来週末に会う予定を立てていたのだけれど
急遽、「明日会おう」ということなった。
犀川君は仕事と私用で予定があったのだが、
合間の時間を私と会う時間に充ててくれた。
「近いんですけど、静かでいいんですよ」
海が見える駅に行きましょうと言った犀川君の説明だ。
降り立ったら、鄙びた駅から海が見える。
思ったよりも日差しが強くて暑かったが、
時々吹き抜ける潮風がさわやかで気持ちいい。
見れば向かいホームに、味のある待合室がある。
「あ、なんとも風情のある待合室だね」と言うと
「行ってみましょうか」と犀川君。
2人して、その待合室に入ると、
日差しがない分、ほどよく涼しく気持ちがいい。
他に誰もいない。
椅子に座ると、犀川君がガイドブックを取り出した。
「今度、どこ行きましょうか。てか、食べたいものがあるんですよ」
少し照れた顔をして犀川君が本を開く。
本をのぞこうとしたら、犀川君の腕に私の腕がくっついた。
すると、「はい」と言って犀川君がまた手を差し出した。
照れながらその手を握ると、
犀川君がじっとこちらを見る。
恥ずかしいのでやめてくれ、と
自由な手で犀川君の顔の向きを変える。
それからずっと1時間ほど、
誰もいない待合室で手をつないだまま、旅の予定を立てた。
途中、眠くなってきて、
頭を犀川君の肩にあずけて居眠りした。
私の頭に犀川君が頭を寄せてくる。
なんか、幸せだな~とじんわり思いながら眠る昼下がり。
時間がきたので、そのまま電車に乗り込んだ。
空いていたので、席に並んで座ると
また犀川君が手をにぎってきてから、私の顔を覗き込む。
「あ、海!」と言って、視線をはずさせようとしたけれど
「うん、知ってる」と言って、こちらを見たままだ。
恥ずかしいけど、これまた幸せ。
短い逢瀬を終えて、駅で別れた。
その後の犀川君の予定は敢えて聞いていない。
「じゃ、また来週末に」と犀川君からメールがきた。
またきっと手をつなぐ。
そして二人の距離はますます近くなる。
先日とは違い、前から牡蠣を食べに行こうと約束していた昨日。
仕事で夜の8時半には間に合わないと言い出したハヤテ。
「だったら無理することないから、延期しようよ」と言うと
「いや、絶対行く」と引かない。
そう、ハヤテは一度決めたら、滅多な事では取り消さない。
なぜ、そこまでして来るのか、理由は定かではない。
予定よりも1時間以上経ってから、ハヤテが「駅に着いた」と電話してきた。
女先輩が出て、「ミサトちゃんが迎えに行くよ」とハヤテに伝えた。
きっと、女先輩は気を遣ってくれたに違いない。
改めてハヤテに電話をすると、「ああ、腹減ったよ~」と甘えている。
ハヤテは今日も、相変わらずマイペースのハヤテであった。
すでに遅い時間だったので、カラオケに移動していた。
そもそも、ハヤテが歌いたいと言い出したのだ。
後輩君が「ミサトさんの『カムフラージュ』が聞きたいです~」と言うので
曲を入れると、「いいよね、これ」とハヤテがぼそっと言った。
後輩君がスマップの「Shake」を熱唱していたので、
「君もこういう恋ができるといいね」と言ったら
「俺、最近、こういう思いしてないな~」とハヤテがこっちを見てニヤリとした。
真意のほどはさっぱり分からない。
だが、少なくとも切ない胸騒ぎを感じてないということだろうから
間接的には、私にはやっぱり何の感情も持ってないのだろう。
今度はハヤテが曲を入れたら、画面に「I love you」と表示された。
「あら…」と思わずつぶやくと、
ハヤテがこちらを見てから、ふふん、と笑って「いいでしょ」と言った。
ハヤテは本当に歌が上手で、「I love you」が切なく響いた。
私の右隣で、甘いラブソングを熱唱するハヤテ。
誰を思って歌っているんだろう、なんてぼんやり考えても詮無いことだけど、
もしも誰かに捧げた歌ならば、捧げてもらえる女性が羨ましかった。
最終電車が近かったので、先に帰ると告げると、
「ええ!もう帰っちゃうの?」とハヤテが大げさに驚いた。
「だって、あんたが遅かったんだもの、仕方ないでしょう」と返すと
「だってさ~、俺、今来たばっかじゃん」と甘えた顔をした。
「最終なんだもん、帰る」と言うと
「泊まっていけばいいじゃん。俺、泊まるよ。そうだ、俺の仕事手伝ってよ」
ハヤテはいつだって、軽口で私を惑わせて、そして傷つける。
もう、迷わないと決めたのだ。
部屋は違っても、一緒に泊まったりなんかしたら
犀川君に合わせる顔がない。
「またね」と言って、振り切って帰った。
最終電車に揺られていたら、犀川君からメールがあった。
まだ会社にいて、仕事をしているという。
「会いたいな~」と思わず書いて送った。
何だか無性に人恋しかった。
ハヤテのせいなのか、犀川君のせいなのか、分からないけれど。
でも、今私が素直に甘えられるのは、犀川君だ。
だから、甘えてしまおう。盲目に。
「今、どこですか?」と犀川君から返事があった。
「夜を駆ける電車の中」と返すと
「追いかけて抱きしめたいなー」と返ってきた。
「抱き締めてほしいなー」と返すと
「今度会ったら、抱き締めたい」と返ってきた。
一度触れてしまうと、とりとめもない。
帰宅してからも、ずっとそんな甘ったるい会話を延々と続けた。
甘い甘い。全身の温度が上昇する。
ハヤテの「I love you」は切なかった。
だけど、犀川君の「抱き締めたい」はもっと切ない。
いいんだ、このまま、私は犀川君にどんどん近づくのだ。
それを選んだのだから、と思っていたら、
ハヤテがひょっこりメッセで話しかけてきて、
ノーテンキに「腹減った」とつぶやいた。
犀川君と2回目のデートをした。
雪暮れの写真集を見せる約束をしていた。
だから、並んで座れる店がいいですね、と犀川君が言った。
並んで座れる店が思いつかなかったので、適当な店に入った。
巷には、並んで座れるカップルシートというものがあるらしい。
なんて、こっ恥ずかしいのだろう(笑)恥ずかしすぎて指定などできない。
でもいいなあと内心思っていたら、満席で、ボックス席に通された…残念。
向き合って座ると、やっぱり照れてしまう。
見つめ合っては、「何?」「何でもない」と笑い合う。
きっと、一緒の時空を共有できるだけで、今の私たちは十分なのだ。
雪暮れの写真集を広げたら、犀川君が
「並んだ方がいいな」と言って、隣の席に移ってきた。
距離が近づいて、鼓動が早くなる。
照れてしまって写真集に視線を落としていたら、
視界に犀川君の手のひらが現れた。
ん?と思って、隣の犀川君を見上げると、
照れ笑いしながら、「はい」と言った。
手をつなごう、という意味だと分かって、赤面してしまう。
最高に照れてしまったけれど、「はい」と言いながら手を握った。
犀川君の手はとても柔らかくて温かくて気持ちがいい。
互いにとても照れていたから、手を握りながらも
上下左右に動かしたり、指を伸ばしたり縮めたりとせわしなく動かした。
私の右手と、犀川君の左手。
しっかりつないでいたら、自然に寄り添っていて
私の右腕と、犀川君の左腕がぴったりくっついていた。
腕を通して伝わってくる犀川君の体温が愛おしい。
ずっとつないでいたかったけれど、
お店の人がお酒を持ってきたので、
「席戻るね」と言って犀川君が手を離した。
宙ぶらりんの私の右手。
まだ体温が残っているようで、余計に寂しい。
でも、残った体温が私を包んで、何とも言えない幸福感。
帰り道、並んで歩いている時に
ふいになのか、わざとなのか分からないけれど
何度も何度も犀川君と私の腕や肩がぶつかった。
手こそ握らなかったけれど、
腕や肩から伝わる体温は私を狂わせた。
別れた後、「また手つなぎましょうね」と犀川君がメールをくれた。
「うん、また」と返事した。
徐々に詰まっている二人の距離が何とも切ない。
流れ星はやっぱり、突然やってきた。
会社に行ったら、男先輩に「今日、○○さん(ハヤテ)が来るって」と言われた。
毎度のことながら、唐突である。
「何しに来るんですか?」と問えば、みな、よく分からない。
「一応、△△の件があるからねえ」…と、はっきりしない。
昼ご飯を食べて帰ってきたら、ハヤテからのメッセが残っていた。
「ミサトさん、ミサトさん、ミサトー!いませんか」
「…ひもじい○○(ハヤテ)でまいります」
なんのこっちゃ。どうやら、金欠状態で行くからおごってね、ということらしい。
いつもと違う場所で仕事をしていたら、内線電話が鳴った。上司からだ。
「ムシンしにお客さんが来たよ。会いたいみたいだよ」
「はあ?」
どうやらハヤテが到着したらしい…。
直後にメッセでハヤテが「ムシンムシン」と騒ぎ出す。
「どこにいるの?」とハヤテ。「別の場所」と私。
「おなかすいた」とハヤテ。「何しに来たんだ、君は」と私。
あれこれ話しかけてくるので、「分かったよ、そっち行くよ」と言うと
素直に「うん」としおらしい。ハヤテのいる部屋に行くと、私の席の
隣に座り込んで、こちらを見て笑っている。元気そうだ。
「何しに来たんだ」と改めて問うと
「ええ、仕事しに来たんだけどさ〜。腹へったな〜と」
「お金がなくてお腹がすくと、すぐに甘えてくるんだから」
「へへへ」と嬉しそうだ。
仕事を早々に終わらせて、ハヤテと男先輩と3人で飲みに行った。
「お金をおろしてから行く」と告げて、後から店へ行くと
「ワインでいいよね、頼んじゃったよ」とハヤテ。
「いいね〜」と言うと、男先輩が「似た者同士だな〜君らは」と笑う。
結局、ハヤテと2人で、ぐいぐい飲みまくり、1人1リットルずつ
飲み干してしまい、すっかり出来上がってしまった。
かなり酩酊していたので、何を話したのかは覚えていない。
ただただ、実に愉快で楽しくて、酒が大層進んだ。
やっぱり、ハヤテとは最高のコンビネーションだとつくづく思う。
「ミサトさんはファンタジスタだよね〜」と言っていた。
「あんたでしょ、それは!」と言い返した。
ファンタジスタという意味が分かるような分からないような
勝手なイメージで、それが、どこか浮世離れした凄い人、だと思ったので
どう考えても、ハヤテこそがファンタジスタだと思ったからだ。
ちなみに、ファンタジスタは最高の讃辞らしい(!)。
「ミサトさんはクラリスだよね」
クラリスとは「ルパン三世・カリオストロの城」に出てくる姫様のこと。
男性陣はとかくクラリスを夢みるが、あんな清楚で可憐な女性なんて
そうそういるはずもない!とさんざん否定していたら、何を思ったのか
ハヤテが「ミサトさんの中にはクラリスがいるよ」と言い出した。
「じゃ、これから『もし?もし? 泥棒さん』と君に話しかけてあげよう」
と言った後で、そういえば、ハヤテは私の心をすっかり盗んだんだわ…と
思って、ハヤテが何を思ってそう発言したのか…勘ぐってしまった。
「ハヤテとの旅は最高に面白かったなー」と言うと
「うん、また行こう。何がいいかな。探しておく」とハヤテ。
本当がどうか分からないけど…実現したら凄いな。
「ミサトさんは本当に外国人受けがいいから、海外出張に行く度に
ミサトさんを連れて行きたいって本気で思ってるんだけどね」
…連れてってくれよ。どこでもついてくよ。
「ミサトさん、最近さ、何だか楽しそうだね」
「うん、結構ね、幸せかも」
「ふーん」
前から言っている通り、ハヤテは本当に野生の勘がすごい。
どうやら、私の微妙な変化に気づいたようで、気になるようだ。
本当に、見事なタイミングでやってくる。
やってきては、私の心をかき乱して去ってゆく。
私の最高のパートナーはやっぱりハヤテだよな、と思わせるだけ思わせて…
ハヤテは本当にずるいと思う。
せっかく小さくなりつつあったハヤテへの想いが、また少し膨らんだ。
ゆっくり、ゆっくり、丁寧に進む犀川君。
時々アクセルを全開にする私と、微妙に距離が離れてしまう。
何だか、無力感に包まれて、先週末はどうしようもなく孤独を感じた。
せっかく好きだと言ってくれる人がそばにいるのに
この孤独感はなんだろう。
贅沢すぎる悩みだとは分かっている。
それでも、恋のはじまりのスピードが合うか合わないかは結構重要だ。
急にはしゃいでいた自分が愚かに思えてきて
とたんにアクセルを離し、急ブレーキを踏み込んだ。
バランスをうまくとれない自分の不器用さにも腹が立ったが
こうなると自分でもコントロールができない。
ただただ、「ごめん」「頭を冷やす」「はい」…と言葉少なに
応えるのが精一杯で、犀川君が優しい言葉を並べたメールを
寄越す度に、空しさで心がいっぱいになった。
犀川君は、そんな私の変化にも、さほど慌てる風もなく、それでも
突き放したり、怒ったり、飽きれたりせずに、根気よく付き合ってくれた。
「いいんですよ」「ゆっくりいきましょう」「好きですよ」と
それはそれは温かい。私のわがまますら、吸収してしまう温かさ。
そうこうしているうちに、すっかり機嫌も直ってしまった。
一体、自分は何をしているんだか…orz
甘えているだけなのかもしれないが、なんて甘え方が下手なのだろう。
翌々日、タカ君がどうしても会ってくれとうるさいので仕方なく会うことにした。犀川君には余計な心配をさせたくないので黙っていた。
どうしても諦められないのだと、言葉少なにタカ君が言う。
ハヤテが好きだと聞いても、さほど辛くはなかったが
新しい人(犀川君)を好きになったと聞いたら、辛くて仕方ないという。
「そりゃ、どんなに私が○○さん(ハヤテ)を好きでも、
私とハヤテがどうにかなるなんて思ってないから余裕があったんだよ」
そう言うと、そうですね、と言う。
「どうして、僕じゃなくて、その人(犀川君)なんですか」と
タカ君はどうしても納得がいかないという。自分が今年に入ってから
もっと積極的に頑張っていれば、付き合えたんじゃないかと思うと
悔しくてならないと言う。しかし、タカ君は決定的な勘違いをしている。
たとえ、タカ君が積極的になったにせよ、私の心に彼の入り込む隙など
今やまったくない。そもそも、関心がまるでないのだ。それを痛感したのは
タカ君があれこれと私がこう言った、ああ言ったと思い出を語る度に
何一つ覚えていないと分かった時だ。「あれ、私、そんなこと言ったっけ」
タカ君には悪いけれど、私はついこの間まで、ハヤテで心があふれていたし
今は犀川君に夢中で、他の人のことは正直、ノイズでしかない。
「頑張れば何とかなったんじゃないかと思うんですよねえ」と言うタカ君に
「どうにもならなかったと思うよ」とはっきり告げた。
それでも、どうにも諦めきれないと粘られて、数時間にわたって
ファミレスで話を聞くはめになった。
「最後に、新しい彼とのことを考え直して、俺とのことを考えてもらう
ことは可能ですか」と聞かれた。「考え直すつもりはない」と即答し、
「新しい彼ときちんと歩もうと思っている。たった1カ月でこれほど
好きになったから、これから先はもっと好きになると思う。この気持ち
は揺るがない。誰も入る隙はないよ」
絶句しているタカ君には申し訳ないが、こんなところで変に思わせぶりな
ことを言っても仕方ない。かわいそうだけど…と思っていたら
「分かりました。でも、自分の気持ちは変わりそうもないので、今回は
わがままになろうと思います。俺が何しようと構いませんよね」
なんて恐ろしいことを言い出した。思わず、「刺されるのは困るなあ。
それに、新しい彼との歩みを私は止めるつもりは毛頭ないよ」と
ちょっときつめに言ってみた。さて、この先どうなることやら…
タカ君と会っている最中に、犀川君から二回メールがきていた。
タカ君がトイレに立っている間に、「大好きだ」と一言だけ書いて
返信した。その返事に、「寂しくなりかけていました(笑)」と
返ってきたのを見て、やっぱり事情を話すことにした。
犀川君は、「ふられる気持ちはよく分かるので複雑だけど、気持ちが
揺るがないと言ってくれたと聞いて本当にうれしいです。そういう事情
が分かった今、さっきの『大好き』は違う重みを感じます」と返ってきた。
そして、最後に、「ところで、片思いはもういいんですか?」と犀川君が
聞いてきた。片思い…それはハヤテのことだ。一瞬、ぎくっとしたが、
私はもう、犀川君と歩むと決めたのだ。だから、ちゃんと告げなければ。
「片思いの人は私を親友だと思っています。これまで密かに苦しんできた
けれど、新しい恋でようやく歩き出そうと思えるようになりました。これ
でやっと、片思いの彼とは親友になれると思います」と返した。
そして犀川君は「僕がその苦しみを全部取り除けるかどうか自信がない
けれど、心配しすぎてもね(笑)。こうやって冷静に話せるんだし、
少なくとも僕らは今、両思いですよ」と言ってくれた。
そだなあ、今は両思いだよなあ…しみじみ。
こんな風に言ってくれる人を、私はもっと大切にしなくちゃいけない。
ゆっくりゆっくり、大切に。そう心に決めた。
犀川君とは、ある意味、順調に(?)進んでいる感じ。
相変わらず、初々しい雰囲気に包まれていて、なんとも微笑ましいような。
くすぐったい恋は、それはそれで懐かしく、時々、私を溶かす。
それでいて、何か自分を追い込むように、甘い言葉を投げ続けている感じ。
そんな中、ハヤテがメッセで話しかけてきた。
頻繁に犀川君とメール交換しているからか、
ハヤテと話したのは、随分と久しい感じがしてしまう。
犀川君に思い切り傾いているにもかかわらず、
やっぱりハヤテが相手だと、ゆるゆるとココロが緩む。
これはもう仕方のないことだ。
ハヤテとはやはり、仕事上の「戦友」だけあって
相変わらず、心憎い情報をもたらしてくれる。
今日も、私が新たに担当することになった仕事で
大いに役立つ、魅力的な情報をさらりと届けてくれた。
知ってか知らずか…この気の利き方は他の誰もかなわない。
やっぱり、私たちは仕事を通しての「親友」という形がベストなんだろう。
犀川君とはまったり甘酸っぱい恋を。
ハヤテとは揺るぎない信頼関係を。
思えば、これほど贅沢なことはないだろう。
幸せ、幸せ(笑)
今日も目覚めた瞬間から、犀川君とのメール交換が始まった。
好きだ、好きだと書く度に、どんどん好きが大きくなる。
そうやって自分を追い込んでいるような気もするけれど。
それでも、やっぱり、重ねるほどに、確実にココロは犀川君に染まっている。
今日は仕事が忙しかったとみえて、日中のメール交換はなかった。
寂しいなとは思ったけれど、少し頭を冷やすにはちょうどいいと思い直し、
なるべく犀川君のことは考えないようにしていたら
夜になって「まだ仕事ですか?」とメールがきた。
ちょうど同僚と職場でおしゃべりをしているだけだったので
その旨を伝えると、「コーヒーでも飲みませんか」と誘ってきた。
思いがけないお誘いメールにドキドキしたけれど
会いたい気持ちはあったので、待ち合わせ場所に急いだ。
前回のように異常な緊張はせずに済んだが、それでもやっぱり
照れくささは十分にあって、手を振った瞬間、赤面していたと思う。
それでも、いざ隣に座ってしまえば、気が落ち着いてきて
1時間ほど、喫茶店でおしゃべりをした。
相変わらず、つまらなそうな表情はしていたけれど
それでも、照れたり、すねたりと、以前よりも表情が豊かになってきて
それを見ているだけでも愉快だったし、かわいいなと思えた。
仕事に戻る犀川君との別れ際、「今度、○○へ行きましょうね」と
言われた瞬間、なんだか妙に照れてしまって、耳の裏がくすぐったくなって
赤面してしまった。そんな私を見て、犀川君が笑っていて、
それを見たら、なおさら恥ずかしくなって真っ赤になってしまった。
いい年して、なんてこった…(苦笑)。
こりゃもう、すっかり私は犀川君にのぼせあがっている、
と言っても過言ではないだろう。
もう、このメール交換の頻度といったら異常だ。
以前のメールは、文通のような、どこか形式ばった話題中心のもの
だったけれど、今や感情をそのまま吐露しているものに変わった。
照れながらも、慎重になりながらも、臆病な二人はそれでも
言葉を重ねては深みにはまっていっている…というのが実情か。
あまりにも刹那的な発言をして、未来よりも今、といったような
ことを言ったところ、犀川君は「僕は未来も考えたいです」と
ちょっと哀しそうなトーンで返事をよこした。
そりゃ、私だって未来があったらいいなとは思うけれど
ずっと好きでいてもらう自信も
ずっと好きでいられる確固たる自信もない。
ある、とは言葉で言えたとしても、いつかそれが嘘になる日が
くることを、私はもう知っているからだ。
しかし、いつか嘘になる日を恐れて、寄り添う努力をせずに
逃げ腰のまま恋愛をするのはもうやめようと思った。
あの奥手でシャイで慎重な犀川君が、そんなことを言ってくれる
のだから、私も相応な態度で臨むべきだろうと思う。
だから、丁寧に愛そうと互いに誓い合った。
もちろん、どうすれば丁寧に愛するということになるのかは
まだまだ手探り状態だけれど。
久しぶりにハヤテに会った。もちろん、仕事で。
眼精疲労がひどかったため、メガネを掛けていなかったから
私の視界に映るハヤテは、ぼんやりしていた。
時々、見つめられているなあ、とは思ったけれど
そちらに視線を合わせても、合った実感がぼんやりしていた。
なんとも、今の私たちを象徴するような距離感だ。
犀川君と相思相愛だということが分かって以来、
初めて会うので、内心ドキドキしていた。
もしかして、心がグラグラっと揺れて
あっさりとハヤテにココロが戻るのではないか、と思っていたけれど
実際にはそんなことは全くなく、ココロは穏やかであった。
それよりも、現在、旅をしている犀川君からのメールの方が
はるかに私の関心を集めていた。
ハヤテとの会話は相変わらず、掛け合い漫才のようで
ココロはとても踊るけれど、それだけだった。
こんなものか、と思った。
自分で自覚している以上に、既に犀川君に夢中なのかもしれない。
夜、どうしても会いたいというタイシに会ってきた。
相変わらずピントがずれている男だと思った。
どうやら私に好意を寄せているようで、
ハヤテを諦めるなら、自分にチャンスがあるかと思ったようだ。
が、既に他に好きな人がいる、とはっきり告げたら
「それはよかった」と、大人な対応をしてくれた。ほっ
犀川君との経緯を説明している時に
「ハヤテ以外の人を好きになるなんて思ってなかったから
とても無防備な状態で犀川君と旅に出た」と言ったら、
「ミサトさんは無防備だよね」と言っていた。
そうか、誰に対しても無防備に映るとしたら問題だ。
以後、自分の言動を気をつけなければいけない。
犀川君は、旅先からこまめにメールをくれる。
友達と一緒だと言っていたので、「人恋しくないだろうから
メールはいいよ」と言ったのに、「人恋しくはないけれど、
ミサトさんとメールできないのは寂しいです」と健気な返事がきた。
まあ、私もメールが来ないのは、今やとても寂しいのだけれど。
やっぱり犀川君だな、なんて思いながら夜道を歩いていて
ふと、どうでもいいことに気がついた。
ミーティング中に、次回の予定を決めていたら、
偶然にも開催日が私の誕生日だった。
日付の話をみんながしている時に、私は内心「あ…」と思ったけれど
敢えて言うのも何だなと思って黙っていた。
するとハヤテが「その日は、誕生日の人がいるね」と
こちらを見て微笑んでいた。
冗談で「花束でもくれ」と言ったら、
「何の花がいいの?」と照れ笑いして聞いてきた。
思わず、「やっぱいい。どうせへんてこな花だろうし」と
あわてて断ってしまった。
今更ハヤテから花束などもらっても仕方ない。
なんだか、いろいろあった先週だった。
あの日の翌日、結局、仕事で夜は会えないという犀川君が
「夜会うのは明日にして、今日の昼にコーヒーでも飲みませんか」と
誘われた。「いいよ」と返事をしたけれど、やっぱり緊張は解けない。
同僚とランチした後、会社を抜け出して、犀川君が待つ喫茶店へ行った。
「早めに着いたので、店の奥の席にいます」とメールが入った。
店のドアを開ける手が少しだけ震える。やっぱり相当緊張している。
さんざん、恥ずかしくなるような、甘いささやきを
ずっとメールでは交わしてきた相手に直に会うのだ。
どんな顔をして会えばいいのだろう。
そんなことはまるでなかったような顔をすればいいのか
言葉の余韻が残ったような顔をすればいいのか
だけど、どれもどんな表情ならそれを表しているのか
私にはさっぱり分からなかった。
店に入って、店内を見回す。犀川君らしい人は見当たらない。
曇りガラスの仕切りに、人影があった。
きっとあれが犀川君だ、と思った。
ドキドキと外にも聞こえそうな鼓動のまま、近寄ってのぞくと、いた。
「こんにちは」と切り出した。ぎこちない笑顔をしているのが分かった。
本を読んでいた犀川君が顔をあげる。私を見て、まぶしそうに笑った。
ぎこちなさは、結局、ずっと続いた。
何を話しても、嘘っぽい気がした。
それでも、はやるように、どうでもいい言葉ばかりが口をついて出る。
犀川君は、おだやかな表情で、聞いている。
30分ほどコーヒーを飲みながら話して
「じゃ、そろそろ会社に戻るわ」と告げると、
「それじゃ、僕も会社に戻ります」と言う。
「どうする?私、先に帰ろうか?」と聞くと
「いや、いいですよ」と曖昧な表情をした。
また鼓動が大きくなる。二人で歩いている所を会社の人が見たら
一体どう思うだろう。単に、近くで偶然会って、会社まで一緒に
歩いている、と見るのが自然だろう。誰も二人の中を
勘ぐったりしない。そう、それほど年が離れているし…。
店を出て歩き出すと、隣に犀川君がいない。
振り返ると、遠くを見ながら、物悲しいような顔をして
ゆっくりとした速度で歩いている。
やっぱり、一緒に歩きたくないのかな、と思ったので
「やっぱり先に戻るよ」と言うと
「いや、いいですよ」と、無表情な顔で言う。
「そう…」と応えて前を見て歩く。
相変わらず私の速度は、犀川君の歩みよりもはるかに速い。
合わせるべきか、このままの速度で行くべきか。
時々、振り返り、どうでもいい事を話しかけてみる。
犀川君は、店の中にいた時よりも、つまらなそうな顔をしている。
何だか、やりきれない気持ちになって泣きそうになる。
だから、先に帰ろうかって言ったのに…。
相手の意向など聞かずに、さっさと帰ってくればよかった。
そう思った時、後ろから声がした。
「僕、郵便局に寄ってから戻ります」
私を見ないで犀川君が言った。
なんだ、やっぱり、一緒に戻りたくなかったんじゃないの。
だけど、「分かった、じゃあね」と精一杯に微笑んで背中を向けた。
背中を向けた瞬間、泣きそうな顔になっていたと思う。
早足で会社に一人戻った。
戻った後の私は完全に情緒不安定に陥っていた。
さすがに職場の女の先輩が「なんかあった?」と聞いてきた。
「いや、平気ですよ」と応えたが、夕方、先輩が外でミーティング
しようと言って、喫茶店に私を連れて行ってくれた。
「それはミサトちゃんの緊張が相手に伝染したんだよ」
先輩はそう笑った。「緊張してたに決まっているじゃん」と。
「いい子だよ、犀川君は。惚れる価値あると思うよ。
そりゃ、○○さん(ハヤテ)とは全然違うタイプだけど、
違うよさが十分にある。何よりもミサトちゃんに誠実だと思うよ」
そうだろうと思う。だけど…
「だけど、犀川君の気持ち確かめたわけでもないし…」
「そんなの、好きだって分かるじゃん!」と先輩は笑う。
「おかしいじゃん、メールを頻繁に交換して、仕事の用件もないのに
わざわざ外で二人で会うなんて、何の感情もないのにするか?」
そうだろうと思う。だけど…私は口ほどに自分に自信がない。
あんなに年下で、好青年の犀川君が
どうして私なんかを好きになるだろうか。
冷静に考えれば、そんな事はあり得るはずがない、と思えるのだ。
犀川君から、「さっきはありがとうございました」とメールが来た。
私は何だか悲しくて、メールができなかったけれど
犀川君は、別れ際のあの表情なんてまるでなかったように
さわやかにメールを送ってきた。「嬉しかったです」と。
嬉しかった? 嬉しかった?本当に? そんなはずはない。
そんな顔してなかったじゃない。いたたまれない顔をしてたじゃない。
素直に聞いてみようか。お世辞なんて言わなくていいと言おうか。
「帰り道、とても物悲しい顔をしていたので、寂しくなりました」と
素直に言ってみることにしよう。いつもみたいにごまかすのをやめよう。
そう思って、勇気を出して、そう伝えた。
「ごめんなさい。緊張したし、どんな顔をして隣を歩けばいいのか、
分からなかっただけです。寂しくさせたのなら、ごめんなさい」
犀川君からは、こんな返事がきた。
先輩の言っていた通りだった。
夜、元彼のミツ君から、本当に本当に久しぶりにメールがあった。
サザンのライブを見たら、急に話がしたくなりました、と。
ミツ君はサザンが大好き。ミツ君と付き合っていた時代、
影響を受けて、私もよく聴いていた。
ちょうどテレビ中継を家で見ていた。
断るのも過剰反応かと思って、いいですよと返事した。
翌日、犀川君と夜、飲みに行った。思えば、これは初デートってことか。
シングルモルトウイスキーのおいている店に行った。
私がマッカランを飲みたかったのだ。
思い出のマッカランを飲んで、私は今夜、タバコを復活させる。
ハヤテとの思い出を清算するつもりだった。
犀川君は、無口だ。あまりしゃべらない。
しゃべっても、時々、途中で言葉を吞み込んでしまう。
「ほら、言って楽になれ!」と冗談めかして言うと、
照れながら笑って、それから、選ぶようにして言葉を紡ぐ。
時々、すねたような顔をして。
時々、照れたような顔をして。
そんな顔をして、こちらをじっと見つめる。
シャイで言葉が少ないくせに、そんな時は目だけは逸らさない。
まっすぐな視線は、私の胸を苦しくさせる。
なぜか、慌てて、私は目を逸らしてしまう。
外は雨。屋根のあるテラス席にいた私たち。
私の話題が途切れると、二人の間には沈黙が流れる。
隣にいる犀川君を見たら、
黙って遠くを見るような顔をしてタバコを吸っていた。
無表情…。楽しいのか、つまらないのか、緊張なのか、
その表情からは読み取れない。
メールでは雄弁な彼も、目の前にいると寡黙だ。
緊張でマッカランとタバコしか口にできない。
食べ物を頼んだけれど、口に運べない。
もしも、隣にいるのがハヤテだったらどうだろう。
そもそも、沈黙なんてあり得ない。
きっと二人で掛け合い漫才状態になって
互いにもっと大いに酒をぐびぐび飲んで
さらに陽気になって、私は心の底から笑い声をあげていただろう。
ハヤテといると緊張なんてまるで無縁だ。
この世に緊張なんてものがあることすら、嘘のように思えるだろう。
ハヤテは陽だまり。ハヤテは私をいつも陽気にする。
お酒もご飯も大いに進み、二人はいつも笑ってる。
きっと、それは恋人という関係になっても変わらない自信がある。
犀川君が遠くを見ている間、
私はそんなことを思って、小さく笑った。犀川君は気づかないだろう。
最終電車の時間が近づいている。
店を後にして、駅まで二人で歩いた。
雨上がり。隣を歩く犀川君の顔を覗き込む。
「あれ、物悲しい顔じゃなくて、笑ってるね」
そういうと、犀川君は照れ笑いしながら言った。
「僕、そうやって突っ込んでもらった方がいいな」
ふと、手が触れる。でも握らない。
これが私たちの今の距離。
駅で「さよなら」と言って背中を向けた。
私は絶対に振り返らない。
背中を向けたら、顔から笑顔が消えた。
顔の筋肉が凝っていると思った。
そっか、無理して笑っていたのかもしれない。
本当に犀川君の事が好きなのか、分からなくなる。
帰り道、犀川君からお礼メールが入った。
「つまらなそうな顔をしてたかもしれないけど、僕は嬉しかった」
と犀川君は言う。黙って遠くを見ていた人とは思えない。
「黙って遠くを見ている犀川君を見て、一人でいるよりも
二人でいる方が寂しいこともあるのかと思った」と返した。
ハヤテのことを思い出していたくせに、と自分でも思う。
ずるい女だと自分でも自覚している。
でも、寂しいと思ったのは嘘ではない。
寂しいと思ったから、私のココロは揺れたのだ。
そう言い訳をした。
すぐに返事がやってきて、犀川君はごめんなさいと謝っていた。
犀川君は店でも言っていた。
いつも、つまらない顔をしていると言われると。
そう思われているんだろうなと自覚しているけど
どんな顔をすればいいのか、子供の時から分からなくて、と。
でも、僕、今、すごく幸せなんですよ、と。
とてもとても、寂しそうな、それでいて熱い目をして。
何だか、それを思い出したら、かわいそうになった。
いじわるなのは、私の方だったかもしれない。
「今度、黙って遠くを見る時は、私の手を握ってね」と書いた。
私に掛けられる最大級の言葉。
すぐにまた返事がきた。
恥ずかしいと思うけど、手をつないでみますと。
そのまま、ずっとぼーっとしてようかな、と冗談も添えて。
そんな控え目な犀川君が愛おしく思えた。
やっぱり、このまま、犀川君と寄り添う努力をすべきだと思った。
翌朝、会議の予定があったので早めに出社した。
犀川君から再び、昨夜はありがとうござましたとメールが来た。
メールの中の犀川君は本当に素直で、ロマンチックだ。
「ミサトさんとのメールでは、不思議と素直に思っていることが言える」
のだそうだ。つられて、つい、自分もロマンチックな言葉を重ねてしまう。
そんな流れの中で、ふいに、文脈の中に、「好きになった」と書いた。
このまま送るかどうか、読み返して、しばし逡巡。
そう、私たちはまだ、「好き」という言葉は使っていない。
「嬉しい」とか「寂しい」とかの言葉はいっぱい重ねても
「好き」だけは敢えて避けてきた。
さて、どうしよう。でももう、言わない方が不自然に思える。
犀川君は遠慮している。
性格も奥手だし、慎重だし、年下だし…。
多分、私が言わなければ、犀川君は決して言葉にしないだろう。
機会を逃せば、私だって言えなくなってしまう。
早めにこの恋を終わらせるならば、それも一つの選択だ。
傷つかずに、そっと、何事のなかったかのように消すことができる。
でも、そんな向き合い方でいいのだろうか。
これでは、いつもみたいに、逃げることが前提の恋になってしまう。
そんなんじゃ、私はいつまで経っても、
この場から飛び立つことができない。
覚悟を決めて、送信ボタンを押した。
さよなら、ハヤテ。そうココロの中でつぶやきながら。
犀川君の返事は、別に「好き」を特別扱いしていなかった。
「好き」なんて言葉を使わなくても、当たり前だという風だった。
ちょっと拍子抜けだ。こんなに覚悟して送った言葉なのに。
昔々好きだった人に言われたことがある。
「『好き』って言葉を軽々しく言うな!」と。
「お前は『好き』を軽々しく使う。『好き』って言葉はもっと重い。
もっと大切に使わなくちゃいけないんだ」。そう怒られた。
だから、私はあれから、その言葉を忠実に守ってきた。
軽々しく言ったわけじゃない。覚悟のうえの「好き」だった。
だから、確認したくなった。
「好きだ言ったのは初めてなんだよ」と。
そうしたら、「僕も好きですよ」と返ってきた。
「犀川君、私のこと、好きなんだ」ともう一度確認した。
だって、大事なことだもの。軽々しくない言葉だから。
「あれ、言わなかったですっけ」と照れていた。
「こういう事は、何度言ってもいいんですう!」と返した。
やっぱり照れていたけれど、それでも犀川君は言ってくれた。
「好きですよ。旅に行く前から、僕はずっと好きでした」と。
そうだったのか…。私よりも先に、彼は自覚していたようだ。
どうやら、鈍感なのは私の方らしい。
夜、ミツ君から電話があった。
仕事が入ってしまったので、軽く夕飯を食べに行こうと。
少し気が楽になった。
実は犀川君は、ミツ君のお気に入りの後輩なのだ。
犀川君には内緒で、ミツ君の待つ店に言った。
こうして店で二人、向き合って酒を飲むのは何年ぶりだろう。
それでも、長い付き合いだったから、
それにもう、別れてから長い時間が流れたから
今更緊張もなければ、特別な感情のない。
ただただ、懐かしい。ただそれだけだ。
いきなり、サザンのライブの感想を聞かれた。
感動して最後はちょっと泣けた、と、表面的な感想を言った。
すると、ミツ君は「ふ〜ん、そっか」と言って、遠くを見た。
「どうしたの?」と聞くと、
「すっかり合わなくなったね」と、寂しそうに笑った。
「俺はさ、正直、最後は冷めちゃったよ」と彼は言った。
彼は冷めてしまった理由を語り出した。
熱烈なファンゆえの理由だった。
思えば私は、あなたと別れた後、サザンは殆ど聴いていない。
ただ、ライブを見ていて、桑田の老いを痛烈に感じ、
えも言われぬ無常観というか、哀愁を感じていた。
だけど、感想を問われて、私はそれを口にしなかった。
表面的な感想を並べたのは、
もう二人が本音で何でも語るような関係ではなくなったことを
意味していたのかもしれない。
私は無意識にも、ミツ君にココロの奥を語ろうとはしてなかった。
ミツ君の感想を聞くうちに、
そっか、私はもう彼に本音は見せまいとしていたのだ、と悟った。
きっと、ミツ君もそれが分かったのだろう。
だから、「合わなくなったね」と言ったのだ。
あんなに愛していたのに、時の流れは残酷だ。
最後に、「互いに老けたよねえ」と言い合って、力なく笑い合った。
その夜、久しぶりにタイシが、Skypeで話しかけてきた。
近頃、一緒に仕事をする機会もないので、すっかりご無沙汰だ。
「お元気ですか」と近況を報告していたら、
いきなり、「どうしてもミサトさんに会いたい」と言い出した。
はあ?と思って、そのまま「何言っているんですか」と聞いたが
会いたいの一点張りだ。困ったなあ。
仕方がないので、来週、時間を作ると約束した。
新しい仕事の話もあったので、いい機会だと思うことにした。
それにしても、なんだろう。
入れ替わり立ち替わり、いろんな男たちが会いたいと言ってくる。
だけど、ハヤテはあれ以来、音沙汰なしだ。
一番、強引に誘ってほしい人が、いつもどこかへ消えてしまう…。
さらに、その後。
今度は女の先輩がSkypeで話しかけてきたので、しばし仕事の話。
流れで、「その後、どう?」と聞かれたので、素直に報告した。
先輩は、私の3年におよぶ片思いを、ずっとそばで見守り、励まして
くれた人だ。私の苦悩をよく知っている。そして今、犀川君の登場を
喜ばしいことだと言ってくれ、応援をしてくれている。
そんな先輩だから、本音がぽろぽろ出てくる。
自分すら意識してなかったような、本音たちが。
犀川君とは順調です。犀川君は好きだと言ってくれました。
私も好きだと告げました。とても優しいし、幸せです。
でも、時々、犀川君に言っている言葉たちは、本当はハヤテに
言いたかった言葉たちなんじゃないかと思えるんです。
言いたくても、ずっと言えなかった言葉たち。
だから時々、とても後ろめたくなるんです。
もしかしたら、犀川君への思いは、偽りなんじゃないかと。
ハヤテはやっぱり、私の運命の人です。
それだけは、たとえ犀川君と付き合っていても変わらない。
ハヤテはどう思うだろう。
ハヤテにはまだ言ってないんです。
喜んでくれるかどうか心配です。
ハヤテが傷つくんじゃないかと思うと心配です。
うまく言えないけど、ハヤテが傷つくような気がするんです。
そりゃハヤテは私のことなんか好きじゃないです。
だけど、なぜかしら、傷つくと思うんです。
ハヤテだけは傷つけたくないのに。
そういうと、先輩は、人は業が深い物だし、二人を比べるなんて
できないと言う。ハヤテが運命な人だというのも、よく分かると。
でも、ハヤテを諦めるために、犀川君に走ったようには見えないと。
犀川君は全然違う魅力がある。そこにミサトちゃんは惹かれている。
それでいいじゃないかという。無理に忘れるなんて無理なんだからと。
先輩は結婚して子供もいる。とても幸せな家庭。
だけど、好きな人がいる。彼は、先輩の運命の人に似ているらしい。
今でも、運命の人は私の心の支えだよ、と言っていた。
みんな、そういうものを心に抱えているんだから
自分だけ責めちゃ駄目だよ、と励ましてくれた。
どうして、運命の人とは結ばれないんでしょうか。
どうして、一番好きな人が手に入らないんでしょうか。
先輩は言う。でも、思い出はなくらない、と。
ミサトちゃんは、ハヤテとは、いわば戦友でこれからも続く。
ミサトちゃんは、ハヤテを失わない、と。
犀川君が好きだ。その気持ちに偽りはない。
だけど、運命の人は、間違いなくハヤテだ。
あんな人は二度と現れない。
だから、私の人生から、消えてしまいませんように。
戦友でいいから、ずっと消えませんように。
彼が消えないなら、私は安心して恋ができる、多分。
犀川君は相変わらず優しい。
ハヤテは相変わらず流れ星。
二人の優しさは全然形が違う。
ハヤテと約束した禁煙を破って、今日は雨の中、タバコを買いに行った。
夜の帳が落ちた街の中を、傘をさして一人ゆく。
雨あしが強いから、足下も腕もびしょぬれだ。
何だか、心細くなって泣きたくなる。
タバコの自動販売機にお金を入れたら、タスポをかざせと点滅している。
ハヤテと約束した3カ月前、まだタスポは導入されていなかった。
自販機の前で、時の流れを実感した。
知らず知らずのうちに時は流れ、いろんな事が変わっている。
自販機も、そして私も。
犀川君がメールをくれたので、3カ月前は好きになるなんて
思いもしなかったと書いて送った。
僕も思わなかったけど、3カ月後も好きでいてくれたら嬉しいと返事があった。
3カ月もすれば、もう外はすっかり冬だ。
3カ月後も好きでいてくれたら、一緒に雪を見に行こうと書いた。
犀川君からは、雪を見ながら、手をつなぎましょうと返ってきた。
くぅーーーーっ!
つ、つ、ついに…明日か明後日か、犀川君と二人で会うことになりそう。
くぅーーーーっ!嬉しいけど、ド緊張だ…わなわな
どうしよう、こんなにテンパったのはいつぶりだ? やばいやばい
まあ、ある意味、私が背中押しちゃったんだけど。
夕方から上司と「一杯だけね」と言いながら飲みに行った。
珍しく有言実行で、お開きの時間が早かった。
ちょっとお酒が入って、ちょっと小雨が降っているから切なくて
つい犀川君に「会いたくなっちゃったよ〜」と書いたメールを送った。
そしたら、「じゃあ、会いますか。でも、もう帰り道か…」と返事がきた。
もう帰りの電車の中だったので、一瞬、次の駅で降りようかとためらった。
でも、何だか今日の服装が気に食わなかったし、
化粧もきちんと直したかったし、
心の準備できてないし…なんていろんな理由をつけて
結局は「なんだ、残念。もっと早くに言えばよかった」と返事した。
そうしたら、犀川君は「じゃあ、今週中に会いたいですね」と言い出した。
だから、素直に「いつでもいいですよ」と返したら、
「もっと早くに約束すればよかったですね。遠慮してました。
照れくさかったのもあるか(笑)」と返ってきた。
なんだ、互いに、照れくさいうえに遠慮して、
なかなか切り出せずにいたんだわ。
しかし、とても会いたいような、緊張しちゃって避けたいような…
まるで中学生のよう。(今なら中学生の方が落ち着いているか…)
何を着ていこう。変に着飾れば同僚がおかしいと騒ぎ出しそうだし
だからといって、やっぱり、ちょっとくらいはめかしこみたいような。
こんなに、普通の女の子っぽい感覚、久しぶり(笑)
どうしよう…胸がドキドキする。
早朝、犀川君から「おはようございます」メール。
彼のおはようで目覚める朝は、とても折り目正しく清々しい。
「昨夜は寝ちゃいました」と詫びていた。
通勤時間中、ずっと犀川君とメール交換。
会社につくと、犀川君はしばらく会社近くの喫茶店で仕事をするという。
「邪魔したらいけないから、またね」とメールすると
「邪魔じゃないです。嬉しいですよ」と言う。
だから結局、仕事の合間をぬって、何度も何度もメール交換した。
昼過ぎ、ハヤテが急にSkypeで話しかけてきた。
「牡蠣を食いに行こう。来月の第1週か第2週がいい」
珍しく具体的だ。そういえば以前にそんな約束してたっけ。
「仕事で頼みたいこともあるんだ」と言う。
あれこれくだらないけど、笑っちゃうネタもいっぱい投げつけてくる。
くくく…!と、こんなに心の底から笑えるのはハヤテだから。
ねえ、ハヤテ。ずっと言ってたでしょ、早く誰か見つけろって。
のろけてみせてよ、って言ってたでしょ。
mixiの日記にそれっぽいことを書き込んだ。
きっとハヤテは読んでいる。
だから、こんなに投げかけが具体的で半ば強引なのだ。
いつだって、ハヤテは
何もない時は、早くどこかへ行ってしまえと言うのに
少しでも飛んでいきそうな気配を感じると
すぐさま、私を縛ろうとする。
きっと無意識な行動だから、彼もどうする事もできないね。
ねえ、見つけたよ。
ハヤテと牡蠣は食べに行く。
でも、それはこれまで通り、友達として。
これから先も、私たちは友達として牡蠣を食べに行くだろう。
それで、いいんだよね。
その後、犀川君から来たメールには
「今度、一緒に昼飯食べにいきましょう」と珍しく誘ってきた。
さらに夕方きたメールんは
「同じビルにいるのに全然会えないですね。
今度ゆっくり晩ご飯でも食べに行きましょう」とあった。
これまた珍しく誘っている。奥手でシャイな犀川君が!
「晩ご飯賛成。でも、ふいに会ったら照れくさくて赤面すると思う」
そう伝えると、「僕は無愛想必至です(笑)。目が泳いでいたら
照れているだけなので、気を悪くしないでください」と返事がきた。
そっか、犀川君も照れ隠しなのか!
でも…照れ隠しって…ただの同僚に抱く感情だろうか??
やっぱ違うよねえ…。
でも、まあ、頻繁にメールをやりとりするようになって2週間。
その間、互いに夏休みもあって一度も顔を合わせていない。
とても親密になって互いの距離は近づいたけれど、
顔を合わせていないだけに、どこか夢幻のよう。
きっと、はっきりさせるにも、近く会わないと、と思う。
きっと、慎重派の犀川君もそうだろう。
そこでもし、違うと感じたら、何もなかったように振る舞えばいい。
ただ、いずれにしても、犀川君はあったかい。
珍しく、甘え放題。
翌日の昼まで待ったが、犀川君からメールはなかった。
まあ、順番から言えば、犀川君からのメールで終わっている訳だから
私から返事をする番なのだが…でもでも。
でも、我慢限界。もう気が狂いそう。
何度の何度も携帯を見ては、メールを受信していやしないか確認する始末。
メールがない度にため息を繰り返し、イライラは頂点に達した。
もう駄目。もう我慢できない。仕方ない、こちらからメールしよう。
我慢していたがもう限界だと、そのまま送ると
「え?我慢していたんですか?どうして?」と犀川君。
「だってうざいと思ったんだもん」と私。
「そんな事全然ないですよ。嬉しいに決まっているじゃないですか」と犀川君。
「我慢なんてしなくていいですよ」と言ってくれ、
我慢している自分が、何とも子供じみて見えた…orz。
その後は、頻繁にメールをやりとりして…
ようやく夕方になって、気分が落ち着いてきた。
抑えようにも、犀川君への感情が爆発してしまう。
これまで、ずっと抑圧の恋をしてきたせいだろうか。
まっすぐに、素のココロを犀川君にはぶつけてしまう。
いけないいけないと思っても、コントロールできない。
「感情が表にできないで、つまらない顔しているより全然いいですよ」
犀川君はそう言ってくれるけれど…。
犀川君から早朝、ブルートレインの中からメールがあった。
旅情と哀愁が漂う、ちょっと悲しげなメール。
あと少しで、彼の住む街に着くという。
無事に帰ってきてくれて嬉しいと伝えると、
そう言ってもらえるなんて本当に嬉しいと返事があった。
午後から出社するというので、
私は午後から社外の会議に出席のためいない旨を伝えると
「いってらっしゃい」と見送ってくれるメールが届いた。
そして、私はハヤテのいる会社に向かった。
彼と会うのはかれこれ1カ月以上ぶり。
やっぱり心は揺れてしまうと覚悟していた。
ところが、思いのほか、心が揺れない。
ハヤテは、会うなり、心配そうに「大丈夫か」と
私の体調を気遣ってくれたり、あれこれ話しかけてきたが
もう熱を帯びた視線でハヤテを見ている自分はいなかった。
むしろ、犀川君からメールは来てないだろうか…と
携帯のメール着信ばかり気になってきた。
犀川君への想いはハヤテへのそれを超えてしまった。
その夜、会社の同僚と飲みに行った。
盛り上がって久しぶりに朝まで飲んだ。
犀川君にメールの返事を書いてなかったことが気になって
途中、深夜にもかかわらずメールした。
返事はなかった。きっと旅の疲れもあって寝ているんだろう。
早朝、家に帰る途中、犀川君からメールがあった。
案の定、「昨夜は10時には寝ちゃいました。
返事したかったな。体調は大丈夫ですか」と犀川君。
それから何通かやりとして、家に着いたのでもう寝ると伝えると
「起きて寂しかったらメールください」と言ってくれた。
そして午後。雨音で目が覚めた。
夢に犀川君が出てきた。
二人でバスに揺られていた。
犀川君を思うと切なかった。
「胸が苦しい」と素直に書いてメールした。
「お酒の飲み過ぎですか?」と犀川君から返事がきた。
…違うだろ、流れ的に…orz
「夢に君が出てきて切なくなったという意味だよ」と返すと
「そういう意味か(笑)。うれしいです。そういう気持ち
分かります」と返事があった。
うれしいです、か…。
そういう気持ち、分かります、か…。
なんか、素っ気なくないか?
なんか、他人事みたいじゃないか?
なんか、空振りしてないか、自分?
なんか、かみ合ってなくないか?
なんか、なんか、なんか…。
「気持ちを切り替えるために風呂に入る。お邪魔しました」と
返事をしたら、「今日はゆっくり休んでくださいね」と返ってきた。
なんか、どうでもいい感じだよね…。
むしゃくしゃする。
むしゃくしゃする。
むしゃくしゃして、ぱーっとオーブンレンジを衝動買い。
パン作りに没頭して忘れようと思っても忘れられない。
返事は書かないぞ。
「気持ちを切り替える」んだから。
すがったりしないぞ。だから返事は書かない。
なのに、犀川君からのメールも来ない。
そして日付が変わった。
メールの着信音は一向にならない。
このまま、終わってしまうのだろうか。
夏バテなのか、持病がたまたま出たのか、異の激痛に襲われて
夏休み明けにまた連日病欠した。痛みに耐えている中、
犀川君から何度も何度もメールが届く。
犀川君は私と入れ替えに夏休みに入り、旅に出ていた。
旅先から、こまめにメールをくれたのだ。
結局、あれからどんどんメールをやりとりする速度が速まって
一日に6回も7回も、もう何度やり取りしたか忘れちゃうほど
メールで言葉を重ね、心を重ねてきた。
すっかりもう、犀川君との交流は私の日常の一部となり
いまや、犀川君がいない日常は考えられない。
言葉は相変わらず、核心の周辺を埋めるような甘い言葉の応酬で
きっといつかは逃れきれないことを互いに予感しながら
切なさの加速に応じて、メールをせっせと交換する。
そのもどかしいほどの速度こそが、想いを高めている。
そんな中、久しぶりにオンラインになったら
ハヤテが「だいじょうぶかーーーーー!!」と声を掛けてきた。
どうやら上司から私が寝込んでいることを聞いたらしい。
私が犀川君とこんなに親密になりつつあることをハヤテは知らない。
少しずつ心が離れているなんて夢にも思わないだろう。
明日、久しぶりにハヤテに会う。
かれこれ1カ月以上見てない。
この1カ月は劇的な変化だった。
ほんの2週間ほど前までは、まさかハヤテ以外の人に
夢中になるなんて、私だって思いもしなかった。
明日、ハヤテの顔を見たら、私はどんな風に思うだろう。
「ああ、やっぱり好きなのはハヤテ」と思うのだろうか。
それとも、「ああ、やっぱ終わったな」と思えるだろうか。
もし、そう思ったら、敏感なハヤテは変化に気づくだろう。
その時、私たちはどうなるんだろう。
変わらずに、親友になれますように。
最後の願いは、ただそれだけ。
まだお互い、どこまで近づいていいものなのか手探り状態。
だから、核心の周辺で、思いを託した間接的な言葉の応酬。
私も、そして犀川君も、加速するばかりの速度を止められない。
多分、互いにもっと近づきたくて、寄り添いたいと願っているのは
間違いない。だけど、お互いに臆病で、加速の中で、決定的な言葉を
意識的なのか、無意識なのかは分からないけど、避けている。
そんな中、犀川君が「ミサトさんは大切な人だ」と言ってくれた。
年も全然気にならないし、こうやって気持ちを共感できるだけで
得難いことだと言う。
メールを重ねているうちに、私たちは気づけば、心を重ねてしまっていた。
本当にいいのだろうか。これは真実なんだろうか。
私は本当に犀川君を愛している?
私は本当に犀川君を愛せる?
メールが来る度に、優しい言葉に触れる度にたまらなく嬉しいけれど
本当に愛せるのか、時々自信がなくなる。
ハヤテのことは、気づいたら、猛烈に愛していた。
それは今も変わらないし、これからも変わらない。
犀川君はどう? 努力しなきゃ駄目? いやいやもう好きよ。
でも、ハヤテの好きとはちょっと違う。
うん、違っていいんだ。違っていいんだ。
だた、私はちゃんと向き合いたい、犀川君と。
できるなら、きちんと向き合いたい。
逃げずにいられるだろうか。時々不安になる。
犀川君は強引に抱き止めてくれる人じゃない。
だから、私が自分で、きちんと寄り添う努力をしないといけない。
できるか?
犀川君とのメールのやりとりの間隔が短くなっている。
最初は、一日一通ずつの交換というペースだったのに
今日などは往復六通。
そして、ちょっとした「波紋」があった。
犀川君のやわらかで優しい雰囲気につい甘えて、
不用意にも、必要以上に心の扉を空けてしまった。
それは私が学生時代に負った、小さな傷。
今なお私の心に残る小さな棘。
誰かを好きになると、怖くなる。
その人が自分に対して好意を寄せてくれるとなお怖い。
その気持ちはいつか必ず変わる。
いつか必ず冷めてしまう。
「永遠なんてないんだよ」
私を根底から打ちのめした一言。
当たり前だと分かっているけれど、言ってほしくなかった。
この自己矛盾は重々承知している。
なんでこんな事を話してしまったのだろうか。
言わなくてもよかったのに。
でも、犀川君なりのあったかい返事がきた。
「僕も『自分の気持ちが絶対に変わらない』と言える自信、ないです。でも…」
ありがとう、でも、違うんだ。
自分のことを棚上げして、向き合いたくないの、気持ちの変化に。
都合がいいんだ、私。とてもズルいんだ、私。
犀川君のせいじゃない。せっかく真摯に受け止めて応えてくれたのに
私ったら、その返信に早くも向き合えずに逃げかけた。
一目散に、今、この場所から逃げたい…と願った。
ね、だからいつも、きちんと他人と向き合えないんだ。
だから、片思いしかできないんだ。
なのに犀川君は、逃げずにどんと構えていた。
「僕だって不安だし、どこまで自分を出していいのかなんて分からないですよ」
そう言って、また、あったかい空気で私を包む。
こんな私に寄り添ってくれようとしてくれる。
「うれしいですよ」と励ますように何度も繰り返しながら。
そろそろ、甘えてみてもいいのだろうか。
そろそろ、きちんと向き合ってみてもいいだろうか。
おそらく不慣れで、無様だろうけれど、
私ももう少し、寄り添う努力をしてみてもいいかもしれない。
こんな温かい気持ちに触れたのだから。
ポニョを見てきたよ、と犀川君にメールした。
ポニョを見たら、飲みながら語りましょうと犀川君が言っていたからだ。
雪国が好きだと犀川君に話した。
犀川君も雪国が好きだという。
雪の中を手をつないで、静かに雪の積もる音を聞いていたい。
明日にも冬が来てほしいと言った。
そうしたら、犀川君から
「そっか、手をつなぐとあったかいでしょうね。
冬、待ち遠しいです」と返事があった。
誰と手をつなぐんだろう。
誰とは書いてないけれど、
何だか、これまでの経緯を見れば、それって私?と思えなくもない。
嬉々として返事を書いていた夜中。
いつの間にやらオンラインになっていたハヤテが話かけてきた。
「ポニョ見たか」とハヤテ。
そうか、mixiの日記にも書いたんだった。見たんだな。
「うん、見た、最高、大好き」
ノーテンキに応えた。
そう、違う。大好きだけど、ハヤテに向かってはいけない。
終わるのだ。この機会に、ハヤテを諦めるのだ。
所詮、脈なしなのだ。
親友への道を歩むのだ。そう決めたのだ。
「ポチによろしくね」
ハヤテが言った…。
日記に、ポニョのことだけじゃなくて、
体調を崩した愛犬についても書いていた。
最悪の場合を覚悟するよう医者に暗に言われたことにも触れていた。
ハヤテには分かるのだ。
ポニョの話で浮かれているように見えても
実はポチの件で、かなり動揺してる私の気持ちが。
だからハヤテは妙に神妙だった。
神妙すぎて、逆にハヤテが元気ないのかと思い
「どうした?」と問えば、明るい答えがかえってきた。
これでもか、これでもか、と言わんばかりに
底抜けにアホで、底抜けにノーテンキな情報ばかり。
ありがとう、それがハヤテの優しさだと
私は気づいているからね。
でも、どうしてこのタイミングなの?
どうしていつも、諦める覚悟ができた時に限って
私のココロを揺さぶるような言動をとるわけ?
私のことなんて、どうでもいいくせに。
そうやってまた、「当て逃げ」して消えちゃうくせに。
犀川君への返事のテンポが少し狂った。
今宵、ペルセウス座流星群の活動が極限になるという。
空を見上げれば、無数の流れ星が舞い降りる。
なんてロマンチックな夜だろう。
隣に君がいなくとも、目を閉じればそこにいるのを感じながら
空を見上げたいと思い、犀川君にメールを書いた。
まだ仕事で会社にいた犀川君。
「今夜は上を向いて帰ります」とあった。
「僕も安心して「寂しいです」って言えます。」ともあった。
じんわり、じんわり。
犀川君の間合いの取り方はじんわりと温かい。
そっと包むように、そっとそこにいるような
真綿のような清らかさと、優しさで。
あいにく空は曇り空。
それでも、今の僕らには心に何か煌めきを感じてるはずだ。
その煌めきこそ、今宵の宝物。
煌めきよ、どうか流れて消えてしまわないで…。
あの後、犀川君からまた返事がきて、文末に
「というわけで、僕のほうも「思い切り気が向いている」ので返事
してみました。」とあった。ポーっ('▽'*)
やややや。やばいっしょ、その返事は!
誤解しちゃうよ、誤解していいの?誤解するよ、誤解しちゃうぞ。
不思議なのは、犀川君と私は、恥ずかしいーとか言いながらも
案外素直に、「寂しい」だとか「切ない」だとか「人恋しい」だとか
互いが互いに向かってなら、言えるのだ。
もちろん、他の人相手ではそんなことは口が裂けても言わない二人だ。
「不思議だな」と私が言えば、「不思議ですよね」と犀川君も言う。
スピッツの「不思議」という曲がある。
これが今の私たちにぴったり、合うような気がするのだ。
目と目で通じあえる 食べたい物とか
今好きな色は 緑色 雨上がり
絵になるスマイルが 僕に降りそそぐ
痛みを忘れた そよ風に だまされて
何なんだ? 恋のフシギ 生きた証
シャレたとこはまるで無いけれど
君で飛べる 君を飛ばす
はぐれ鳥追いかけていく貝の中閉じこもる ことに命がけ
そんな日々が割れて まぶしかった 次の頁ああベイビー!恋のフシギ さらにセットミーフリー
過ぎていったモロモロはもういいよ
わざとよける 不意にぶつかる
濡れた道を走っていく何なんだ? 恋のフシギ 恋はブキミ
憧れてた場所じゃないけれど
君で飛べる 君を飛ばす
はぐれ鳥追いかけていく
恋のフシギ さらにセットミーフリー
過ぎていったモロモロはもういいよ
わざとよける 不意にぶつかる
濡れた道を走っていく
憧れていた場所(=ハヤテ)じゃなけいれど
過ぎていったモロモロはもういいよ
わざとよける、不意にぶつかる
君(=犀川君)で飛べる 君(=犀川君)を飛ばす
恋のフシギ さらにセットミーフリー
犀川君とメールを重ねるたびに
ハヤテとの日々がどんどん色あせてゆく
前回の犀川君からのメールで、嬉しい情報があったので、思わず返信に
「君はサイコーだ!」と書いて送った。
そうしたら、その返信に「そいつはうれしいぜ(笑)」とあった。
なんだろう、たったそれだけなのに、にんまり嬉しくなっちゃうのは。
久しぶりに親友に会いにいき、久しぶりに互いの近況報告。
「旅から帰ってきて以来、毎日、メール交換しているんだよね〜」と言うと
「そりゃあ、相手もまんざらじゃないという証拠でしょう」と言う。
そうなのかなぁ。そうだと嬉しいなぁ。
最新の返信には、「こちらこそ、お忙しい中、ありがとうございます。
メール、時間があって気が向いたときでいいですよ。」とあった。
思わず、「思いきり気が向いているから書いているのよ」と返信した。
さて、どういう反応がかえってくるだろうか。かわされちゃうかな(笑)
で、影響されやすい私は近頃、鉄道雑学の本を読み始めた。
24時間たってから犀川君から返事がきた。
メールの着信に気づいた時は、年甲斐もなく飛び上がって喜んだ。
すっかり年下の男にのぼせ上がっているではないか。いいのかなぁ…。
そして、今回のメールもまた、実に心地よい雰囲気に包まれていて
おまけにとても嬉しい一言がさりげなく添えられていたりする。
もちろん、そこに特別な感情が込められいるというわけでもないだろうが
それでも、なんだかじんわりしみる。
じんわりしみる…っていうのが犀川君の特長みたい。
あのあと、ハヤテがまたメッセンジャーで話しかけてきて、
夜中の2時から、仕事をはじめてしまった。
相変わらず、強引に自分のペースに他人を巻き込むなぁ。
朝方になって、互いにヘロヘロになってきて
「もう限界。寝る。おつ」と言うと
「俺も限界。寝る。おつ」とハヤテ。
まったく、どこまでいっても、無茶できる親友という間柄。
これでいいのだ、これで。
そんなことよりも、犀川君から22時間も返事がこない。
もしかして、メール文通終わった?
まあ、いつかは終わりがくるけれど、なんだか寂しい。
犀川君はいま、何をして何を感じているのだろう。
犀川君は私をやっぱり思ってくれてないのかな。
ああ、苦しくて苦しくて食欲がだんだんとなくなってきた。
こんなことなら、新たに恋なんてするもんじゃなかった。
今ならやめられるだろうか…。
ちょっと引っかかるところとか
ちょっと感動しちゃうところとか
それを表現する時に選ぶ言葉だとか
そんな些細なことが似ているということを発見すると
ココロの針がさっと触れて
一気に気持ちの流れが変わったりする。
犀川君とは、この2日間で、4往復のメールを交換している。
まるで文通でもしているようなピュアな感覚。
ハヤテとはメッセンジャーでの話が多かったせいか
メールとはいえ、かつての手紙のような速度のように感じ、
そのスローなテンポが返って切なさを加速させる。
不思議なもので、やりとりはスローなほど思いが深まるみたい。
犀川君からのメールが待ち遠しくて待ち遠しくて
ついついメールのチェックをしてはため息。
受信ボックスに犀川君の名前があると、小躍りしたくなる。
返信メールを出してから3時間。
まだ返事はこない。
まだか…とがっかりしていたら、
ハヤテがメッセンジャーで五輪のことを話しかけてきていた。
まだオンラインのようだけど、返事をする気分じゃない。
ハヤテから話しかけられているのに無視するのは初めてだ。
ほぼ、確実に、私は犀川君に恋をしちゃったようだ。
あっけないな。想像していよりも、あっさりした終わりだな。
ハヤテが私の運命の人なのは、間違いないと今でも思う。
でも、ハヤテと私の人生は、やっぱりクロスしない。
結局、私はそれをどうすることもできないままだったけれど
多分、これでいいのだ。
ハヤテ、大好き。
今も、ハヤテのことが大好き。
でも、変わらないまま、他の誰かに胸をときめかせることができるんだね。
犀川君はあったかい。
そのあったかさに、寄りかかりたい。
共通の関心事について、ひょんなことから犀川君とメール交換中。
犀川君が使う言葉は、どこかあったかい。
今度また飲みに行きましょう、という約束ができた。
2通の返信メールを見て、にやにやが止まらない。
何度も何度も読み返す。
届きそうな気がしちゃうのは思い過ごしかな。
もしも届いたら…ハヤテではない人を選択する事に
今なお一抹の不安を感じるのは、多分、片思いが長過ぎたせいだよね。
今度、ハヤテに会った時にココロがぐらつかなければ、本物だ。
犀川君を想うと胸が苦しい。
空が青ければ青いほど、犀川君が恋しくて切ない。
今日は、会う口実がない。
旅が終わってしまったから、彼がうちの部の部屋にくる口実がない。
つながりが切れてしまうようで、なんだか不安。
別件の用事で、犀川君の部があるフロアへ顔を出した。
帰り際、犀川君の席の方に目をやると、
こめかみに手を当てて、考え込んでいる犀川君がいた。
視界の片隅に犀川君の存在を感じながら、フロアを後にした。
犀川君は私に気づいたろうか。
気づいたとして、何かを感じたろうか。
昨日の夜、一緒に飲んでいた時のことを思い出した。
好きなカクテルの名前がどうしても思い出せなくて
ようやく思い出した時に、
「スプモーニだ! 覚えておいてね」と言うと、
「はい。もう大丈夫ですよ」とうなずきながら微笑んでくれたっけ。
犀川君は覚えているだろうか。
ココロが犀川君色に染まってしまって、
すっかりハヤテが消えてしまった。
さよなら、ハヤテ。ココロ変わりをしちゃったわ。
職場の先輩が、旅の慰労会をやろうと言うので、犀川君にメールすると
すぐに返事が返ってきたのだが、その文頭、さわやかに「おはようございます」とあっただけで、悩殺されてしまった…(笑)。メールの文章は長くはないものの、言葉のひとつひとつが温かい。そう感じるだけで、胸の奥がキュンとしちゃうのは、やっぱり恋をしちゃったのだろうか。
先輩が慰労会をやろうと言い出してくれたからよかったけれど、今日は朝から、どうやったらまた犀川君に会えるだろうか?と、そればかりが心を占めていた。これが恋じゃなくて何なんだ?
なるべく早く行けるように、きりきりと仕事しますね、と返事がきて撃沈…。
そんな時に、ハヤテは今日から夏休みなんだそうだ。
ハヤテの後輩とメッセンジャーで話していたら、そう言っていた。
以前の私なら、なんで言ってくれなかったんだと、イライラしただろうけれど、今日は「ふーん」てなもんで、ずいぶんと執着心がなくなったもんだな〜と、他人事のように思ったりして。昨日もそう感じたけど、ハヤテへの恋は、ここでいよいよフィナーレを迎える可能性が非常に高くなってたな。
で、ハヤテの夏休みよりも、犀川君に会えるということで浮かれていた。仕事で遅れるというから、「じゃ、仕事終わったら電話してね。○○君(=彼の同期)か、私のどっちでもいいから」と、念のため私の携帯電話の番号を教えておいたのだが、午後8時すぎに、犀川君から電話が掛かってきた!ただそれだけで、心ときめく自分。落ち着け落ち着けと心で言い聞かせても、つい笑みがこぼれちゃうよな。
犀川君がやってきて、昨日の話の続きをしているだけで、じんわり幸せになる。そんなおだやかな、あったかい気持ちにさせてくれる人は久しぶりだ。ハヤテはとびきりのドキドキをくれるけれど、あったかい気持ちにさせてくれることはあまりないしな(笑)。そんな予想不可能なハヤテが大好きだけど、全く違う魅力を持っている犀川君に、じわりじわりと惹かれてしまうのは、少々、破天荒なハヤテに疲れてしまっている、というのもあるのかもしれない。
帰り道、駅まで犀川君と2人で歩いた。
意識しちゃうと途端に言いたい言葉が遠くなってしまう。
逆方向の電車に引き裂かれて、切なさに輪をかける。
なんでだろうな、久しぶりに、泣きたくなってしまった。
で、そんな夜。久しぶりにタカ君からメール。
あまりコンタクトをとりたくなくて、メッセンジャーで不在にしていたので、しびれを切らしてメールをしてきたようだ。「まだ(ハヤテに)片思いをしていますか? 話したいことがあるんです」という。タカ君、年があまりにも離れているからと断った私が今、タカ君ほどじゃないけれど、それでも結構、年の離れた犀川君に恋をしかけているんだよ…なんて話したら、なんて思うかな。
こうなってみて一つだけ明らかになったのは、年下だからとタカ君をふったのではなく、単に好きになれなかっただけなんだ、ということだ。
ああ、それにしても胸が苦しい。
やっぱり、共に旅をするというのは、互いの心境に変化をもたらす。
きっと、ふいに相手のココロに触れてしまう機会が、日常よりもはるかに多いせい。
ボックス席で向き合って、思わず膝と膝が触れ合ったり、
街を散策しながら、思わず肘と肘がぶつかったり。
意識をしない相手なら、なんてこともない、実に些細な事柄が重なって
静かに静かにココロのどこかが少しずつ溶けていく感じ。
「私さ、町中にひっそり建っている看板が好きなんだよね」と言ってカメラを構えたら
普段クールな犀川君が、小躍りするように「え!!本当ですか?」と喜んでいる。
何事かと思えば、「僕も大好きなんですよ。そっか好きなんですか」と嬉しそうだ。
「出家するのが夢なんだよね」と言うと、「そんなぁ、そっちに行かないで下さいよ」と笑う。
きれいな夜景を見て感動していたら、「まちの灯りが一つ一つ消えるまで
ここで一緒に見てますかね」と照れながら言う。
ああ、すっかり私のココロの中では、犀川君の存在が大きくなってしまった。
旅が終わった帰り道、ふと隣に犀川君がいないことが寂しく思えた。
そういえば、こんな感覚、以前もあったな…
そう、それはハヤテと欧州に旅した帰りの成田エキスプレスの中だった。
まさか、隣にいなくて寂しくなる対象が、ハヤテ以外にも現れるなんて…。
いやいや…犀川君に関しては、ちょっと感傷的になっているだけだと戒めていたら、
夕方になって、犀川君がオフィスに顔を出した。
昨日はお疲れさまでした、楽しかったね…普通なら簡単に振り返って、さよならなのに
結局また終電の時間になるまで、犀川君と二人、話し込んでしまった。
今回の旅のこと。夢のこと。自分のこと。次の旅のこと…。
寂しがりやでロマンチストな犀川君。そのクールな表情で、そんな彼の本質を
知っている人は少ない。道中、嬉しそうに電車を見ているのを見ていて、
この人は電車に恋でもしているのかと思ったと話したら、
「僕は電車よりも人の方が好きですよ」と笑う。そして、
「誤解されやすんです。どうしたらいいのか教えてください」とまた笑う。
「人との距離を測って、誰かと近づく努力をするのは難しい。時々、面倒くさくなって
どうでもいいやという気になってしまう。結局、孤独という現実は変わらないし。
そう思っちゃうと、このまま一人でいい、放っておいてとなるんだよね」と言うと
「そりゃ孤独ですけど、放っておいてなんて寂しいこと言わない下さいよ」と笑う。
そのほか、他愛もない夢を話しているうちに、いつの間にか一緒に喫茶店をやる話に
発展したり、冬にはまた一緒に旅に行こうとか、今度は九州のどこそこでうまいもの
食べましょうとか…話は尽きることなく、時間が流れてゆき、最後は、
「なんだか人恋しくなっちゃったな〜」とつぶやきながら、去っていった。
犀川君と、ロマンチックで感傷的な話をしているのは楽しい。
好きなものとか、感動することとか、感性が非常に近いからだと思う。
普通なら、恥ずかしくて絶対口にできないような事も、
似ているから、分かってくれるだろうと思えるから、ためらいなく言える。
そして、言葉を重ねる度に、ココロの変化が大きくなってしまうのだ。
これは実にまずいことになってきたぞ…と思って帰り支度をしていたら、
犀川君と話し込んでいる間に、ハヤテがメッセンジャーで話しかけてきていた。
「そっち、すごい雨じゃない?」
その一言だけが、取り残されていて、どこか寂しげだった。
ハヤテ、相変わらず、マイペースだよね。
ハヤテ、まさか私がココロ変わりするなんて、思いもしないだろうな。
もちろん、ハヤテを好きだということをハヤテは知らない。
知らないけれど、ココロが感じていて、それが当たり前だと思っているはず。
だから、私が犀川君にこれほどまでにココロ奪われている状況は予想外だろう。
ハヤテ、こっちはすごい雨だよ。
そんなことよりも、もしかしたら、本当にこのまま私はココロ変わりしちゃうかもよ。
いいかな?いいよね、別段困りはしないだろう。
きっと、犀川君は、あんたよりもはるかに優しくしてくれるよ。
やっぱり、毎日、顔を合わせられるというのは大きいよ。
ずっと憧れてきた場所じゃないけれど、
それでもそこは、あたたかい気がする。
ハヤテはハヤテらしく。これまで通り、遠く輝いていてほしい。
もしかしたら、終末かもしれない。
今日も犀川君が職場にやってきた。
夕方からオフィスで宴会をしていたので、犀川君に声を掛けたらしい。
「よう!」と声を掛けると、微笑みながらうなずいてくれた。
うむ…なんとも素敵だ…。
つまみに、クサヤを持ってきてくれた人がいて、
「これ、すごくうまいよ」と渡すと、
「ほんとだ、いい匂いがする」と犀川君。
どうやら食の趣味が近いようだ、と思うだけで何だか嬉しい。
今日はちょっぴり犀川君寄りな夜。
旅までカウントダウンだ。
ちょっと今宵は、ほんの少しココロが散り散り。
ココロの破片の一部はハヤテに向かい、
ココロの他の破片は犀川君に向かい、
それぞれにふわふわと漂い、行く宛もなくさまよっている。
どちらかに落ち着きたいような、
でも、どちらにも落ち着きたくないような、
このまま、しばらくふらふらした後はふっと消えてしまいたい…
そんな衝動さえ覚える。
今日もまた犀川君がやってきた。
念のため、食いっぱぐれないように、事前にカロリーメイトのような
栄養補助食品を買っておくといいですよ、というので、
カロリーメイトはまずいから、オレオでいいかと聞くと、
それは単なるお菓子だからなぁ…と突っ込まれ、
ええ〜お菓子でもいいやん!と反論すると、
それじゃ食事にならないでしょう、と
静かに、でもおかしそうに笑っている。
名古屋でてんむすが売っているかもよ、と他の人が言うので
じゃ、オレオをやめててんむすを買うと主張すると
乗り換え時間が9分しかないんだから、
乗り遅れないで下さいよ、とクールに言った後、
また、おかしそうに笑った。
この間よりも、昨日。昨日よりも今日。
その笑顔は確実に、柔らかく、親しみを感じるものに変わっている。
その笑顔が実にさわやかで素敵だ。
時々、彼が年下であることを忘れてしまう。
一方で、ハヤテはハヤテのまま、のんきでマイペースだ。
仕事の合間には、今日は何キロ痩せたとの報告をし、
一緒に牡蠣を食いに行く日のことを楽しそうに話していた。
深夜オンラインになると、今度は、私の夏休みはいつなのか聞いてきた。
その後は、仕事の話でしばし盛り上がり、
そうして、安心したのか、流れ星はまた消えていった。
最近、ハヤテが深夜にオンラインになるのは珍しいので
おそらく、仕事が終わらずに会社に泊まり込んで徹夜でもするのだろう。
犀川君と旅に行く日、ハヤテも参加するミーティングがある。
旅のほうが先に予定が入っていたので、私はミーティングを欠席する。
そのままハヤテも私も夏休みに入ってしまうので、
しばらくハヤテとは会えない。
3カ月前、私はハヤテとある約束をした。
それぞれに誓いをたて、達成できなかった者が達成できた者に
互いが大好物の牡蠣をおごる、という約束だ。
私はほぼ99%の確率で達成できる見込みがある。
ハヤテは現在奮闘中だが、そもそもの誓いのハードルが高かったので
現状でもすでによく健闘した、ということで許してあげようと思う。
その約束の日が13日なのだが、
互いが夏休みでコンタクトがとれない。
すっかり忘れていた。
ハヤテが17日まで延期?と確認してきたのはそのためだ。
この3カ月、この約束が二人をつないできた。
いよいよそのゴールが近づいてきた。
一緒に牡蠣を食べに行った後は、互いに誓いが守れているかを
報告する「義務」は事実上なくなってしまう。
ハヤテが私に話しかけてくるきっかけが、
一つ消えてしまうことを意味している。
離れていても、一緒に並走している気分を味わえたこの3カ月。
犀川君に揺れながらも、並走が終わると思うと胸が苦しい。
旅に出るので、メンバーと打ち合わせもかねて飲みに行った。
もちろん、その中には犀川君もいた。
ドSな犀川君は、私ともう一人が夢見がちなことを言うとバッサリ斬り捨てるものの、最後には夢をフォローすべく、あれこれ策を練ってくれた。クールに見せていて、その実、情が厚いというのが彼の特徴のようである。
昨夜は結構遅くまで飲んでしまったので、今日は早く帰ろうと思ったら
犀川君がまた時刻表を片手にふらりとやってきた。
今日は早々に他のメンバーは引き上げていて、
残っていたのは私だけだ。
しかし、犀川君は「そうですか」とあっさりと答えるだけで、「それが何か?」といった感じだ。「で、どうしましょうか」と旅の構想を話始める。結局、ネットで探しながらも、あれこれ行程について構想を練った。
どうやら、犀川君はレトロな雰囲気なものが好きで、いかにも観光地チックなところを避ける傾向があることに気づいた。味があると言えば聞こえはいいが、ぼろっちいところがそそられるらしい。そう、電車の車両も行き先の街にある建物も。
私が「ええ!もうちっときれいなところがいいな〜」というと、「しゃらくさいですよ」と笑って否定する。それでも、最後は「いや、いいですよ。僕はどこでもいいんですから」と譲ってはくれるけれど。
結局、この日も最終バスに乗れない時刻まで2人で話し込んでしまった。どうでもいいけど、うなぎが大好物なんだって。今年は土用の丑の日が2回あるから最高だと喜んでいた。なるほど。
かわいい人だな〜と思う。こだわりが強くて、決して押し付けたりはしないけれど、頑固者であることは間違いない。私は彼よりもはるかに年上なので、それがかわいく見えるのだろう。
でも、やっぱり違うなと思う。無理矢理、何か気持ちを高めようとしてないか?と自分に問いかける。もしそうだとしたらなぜ?とさらに問いかけると答えは一つだ。ハヤテから逃げようとしているだけなのだ。
ハヤテはというと、相変わらずのんきでいて、仕事が忙しそう。
客が来るまでの余白の時間にメッセでちょっかいを出してくる。
ハヤテほど、気を遣わず、私が自然体でいられる異性は他にはいない。それを再認識して、なんだかへこむ夏の夜。
打ち合わせだ、という名目で夜、ハヤテのオフィス近くの中華料理店に呼び出された。
仕事で遅れると伝えたら、オフィスについたら携帯に電話をくれとハヤテ。
電話すると、今からそっちに行くと言って、ハヤテがやってきた。
仕事らしい話もしたが、相変わらず雑談が多く、相変わらず掛け合い漫才のようになる。
ハヤテとその同僚らに「うちの会社に転職しなよ」と勧められる。
その後は、酒も入り、記憶が曖昧で、よく覚えていない。
記憶が飛ぶほど飲んだというわけではないが、なぜか記憶の輪郭が曖昧だ。
翌日の昼前、「腹へった」とメッセンジャーでハヤテがつぶやいてきた。
なんだか、腹がへるたびに、声を掛けてくる。
話がどんどん飛んで、北海道がいいところだ、という話になる。
小樽はいいよ、とハヤテがいう。寿司も野菜も海の幸もうまいらしい。
今のプロジェクトがうまくいったら、ボーナス旅行で小樽に行こうとハヤテが言う。
いいねーと答えながら、所詮口先だけだろうと冷めている自分。
一方、用があって犀川君の職場近くに行った。
滅多に用事がないので私から赴くことは殆どなく、犀川君が私の職場に顔出すことが多い。
で、犀川君はいるかなーと思って見渡すと、残念ながらいなかった…。
なーんだ、いないのかーと残念がる私。
どっちつかずの宙ぶらりんなココロ。
やばい…やばいぞえ。
通勤電車に揺られながら、ぼやっとiPodで音楽を聴いていたら、
浮かんでくる映像はなぜかハヤテではなく、犀川君だ…! ヒエーーーッ
昨夜の会話の中に散りばめられていた、犀川君のロマンチックな言動の数々。
今ごろになって、じわり波紋になって、私のココロの中を広がっている。
このままいけばタカ君の時の二の舞だ。
どこかでこの感情の高ぶりを抑えなければ…。
とはいえ、来月、仕事半分、遊び半分で犀川君と旅に出かける。
昨夜別れ際に、「じゃあ、話の続きはまた電車の中で」と犀川君は言っていた。
「夜は長いですから」とも言っていた。
長い夜。ココロがシンクロしてまったらどうしよう…。
たいそうワインを飲んだので、宴席でハヤテが何を言っていたのか、正直細かいところは殆ど覚えていない。目の前に座っていたハヤテがご機嫌そうにワインを飲みながら、うまいうまいと連呼していたのは覚えている。さらには、何事も予想外じゃないとつまらないよね、といった趣旨のことを話している流れで、「ミサトさんのことを『かわいいね』って言うのは想定内のことで全然つまらないじゃん。だから、それは言わないの。もっと違う予想外のことを言ってあげないとつまらないでしょ?」と嬉しそうな顔して言っていたのも覚えている。「そんなところは予想外じゃなくて想定内でいいのだよ!」と返したような気がするが定かじゃない。さらには、飲んでいた店がイタリアンだったこともあり、イタリア行きたくなっちゃったな〜とつぶやいたら、このプロジェクトが終わったらイタリア行くか!とハヤテ。その隣にいた彼の後輩が「僕はスペインがいいですね」と言ったらハヤテが「俺もスペインがいいなー」と言うので、「私はポルトガルがいい!」とご機嫌に答えたら、そんな私に向かってハヤテが「じゃ、イタリアじゃないじゃんか!」と突っ込みを入れていたのも覚えている。でも、その程度。4時間近く飲んでいたはずなのに、残った記憶はそれだけか。
それを補足するように話したかったのに、仕事が忙しいのか、この2日、ハヤテはオンラインにならない。元気にやっているのかどうかすら分からない。どうしているかな…。ま、週明けに、また宴席があって顔を合わすので、いつも見たいにドヨヨンと落ち込みはしないけれど。
さて、そんな折、ちょっとココロがざわざわする事態が発生。
会社の後輩の犀川君とひょんなことから、仕事を終えた後にオフィスで2時間もおしゃべりをしてしまうことに。彼はいわゆる鉄ちゃんで、あまたの中はかなりの鉄道データベース。ただ、オタクはオタクでも暗くて地味なオタクという感じではなく、なかなかの好青年で、コミュニケーションもまともにとれる人だ。よく、職場の女性の先輩たちとは「犀川君はいい男だねぇ〜」と話しているような、そんな子なのだが、これまで接点もあまりなく、プライベートな話をする機会もまったくなかった。が、なぜか今夜は鉄道の話からはじまって、いろんな話題で大盛り上がりに。
最後に、私が大好きな宮崎アニメの話に話題がおよび、「夏の何が好きって空を見上げた時に大きな雲があること。大きな雲をみつけると、内心『龍の巣だーー!』と叫んでいるし、事実、あの雲の向こうにはラピュタがあると思ってしまう。さらにはあの雲の近くの石たちはきっと今頃ざわめいているんだろうな、と思うんだよね」と話したところ、彼はさらりと「絶対ざわめいていますよ。僕もそう思うんです」と言ってのけたのを見て、ドキっ!!!どうせ馬鹿にされると思ったのに…どうせ口先だけで話を合わせると思ったのに、彼は違って、実に誠意をもってそう回答してくれて、その後も、細かいジブリアニメのシーンについて熱く語り合ってしまった。細かい部分の価値観があまりにも合致していて、ドキドキしてしまう。帰り道、なんとなく、犀川君のことを考えてしまう自分。タカ君の二の舞になるから…余計なことはしないように…そう自分に言い聞かせつつ、ついつい胸の高鳴りを抑えることができない。年下すぎるだろ、彼は!…ストップストップ。ハヤテ不在だとこれだから困るな〜。
iPhone発売で、ハヤテが「ゲットした?」とSkypeで話しかけてきた。
仕事を休んで並ぼうかと思ったが、取りやめたことを告げると、
「いつ買うの?」と聞いてくるので、
この土日でゲットできれば購入しちゃうと答えると
「じゃ、iPod touchはいらなくなるね。
ありがとう。俺がもらってあげる」とハヤテ。
「何も言う前からお礼を言うな」と言うと、
「もらっても、傷つけまくってしまうかも」と
早くももらうことを前提に話が…(苦笑)
「すでに傷つきまくってるよ。touchの裏面は傷つきやすいんだよ。
私みたい」と言うと、「そうか、俺は傷つけているか」とハヤテ。
「もうボロボロだね」と返したが
いつものように、そのままスルーされた…orz
傷ついてるんだぞ〜本当はいつも!
お前のそのデリカシーのない言動に翻弄されてるんだぞ!
冗談だと思っているだろうが、冗談の中にこそ、本音が紛れるってもんだ。
その後、後輩君が来週のミーティング後に、
ハヤテが飲みに行こうと言ってます、と伝えてきた。
自分で言ってこい、と思ったがハヤテらしいと言えばハヤテらしい。
ミーティングがメーンなんだか、
飲み会がメーンなんだか…あやしいものである(笑)。
「今日は○○に行くんだ。今日はこっち(に来る予定)?」とハヤテ。
「今日は別件があるから行かない。昨日そっちに行ってたんだよ」と私。
「え?来てたのか」とハヤテ。もしかして会えなくて残念?(笑)
とある案件がピークを迎え、今日の夕方、ようやくほぼ完了。
ハヤテがデモを見たいというので、その完成品を見せると、
「lovely!ありがとう」とご機嫌な返事がか返ってきた。
lovelyか…loveかと思ってドキッとしちゃったよ!(笑)
ありがとう〜とか、すばらしい〜とか、そういうニュアンスだったのね…orz
それでも、嬉しいんだから、惚れたら負けよねぇ。
仕事の話でも盛り上がり、合間合間でくだらないつぶやきを投げてきたり
本当に最近、よくハヤテが声をかけてくる。
来週のミーティングを設定して準備をしていたら
タカ君が声をかけてきて、ハヤテがミーティングの後、
飲みに行きたいと言っていると報告があった。
きっと、またガキがじゃれているように、なんだかんだといろんな理由を
設けては、おごってくれ、おごってやると、言い合うに違いない。
ま…色気もへったくれも何もないが、いつものように、よしとして受け入れよう。
そういや、全然話は変わるけど、全く別件の仕事で、職場の先輩たちが
異動していった元カレについて話していて、かなり肝っ玉の小さい男だと判明した。
なんだか、少々、自分にがっくりした。見る目が全然なかったなぁ…と。
あの時は、恋の魔法で、彼が誰よりも素敵に見え、器も大きく、有能で、
憧れてやまない対象だったのに…恋の魔法って恐ろしい(笑)。
確かに今、一緒に仕事する機会があっても、「なんでこの男はこんなに近視眼的で
俯瞰して物事が見れないのだろう?」と悲しくなる事が多々あるもんなぁ…。
もしかしてハヤテも? 恋の魔法が素敵に映しているだけ?
…もしかしてそうかもしれない(笑)そうかもしれないけれど、
周囲のハヤテを絶賛する声を聞く限り、必ずしも私の見る目が現在、
狂っている、という訳でもなさそうだ。
トドのつまり、ハヤテの場合、一般的な恋の魔法なんてものはあまり効果がない。
ハヤテの魅力は、もっと破天荒で予測不能なところだし、
いわば、存在自体に魔法がかかっているような人だ。
だからきっと、この魔法は解けない。
だけど、解けない魔法ほど癖の悪いものはない。
私はずっとこれからも、この魔法に翻弄され続けるのだから。
ミーティングの朝、Skypeで話しかけてきたハヤテは、いきなり
「声がでない」というものだった(絶句)。飲み過ぎのせいなのか、不摂生がたたっているのか、理由はともかく風邪が悪化したのだそうだ。「で、それで今夜は宴会だと騒いでいたのは君なのに、大丈夫なの?」と聞けば、「大丈夫だろう」とのこと。これはいつものようにドタキャンの可能性大とふんで、あまり期待しないことにした。「一件、お客さんのところ回ってから顔出すよ。また後で」と消えていったハヤテ。ドタキャンされても落ち込まないように、先回りしてあきらめておくことにした。
ところが、ミーティング予定時間の1時間前に、ハヤテが部屋に入ってきた。
入ってくるなり、私の顔を見つけると、一瞬げげ!という顔した後に笑った。なんでそんなリアクションをされなきゃいかんのだ。他の人にはさわやかに「こんにちは〜」とか、ガラガラの声でも挨拶しているのに、私には何の挨拶もない。ムッ。
夕方、だんだん声が出るようになったハヤテは、よし、では行こうと仕事を切り上げた。調子はお世辞にもいい状態ではなかったので、大丈夫かと念を押したが、本人の意思は固かった(笑)。
しばらく町中を歩いた末に見つけた焼酎の店に入り、ロックで焼酎やらウイスキーやらを飲みまくっていたら、今振り返ると、細かい話の内容はほとんど覚えていない(笑)。前歯が欠けたようになっていて、「怒りのあまり欠けた」とハヤテが力説していたのをぼんやり覚えている。人のことを適当にバンドに誘っていたくせして、音沙汰ないな、と思っていたら、バンド活動してやがったのが判明(呆)。なんて奴なんだ…しかし、何のコピーバンドをやっているか話していたようだが、肝心の何のバンドだったのか覚えていない。
帰りはまた、ハヤテはマンキツに消えていった。翌日の朝、「あれだけ飲んだのに、さらに体重が減っていたぞ」と嬉しそうに報告があった。「あのさ、まさか本気で病気だとか、そんなことないよね?」ーあまりに順調なので心配すると、「大丈夫だよ。それにしても俺って追い込み強いな〜」とノーテンキ。競争の結末がどうなるにせよ、がんばっているハヤテに牡蠣はおごってやろうと思う。
だんだん、これが恋心なのか、分からなくなるなぁ。
確かに好きだし、ハヤテを見ると、心が緩む。居心地もいい。
でも、ドラマチックな甘い展開などあるはずもない。別にこれといって、何かハヤテを諦めなくちゃいけない理由を突きつけられている訳でもないけれど、この心穏やかな今のうちに、ハヤテへの思いを少しずつ変化させて、それこそ、本気で親友の道を突き進んでみるのも手かもしれない。それによって失うものは、私のハヤテへの恋心以外、何もないし。そうなったら多分、今以上に私たちはもっと気が合うようになるに違いない。もし、私とハヤテの間に距離があるとしたら、それは私のハヤテへの思いが邪魔しているに他ならない。この気持ちさえ、人知れず消えてくれたらいいのだ。今なら、なんとなくできそうな気がする。
二重飛び連続50回できたら、おごってやると言ったのが
なぜか、私とハヤテが競争して、勝った方がおごることになっていた。
別件の夜の会議の予定をキャンセルしてまで、
ミーティングの後、飲みに行こうと屈託ない。
ちなみに、減量は順調に進んでいるらしく、
ほぼ毎日のように、「○キロになった」との報告が入る。
親友街道まっしぐら、だ。
海外にいる時、ハヤテはよくメッセで他愛もないことを話しかけてくる。
「ロシアがオランダに勝ったぞ!(サッカーeuro2008)」
「MEGUMIがジャック・ブラックに勝負服で迫るらしいぞ」
「朝昼とバイキングだから太ってしまう。こっちは飯がうまいぞ」
「帰ったら合宿するぞ」
「○○関連のCMSを作ったらどうだろう?」
「○○専用のUI作ってみてはどうだろう?」などなど。
きっと寂しいだけだろう。話相手は私じゃなくてもいいはずだ。
たまたま仕事で深夜までサインインしているのが私くらいだから
単に都合よく話しかけているだけだ。でも、それでもいい。
昨日、メールチェックしていたら@niftyの占いのメルマガが届いていて
つい読んでしまったら、思わずやりたくなって、つい有料版をやってしまった。
1つだけやってもバランス悪いので、3つやって統計をとってみた。
ずばり、「ハヤテは私をどう思っているのか。今後どうなるのか」を占ってみた。
【占い1】恋人というよりも同志
この先で待ち受けている二人を近づける出来事、それは「争い」です。
お互いに譲らないのは本気であるがゆえ。真っ向からぶつかり合う二人のただなかに飛び込んでいける者はおらず、同僚や友人たちは、あなたとあの人を遠巻きにして事態が収まるのを見守ることしかできないでしょう。ただ……最終的に二人は、周囲を散々心配させた挙げ句、自分たちで事態を解決させます。これをきっかけに、二人の間には信頼関係が生まれ、相手へ敬意を抱くようになります。あなたとあの人との距離はこれをきっかけに、誰も予想しないほど接近します。のみならず、さらに仲を深める下地ができあがっているのに気付くはずです。
このままいった場合に迎える恋の結末、それは「比肩」という通変星に導かれ、「対等な関係」であると暗示されています。あるときは同士、またあるときはライバルとも表現できる関係を作り上げるでしょう。特に、同じ志を抱く二人の場合、お互いが自らを高めるために必須の存在と感じるに違いありません。もしあなたが映画か物語の中で見るような情熱的な恋愛を期待してこの占いを選んだのであれば、がっかりしてしまったかもしれません。
しかしこの関係は、実はそう捨てたものではないのです。なぜなら、徹底的に議論し合う二人は、最終的にお互いがお互いにとって一番の理解者となれる組み合 わせだから。その「以心伝心」ぶりは、日常会話程度の内容であれば、ほとんど言葉を発さずとも相手の考えが手に取るようにわかってしまうくらい。少々の邪 魔や障害などまったく問題にせず、あなたたちは正確に
お互いの気持ちを理解し、まるで意識を共有しているかのごとく、「恋愛関係」では片付けられない強い 結びつきを手にするでしょう。なくてはならないと同時に、共にいて全くストレスにならない「当たり前」の存在。堅く結びついたあなたとあの人の絆は、二人が自らの意志で別れを望まない限り何人たりとも断ち得ぬほど絶対的なものとなるのです。
【占い2】広い心で受け入れればソウルメイトに
「相手を好きになることで、自分のことも好きになる」そんな恋をするために、ふたりは生まれてきた、そう月が告げています。もしかしたら、ふたりは互いに刺激し合える存在だとあなた自身も思っているのではないでしょうか。相手が自分にはないものをもっているとか、またはまったく違う趣味で、でもそれがかえって互いのことを意識する原因になっているとか……。
そんな違うものをもった者同士だからこそ、強烈に惹かれ合ってしまうというところが、ふたりが他のカップルとは決定的に違うところです。相手の意外性に富 むところを目にしたり、そしてやがて受け入れていることで、互いを丸ごと愛するようになる……ふたりはそんな恋をする運命にあるでしょう。
そんなふたりの縁(えん)は、おおらかになることでさらに深まりそうです。「何があっても動じない」「どんなことも許容範囲内」そんな寛容さをもつことができれば、互いにいっしょにいてこんなに刺激的な相手はいないはず。互いの愛もより深まるでしょう。●彼は気持ちに気づいている?
今、あの人はふたりの関係が特別なものだと気づいているでしょう。しかも、あの人はあなたが思っている以上にあなたのことを考えている可能性大。そして結 果的に、あの人は「あなたが望むことをしてあげよう」という結論を出したようです。つまりは、あなたがあの人に、「もっとふたりの関係が特別なものだと示 してほしい」と思えば、あの人はすぐにでもあなたを他の異性とは違う存在として特別あつかいしてくれるでしょう。でも、もしあなたがそれをあまり望まない としたら、あの人はいつも通りの対応をすることになりそうです。
秘めているからこそ、あなたへの想いは並々ならぬものであるにちがいないのですが、でも今のところは隠してしまっているので、あなたは手にとるようにあの 人の気持ちがわかるという状態ではないかもしれません。表面的にはふたりの間には何か特別なことがないように見えるかもしれませんが、あなたの知らないと ころで、ふたりの恋が進展しています。●彼の本音
あの人は今、あなたのことをとても大事に想っているでしょう。あなたは守るべき存在で、自分の力でなんとか幸せにしてあげたいと気持ちを強くしていること でしょう。そもそも、あなたはあの人の理想の異性像なのかもしれませんね。容姿が好みであることはもちろん、価値観もいっしょだし、あなたの言動にも共感 できるというふうに、自分にとってあなたはパーフェクトな存在なのかも。その結果、自分がリードすることで、ふたりが幸福な人生を送れたら……それがあの 人の夢なのです。とはいえ、その想いが強すぎて、ときにあの人はあなたに何もできないということがあるかもしれません。あるいは、あなたとの恋をドラマ チックなものにしたいという気持ちがあり、普通の平凡な恋では許せないという気持ちも。ばったり出会い、でもそのときは心惹かれながらも別れ、偶然再会を とげたときにふたりの愛が一気に盛り上がる……そんなシチュエーションをあの人はあなたに用意したいと考えているでしょう。その結果、普段の生活では、ふ たりの間に特別なことは何もないように思われがちですが、あの人の心の中ではふたりの関係は確実に盛り上がっているので、あなたはあの人との間のことで無 用な心配をする必要はないのです。あの人は、あなたが思っている以上にロマンティストなのかもしれませんね。あなたもロマンスあふれる恋を求めることで、 ふたりの波長はがっちり合い、実際にだれもがあこがれるロマンチックな恋を実現できそうです。●今後の進展
やがて、あの人が熱烈に愛を示してくれるでしょう。
まるで互いの片割れを見つけたような気持ちで、あの人はあなたを、そしてあなたはあの人を愛するようになるのです。その結果、ふたりは互いなしでは生きて いけないほど、強い絆(きずな)で結ばれることになるでしょう。ただ、そんなふうにとても深刻に愛し合い、ふたりが魂からつながれるような関係であるから こそ、簡単に恋を進展できなくなってしまうということが考えられます。互いの大切さを痛感しているだけに、相手を束縛しすぎたり、深くかかわりすぎて傷つ け合ってしまうのではないか……そんな心配にさいなまれることもありそう。とくにあの人は、将来的にあなたを大事にしようと思えば思うほど、あなたの心に 入ることをためらい、あなたとの間に微妙な距離を作ってしまうかもしれません。
ですからあなたは、相手の愛を信じ、けっしてあの人から離れないことです。 あの人があなたのことを真剣に愛してくれることは確か。あなたが一途(いちず)な愛を示すことができれば、あの人も自信をもってふたりの愛を永遠のものに まで深めてくれるでしょう。
【占い3】単なる友達。脱したければ彼の力に
今のところ、あの人はあなたに対して恋愛感情は持っていないようですね。実は、単純な性格の持ち主の彼。もしあなたに恋愛感情があるとすれば、とっくに好意を伝えて、積極的にアプローチをしているはずです。こういうタイプ は、興味がないことには絶対に振り向きませんが、相手を好きになれば黙っていられず、すぐ行動に起こします。これだけわかりやすい方はいらっしゃいませ ん。現時点では、あなたは友達でしかありません。
このままでは、あの人はあなたの気持ちに答えられないまま離れていくでしょう。原因となるのは、あなたを煩わしいお相手だと感じて、敬遠してしまっている ことです。マイペースな性格のあの人は、自分よりも気が強く、物事をソツなくこなしてしまうあなたを見ていると、自信を持てなくなるのです。思うように行 動したいので、あれこれ口出しされるのも面倒なようですね。ほんの少しだけ、あの人に対する接し方を変えてみましょう。
今後、お二人の状況を大きく変えるタイミングは、あなたがお相手の力になる時です。何でも一人でやってしまおうとなさいますが、やはり一人の力には限界が あり、あの人にもできないことはあるもの。さぁ誰に助けてもらおうかと考えた時に、身近にいて、その知識や技術があるあなたが目に留まるのです。細かいこ とを言わずに、黙って引き受け、あの人を支えてあげて下さいね。あなたへの見方が大きく変化し、関係が変わりますよ。
微妙…(苦笑)。3つやれば、いい方か、悪い方、どちらかになるだろう、と
思ったのだが、結局、「相思相愛です!」が1、「単なる友達で望み薄!」が1、
「恋人というより同志!」が1という結果に。ま、どっちかというと悪い方か…(笑)
しかし、占いとはいえよく言い当てているもので、確かに私とハヤテは同志だ。
二人の間に甘い雰囲気など漂うはずもない。
前述のMEGUMIの話を受けて、「私も勝負服でジャック・ブラックに会いたい」と
応えたら、即座に「想像できん・・・」と返ってきたほどだ。
それくらい、ハヤテにとって私は、「女」ではなく、性を超えた存在なのだろう。
占い1にあるように、それはそれで悪くない、というのは分かるけれど、
時々、心の片隅が疼いてしまう。
ハヤテが無邪気であればあるほどに、私は時々、やりきれなくなる。
「今、○○(とある欧州の都市の名前)!」
ハヤテがまこと屈託のない調子で話しかけてきた。
Skypeのムードメッセージに新しいPCを買ったことをほのめかすひと言を書いておいたら
「どうしたどうした?PCを灰皿にしちゃったのか?」とご機嫌だ。
ハヤテが話しかけてくるまで、あれだけ悶々とし、何だか落ち着かなかったのに、
たったひと言、ハヤテがコンタクトをとってくれるだけで、何故こんなに心が溶けるのか。
「飛行機の中でさ、鞄の中に入れていたペットボトルが破裂して大変だった」とハヤテ。
「何、アホなことを・・・また珍道中かい!でも飛行機は乗り遅れなかったんだね」
「時間に関しては、今年の俺はかなり優秀だ!」と言い切っていた(笑)。
来週まで彼は遠くの地にいるけれど、ITの発達でこうして時空を超えてつながれる。
メッセンジャーでやり取りしている以上、普段と大して変わらない。
ただ私の心持が違うだけだ。
満月に近い月を見上げて、今、彼の地でハヤテは何をしているだろうと思うだけで切ない。
ハヤテが無事、彼の地で仕事を終え、帰ってきますように。
体調崩して暫くオンラインになっていなかったら
いつの間にか、ハヤテが海外出張に行っていた。
事前にひと言くらい言ってくれたってよかったじゃんか。
ま、オンラインじゃなかったから、仕方ないけど…( ;∀;)
ハヤテのオフラインの時間が増えて、なんとも切ない。
話したいことがいっぱいあるんだけどなぁ。
昨日、仕事でハヤテに会った。
前日、飲んでワインをこぼして、そのまま会社に泊まり、
その格好でやってきたというハヤテは、少し困ったような、照れたような
複雑な表情を見せながらやってきた。
本来なら、どうしようもない奴だが、ハヤテだと許してしまう。謎。
ミーティングが終わって、ビルから出る時、ハヤテが私の顔を見て
にっこり嬉しそうに笑った。「きれいなお姉さんでもいた?」と聞いたら
「いや・・・・違う」と、意味深な笑みを浮かべて、歩いていった。謎。
今日は会わなかった代わりに、メッセでかなりお話した。
仕事の話も、くだらない話も。
コンビニで、めかぶともずくを発見したから、これからは空腹時に
これでやり過ごすと嬉しそうに話していた。33kalならばいいだろうと
間食できるものを見つけて誇らしげだ。
私が禁煙1か月達成だと言うと、「えらい、牡蠣を1つおごってやる」とハヤテ。
「この台詞さ、間違って、○○さんに投げちゃったんだ。
そうしたら、嬉しいと返ってきたので、○○さんも一緒にね」だと(笑)
ま、こういう落ちが待っているところも、いかにもハヤテらしい。
流れ星が今日も舞い降りた。
こんな日がずっと続いているから、返って落ち着かない。
いつまでこの幸運は続くのだろう?
深夜、仕事絡みのメールを出そうとPCを立ち上げた。
自動的にメッセンジャーとSkypeにサインイン。
すると、追いかけるようにハヤテがサインインしてきた。
いきなり意味不明な言葉を投げつけてきたかと思うと、仕事のアイデアだった。
しばし、アイデアを二人で転がす。
しばらしくて、ハヤテが沈黙したので、流れ星は去ったのだと思い、
メールを書いたり、他の仕事をしたり、mixiの日記を読んだりしていた。
すると、ハヤテが「起きてる?」とまた声を掛けてきた。
「ん?どうした?」と言うと、「いや、起きてるかな?と思って」。
ふと、欧州のホテルのロビーで、ハヤテが「さびしいなぁ」と
甘えてきたことを思い出して、じーんとする。
あの時みたいに、ただそばにいるだけでいいから一緒にいたいなぁ。
翌日、ハヤテは一日中、オンラインにならなかった。
きっと仕事でどこかに行っているのか、会議でも続いてオンラインになれないのか。
つながっていないと、とてもさびしい。
「さびしいなぁ」と、一人つぶやいてみる。
さすがはハヤテだ。いきなり、当日の昼すぎになって
メールで「19時に○○○で待ち合わせ」と伝えてきた。
前に話していた用件だ。あの時は、近くに来ることは言っていたが、
そこに私が行くなんてことにはなっていなかった。
この件について、私の上司が生返事をしていたから、
きっとハヤテにしてみれば、直前になって我等をハメようとしたのだろう。
ハヤテは知っている。
私がどんな時も、彼のリクエストに応えることを。
ハヤテは知っている。
私がどんな事も、最後は笑って受け入れることを。
だから、ハヤテはある意味、安心して、こういうことを仕掛けてくる。
分かっていて、敢えて、それに応えない、という選択肢が私にはある。
あるが結局、私はその選択肢を選ばない。
それすら、ハヤテはお見通しなのだ、きっと。
ハヤテが私の隣に座る。お酒も入っていた。
一緒に行った欧州旅行の話題になった。
「あの旅で、私の中の何かが壊れたんですよ」と私が言う。すると
「僕も壊れたんですよ。こんな事しても怒らない人がいるんだって驚いたし」と
ハヤテが私をとても柔らかく包み込むような眼差しで言った。
目の前には他に2人いる。でも、まるでその瞬間は2人だけみたいだった。
あの旅行で私もハヤテも、心の中の何かが壊れた。
私は、こんな事をされても怒らずに笑っている自分に驚き、
ハヤテは、こんな事をしても怒らずに笑っている私に驚いた。
これなら普通は双方恋に落ちてもおかしくない、よね?
恋ではなく、ハヤテの心に芽生えたのは、この上なく心許せるパートナーという感覚。
ほぼ同じ状況で、互いが互いを「特別」に変えたことは間違いない。
でも、一方が恋で、一方が信頼だったなんて残念でならない・・・・と
ハヤテのあの甘い眼差しを見て悔やまれた。
本当に私は単なるパートナーなのかな・・・やっぱり。
だったらあんな甘い眼差しで見たりしないで!・・・と言いつつ
この甘美な思い出に酔っている。
ハヤテが今日もご機嫌に話しかけてきた。
今日は久しぶりに、仕事のアイデア論議になって、思わぬアイデアがまとまった。
こういうのは実に久しぶりだ。今は、どちらかというと彼の後輩君たちと仕事を
することが多くなってきているが、やはり、アイデアが転がる勢いだとか、
「いいねぇ!」という感性だったりとかが、違和感なく気持ちよくフィットするのは
ハヤテ以外にいない。彼が好きだということもあるだろうが、この一体感が
たまらなく私を高揚させた。
その後の他愛もない会話になった時に、超能力の話になって、
「でもさ、俺、心読むのは結構自信ある」とハヤテ。
「じゃ、私の心を読んでみよ」と言うと、
「よし。・・・・おなかが空いたと思っているだろう」と自信たっぷり。
「そりゃそーだ。昼時だぞ、誰だって想像がつくわい」と返すと
「おっと、そう言い返すだろうと言おうと思ったのに先を越された」と残念そう。
違うだろうよ、ハヤテ。私の心が本当に読めるなら、
そこには、他でもない、君しかいないのだよ。
出勤してしばらくして、ハヤテから電話があった。
「あのさ、今、○○なんだけど。夕方さ、そっち方面に用事があるんだけどさ。
うちの会社に戻るの面倒だから、そっちに行ってもいいかな」と言う。
そういえば、今週はこっちに来る機会があるとか、余裕がないから顔出せないとか
この間言っていたっけ。結局、自分から顔を出すと言い出した辺りがかわいらしい。
「いいよ」と返すと、「じゃ、今から行くよ」とハヤテ。
目を閉じて、台詞を額面どおりとるだけなら、そこに秘めた思いがあるように
聞こえなくもないなぁ・・・・と一人うっとり。
予想外に顔を見ることができるぞと浮き浮きしたが、今日は予定が詰まっている。
それでも、合間に顔が見れればそれでよい。
しばらくして、「ちぃーっす」と部屋に入ってきたハヤテ。
珍しくスーツ姿だったし、伸びた髪を切ってすっきりしていたせいか
「やばい・・・かっこいい」と思ってしまった瞬間、赤面・・・・(汗
でも、先客の対応中だったので、挨拶を軽くして、知らぬ顔。
その後、ランチミーティングがあるため、店に行くことに。
先輩たちがうまくハヤテを誘ってくれたおかげで、行動を共にできた。ラッキー。
食後、いよいよミーティングが始まる段になって、部外者だからと言って
ハヤテが退席した。心は乱れていたが、ミーティングの司会だったので
ハヤテの後を追うことも叶わず、仕方なしに、そのままお仕事。
しばらくしたら、メッセでハヤテが「鮨を食いに行こう」と話しかけてきた。
ミーティングの途中だと知っているのに、どうしたんだ?と思ったが
その後も、何かと話しかけてくる。まさか、早く帰ってこい、という合図?まさかね。
ミーティングが盛り上がってしまったために、予定よりも時間が伸びてしまい、
部屋に戻っても、もうハヤテはいないだろうと諦めた。
ところが、戻ったら、ハヤテはまだ部屋で仕事をしていて、
「あれ、まだいたんだ?」と声を掛けると、「うん」と笑顔で返してきた。
鮨を食いに行こうという誘いに、まだ返事をしていなかったので、
「さっきの賛成」と声を掛けると、また嬉しそうに笑って「おう!」と返してきたハヤテ。
別に私と行くことが目的ではなく、本当に鮨が食べたいのだろう。
それくらいは分かっている。が、たとえそれが理由でも、
ハヤテの誘いを断ることなど私にできるはずもない。
「それじゃ」とハヤテが部屋を去った後、一人寂しく思っていたら
3時間後くらいにハヤテがサインインしてきた。会社に戻ったのだろう。
すると、「鮨食いに行くぞー。どこがいいかな」とご機嫌。
「あのさ、金ないって言ってなかったっけ」と聞くと、
「だって、ミサトさんの禁煙積み立てがあるじゃん(w」とハヤテ。
「貴様~~~これが目的か~~~」
こんなアホみたいなハヤテとのやり取りが幸せだ。
どうせ鮨は2人きりで食べに行くなんてことにはならない。
また、皆でわいわい・・・ということになるに決まっている。
最悪の場合は、そうやって言い出しておいて、皆を呼んでおいて、
自分は仕事でやっぱり行けないと言い出すだろう。
他人に甘えるのが天才的に上手なハヤテのことだ。
誰にでも、「○○を食べに行こうよ~」と誘っているに違いない。
私もその他大勢の一人であることくらい百も承知だ。
それでも、ハヤテと鮨を食べに行く日を心待ちにしてしまう自分がいる。
それにしても、最近のハヤテは明らかにおかしい。
どうして、こんなに甘えてきたり、話しかけてきたりするんだろう?
気まぐれにしても、何だか、ラッキーが続き過ぎて怖い。
何故だか知らないけれど、ここ最近、怖い位にハヤテがよく話しかけてくる。
メッセンジャーはほぼ毎日。他愛のないことをいろいろと言ってくる。
ミーティングで会えば、子猫のようになついてくる。移動中も、ずっと隣にいる。
ニコニコ笑って、あれこれ報告する姿がなんともかわいらしい・・・のだが、怖い。
いつまた、ぷいと消えてしまうか分かったもんじゃない。相手は流れ星なのだ。
「今週末、そっちに行く」とハヤテ。
「うちの会社に来るということ?」と聞くと
「いや、会社には行かない。近くまで行く」と言う。
「その前の日に、○○さん(ある会社さん)に行く。そっちに寄ってゆっくりしたかったけど、残念だがその後に予定があってゆっくりできない」とも言う。
・・・・で、私にどうしろと?・・・・苦笑
どうやら、近くまで行く日が結構あるのに、そっちでゆっくりできない、と言いたいらしい。
まるで、近くまで来たら、顔を出せと私が強制しているかのように聞こえるが
そんなことは一切ない。私は何も言わない。言葉をいつも飲み込んでしまう。
「金曜日の夜はさ、そっちで飲むだろう」とハヤテ。
「そうか、楽しんでくれ」と切り返す。
ハヤテの言葉の行間はどうも煮え切らない。遠まわしだが誘っている?とも
思わなくもないが、そう聞き返すのも何だかねぇ。
「カレー腹いっぱい食ってくる!おつかれ~」とハヤテが消えていった。
帰宅したら我が家もカレーだった。カレーを頬張りながら、一人にやける。
今ごろ減量のことも忘れて、思い切り食ってんだろうなぁ、カレー。
そう思うとくすりと笑える。
ねぇ、ハヤテ。近頃、どうしてそんなに機嫌がいいの?
私があなたを追いかけてマンキツの前まで行きながらも帰ってきたあの日から
なぜだろう、ハヤテが妙に気をかけてくれているように思えてならない。
それがいい事なのか、そうではないのか、今のところ判断つかない。
過度な期待をせず、流れ星の気まぐれだと肝に銘じておけば間違いんだけど。
最近、オンラインになるたびに、ハヤテが話しかけてきては
あれこれと仕事のお願いをしてゆく。頼み上手のハヤテ、すぐ受けちゃう私。
おかげで、ゆっくりランチを食べる時間もないほどだ。
頼まれていた資料が出来た時には、ハヤテがオフラインだったため
メールで先に資料だけ送付しておいた。その後、ハヤテがオンラインになったので
その旨をメッセで伝えると、「ありがとう。でもメールが素っ気なかった」との返事。
なにぃーー?!メールの文面が素っ気ないだとぉー?
確かに、「ご要望の資料を添付します。よろしく」としか書いてなかったが…
「そんな事を気にする人だと思っていなかった」と返すと、
「もう少し、事務的な挨拶でもいいからさ~、なんか書いてよ」とワガママを言う。
「じゃ、『胴回りがすっきりしてきたようで素敵ですね。減量頑張って下さい』とでも
添えればよかったかな?」と返すと、「うん、それなら頑張れる」とハヤテ君。
「そんな言葉を添えんでも、日々努力せい」と言うと、
「日々、ミサトさんのご尊顔とたばこをがまんされている姿を思い浮かべながら
頑張らせて頂いております」とのこと…完全に馬鹿にされている…orz
本気で毎日思い浮かべてくれているなら、どんなにいいだろうか。
私は毎日、ハヤテのことで頭がいっぱいだというのに…。
それにしても、ハヤテのキモチはよく分からん。
メールが素っ気無いなんて…予想外もいいところだ。
こちらが素っ気無い言動をとると、これだからなぁ(笑)。
ま、この予想外が面白くて、また惹かれちゃうから困りもんなんだけど。
夕方にもハヤテが話しかけてきた。
きっと、あの日、ハヤテの携帯には私からの不在着信が沢山入っていて
それにもかかわらず、今日の午前中、私がそっけない対応をしたから
何だかよく分からないものの、ハヤテらしい野生の勘で、
何やら「まずい」と感じたのだろう…懸命にフォローしているみたいだ。
最初こそ、なんとなくしらっとした感じで対応していたが、
ハヤテのすっとこどっこいな調子に合わせているうちにペースが崩れ
結局、ハヤテのペースに巻き込まれていた。
今度こそは諦めるのだと心で決めていたのに、
そういう決意をしたときに限って、ハヤテがいろいろと声を掛けてくる。
ハヤテ…お願いだから、私をこれ以上、惑わさないで。
私はどうしようもないくらいハヤテの一言一句に翻弄されてしまうんだ。
「禁煙成功したらさ、賭けとは関係なく、おごってあげるよ」
ハヤテが珍しく優しいことを言う。
「縄跳びの二重跳びを連続10回出来たらおごってあげるよ」と返した。
「まじで?今度目の前でやってやるぞ~」と元気な答えが返ってきた。
ハヤテ…私はこんなくだらない賭けでも、君となら楽しくて仕方ない。
親友だって分かっている。でも、あまりじゃれたり、甘えてくると
私はやっぱり心のどこかで勘違いしてしまうんだ。
お願い…あまり私をからかわないで。
早く…ハヤテ以外の人を好きになれるといいんだけどなぁ。
ハヤテと大きなプロジェクトを仕掛けて早1年。
「記念の宴会をやろう」と珍しく張り切るハヤテに代わり、宴席をセッティング。
何も確認していないそばから「その日は15時にはそっちに行くからね」とハヤテ。
まるで、恋人に時間を告げるようじゃないか?と勝手に一人盛り上がる。
ところが、前日になって、「ごめん、勝手に予定入れられたから行けない」と連絡。
内心、やっぱりね、と思いつつ、がっくり。
「宴会には何とか駆けつけたいと思うけど、もしかしたら、
新しい予定の方で、フィリピンパブに行くかもしれない。
フィリピンパブって天国らしいよ。ミサトさん知っている?」
私は最大級の落胆をしているというのに、ハヤテって野郎はっ!
「知るわけねぇーーだろーーーがーーーーー(怒)」
…ま、怒ったところで、相手は予測不可能なハヤテなのだから、と
自分を言い聞かせ、気持ちを切り替えようと努力した。
宴会当日、ハヤテの代わりに、早めにやってきたハヤテの部下と
タカ君と3人でわいわいとミーティング。内心、落ち込みは続いていたが
「気にしない、気にしない…」と心で念仏。←気にしすぎ(笑)
そんな中、「ミサトさん、○○さん(ハヤテ)から外線です」と同僚君から連絡。
受話器を取れば、「終わったよっ!」と名乗りもせずに、陽気なハヤテの声。
なんだそりゃ…「今からね、そっちに向かう。だから間に合う」と話す声が
「ねぇねぇ、僕さ、ちゃんとできたよ」と自慢げに話す園児のようで笑えた。
会社を出ると、スーツ姿のハヤテに遭遇。まるで似合っていない(笑)。
一緒に宴席に向かうと、先に3人ほどメンバーが着ていた。
さて、どこに座るか、という段になって、ハヤテが入り口近くに腰を下ろした。
私は幹事だし、やっぱり入り口だけど…他に席が空いているのに
いきなりハヤテの隣っていうのも何だかなぁ…と思い、不自然にも、
一つ席を空けて、ハヤテの左隣に座った。
このたった一つの席分の距離が、縮められそうで縮められない…
ちょっとだけ一人感傷に浸っていたら、お構いなしのハヤテは
一つ席を飛ばして、がんがんと話しかけてくる。
やれ、禁煙して太っただの、百ます計算ダイエットは諦めただの、
酔鯨を頼めば「俺も好き~くれ~」とはしゃいだり、挙句の果てには
「ミサトさんと出合ったばっかりの時は髪が長かったよね。
でもさ、あんまイケてなかった。なんかあったの?今の方が断然
若くなってイケてるよね?」とズケズケとデリカシーのないことを言う。
あのさ~、あんたのちょっとした一言で、どれくらい私がいつも
傷ついているのか知っているか??あん?と言い返したくなる衝動が…
宴席がお開きになり、駅に向かって歩き出したらハヤテが隣にきた。
少し話したが、すぐに他の人が話し掛けてきたので応対していた。
と、ふと振り向くとハヤテがいない。あれ?と思ったら、
途中でマンキツへ行ってしまったという。
なんだよ、一言くらい、バイバイくらい言えよ…と内心毒つきながら
途中のターミナル駅までその他のメンバーと帰ってきた。
が、どうにも気持ちが納まらない。
「今夜はさ~帰らないんだ」とハヤテが言っていた。
マンキツに泊まると言っていた。あそこにいるのだ。
そう思うと、いてもたってもいられなくなって、元きた電車に飛び乗った。
ハヤテがいる駅まで向かう途中、何度も携帯に電話を掛けたが
どうにもつながらない。無視しているのかな?と不安になる。
ハヤテのいるマンキツの前に着いて、しばらく電話を掛け続けたが
やっぱりつながらない。このまま店に入ってハヤテを探すのも手だが
見つけたら、なんて言えばいいのだ??
「やあ、こんばんは。あのさ、バイバイと言いにきた」というのもおかしい。
うーん、どうしよう…としばらく逡巡しているうち、アホらしくなった。
何してんだ、私は。ここまで戻ってきて、ハヤテに何と言うつもりなのだ。
これだけ電話して出ないということは、無視してるかもしれない。
無視しているかもしれない相手を追いかけて何になる。帰れ、自分。
結局、心の声に従い、何もしないまま、とぼとぼと帰った。
帰宅して、仕事を少ししようとオンラインになったら、
タカ君が話しかけてきた。しばらく他愛もない話をしていたら
「ミサトさんって、まだ片思いしているんですか?」と聞いてきた。
「駄目男と知りつつ、どうしてもやめられん」と答えると、
「帰りに二人が並んでいる姿を後ろから見ててそう思った」とタカ君。
タカ君に、今日、ハヤテが何も言わずにマンキツに行ってしまって
無性に悲しかったこと、さらにはそのマンキツまで戻ってしまったが、
何もできずに帰ってきたことを告白した。
すると、タカ君が「○○さん(ハヤテ)、マンキツ行く直前、ミサトさんに
声掛けたんだよ。だけど、ミサトさん話し込んでいて気づかなくて、
『ミサトさん、気づいてないや』と笑ってマンキツに消えていったんだよ」
と教えてくれた。そうか、私が気づいてなかったのか…アホだなぁ。
マンキツからの帰り、酔いも手伝って、つい、「何度も電話したのに
何で出ないんだーー」というメールをハヤテに送っていた。
大後悔は先に立たず…どよんとした気分で週末を過ごした。
そして、今日。出社してオンラインになった直後、すぐさまハヤテから
話しかけてきて、「ごめん、すぐに寝ちゃって、爆睡したから本当に
気づかなかったんだ」と報告があった。ふーん。
昔の私なら、追いかけに戻って、何もしないまま帰ってくるなんて
絶対にあり得なかった。どうして、ハヤテが相手だと何もできないんだろう。
謝られても、すれ違ってしまったことに変わりない。
もう二度と、私には追いかける勇気がわかないかもしれない。
タイミングが悪いというのは、恋愛において、致命的だとつくづく思う。
山あり谷あり、谷あり山あり・・・・。
どうゆうわけか、あれから、ハヤテがなついてくる。
ひょんなことから、二人で競争することになった。
ハヤテは減量、私は禁煙。
「痩せるぞ、痩せたらおごってくれる?」とハヤテ。
「痩せる痩せるって、痩せた試しないじゃん」と私。
「だから、痩せたら、牡蠣おごってよ」とハヤテ。
「私が禁煙する方が成功率高いな」と私。
「じゃ、競争しよう」とハヤテ。
「じゃ、牡蠣かけよう。ワシントンクマモト」と私。
「まずは、人間ドックがあるから、その体重を基準にしよう」とハヤテ。
「じゃ、人間ドックの結果を報告するように」と私。
人間ドックから帰ってきたハヤテが早々に話しかけてきた。
「なんと胴回りが90cm超だった。お相撲さんだ~」とハヤテ。
「トトロだトトロだと私が喜んでいたから油断したのであろう」と私。
「なんか俺、ミサトさんの催眠に合っているような気がする。
飛行機乗り遅れたり、トトロになっちゃったり・・・」とハヤテ。
「私のせいにするな!」と私。
いざ勝負、ということで、明日から競争が始まる。
「食べすぎ注意・・・飲み代を貯金しよう」とハヤテ。
「私は禁煙貯金だわ、貯金箱買ってこようっと。るるる~」と私。
「お、俺も買ってこよう。るるる~」とハヤテ。
“親友”の私たちは、年甲斐もなく、こんな競争で遊んでいる。
ハヤテは本当に脱トトロになるのだろうか・・・・
トトロみたいなハヤテも、ほっこりして素敵なんだけど。
近頃、ボブの攻勢にあって、メッセ上で慣れない英会話に苦戦(苦笑)。
日本大好きのボブは、どうやら日本人女性である私と仲良くなれたのが嬉しいのか
とにかく、いろいろと話しかけてくる。かわいい人である。
他愛のない話を断続的にしていたら、ボブが私の関係しているWebサイトを見て
バグを見つけてくれた。担当プログラマに伝えて直してもらうことにしたが、
英語で伝えるのが面倒で、これから<私が>直す、と返事した(笑)。
しばらくして、ボブが心配して「大丈夫?なんなら助けてあげようか?」と
話しかけてきた。実はボブは天才プログラマなのだ。
しばらくして、今度はハヤテからメッセが届いた。
「ボブがさ、ミサトは面白い!
彼女は今、バグを修正しているんだよと言ってたぞ。どういうことだー?」
私がバグを修正できるわけがないことを知っているからだろう(笑)
「いや、英語苦手だから、ひとまず直すと言うつもりが、
つい、私がこれから直す、というニュアンスになって、まいっかと…(笑)」と言い訳。
「ボブさ、私のつたない英語で分かってるんかな?面白いんかな?」と聞くと
「ミサトさんはやっぱり、俺が言った通り、外国人受けが凄いいいんだよ。
ボブなんか、ずっとミサトは面白い面白いと報告してくる。
外国に行くんだ!モテモテだよ、絶対」とハヤテは言う。
外国に行け、か~。外国人だろうが日本人だろうが、ハヤテ以外の人に
モテモテでも、結局ぜんぜん満たされないんだよなぁ。
ハヤテのバカヤローーーーッ!
前回エントリーを書いた後、メッセでタカ君が話しかけてきた。
まだ落ち込んでいたので、生返事ばかり繰り返していると、
「何かあった?」と問われた。「○○さん(=ハヤテ)のこと?」と鋭い。
そして、弱い私はつい、ハヤテに言われたことを話してしまった。
聞き終わったタカ君は、「多分、今さら女として褒めるのを照れてるんだよ」と言う。
今さら…今さら…今さらかい!
つまり、私たちは近くなりすぎてしまったということか。
恋心以外の事に関して、ずけずけあけすけ互いに言い過ぎているということか。
「前にね、ミサトさんが帰った後、○○さんとかと飲んでて
○○さんが断言してたよ。『ミサトさんはいい女だ』って」
落ち込んだ私を不憫に思ったのだろう、タカ君が言う。
「いいよ、そんな嘘つかんでも」と返すと、
「嘘じゃないよ。言えばさ、ミサトさん、図にのるでしょ(笑)」とタカ君。
確かに…図にのるかもしれない。でも、のったっていいじゃないか!
タカ君は続ける。
「きっと、言わせない雰囲気を作っているのは、ミサトさんだよ。
ミサトさんが無意識にそう仕向けているんだ。
ミサトさんが、女として接するなオーラを発しているんだよ」と笑う。
思い当たらないわけでも、ない。
うーん。しかし、ここは自己矛盾の最たるもので、
日ごろ、女として極度に意識されるもの仕事に支障がでるし、
なんだか照れるし、嫌なことは確かだ。
だが、かといって、極度に男として扱われるのもどうかと思う。
結局、私自身が知らぬ間に後者を選択するよう強いていたのかも。
それでも…と思う。わがままを承知で、たまには…と思うのだ。
少しはタカ君の言葉で気分が晴れたものの悶々として眠りにつく。
だが、目覚めて青空を見たら、どうでもよくなっていた。
タカ君の「真に受けるところじゃないよ」という言葉がよみがえる。
本当にそうだろうか。しかし、そう思うことで救われるなら、
そう思ってみるのも手である、と思い直したら、ふっと楽になった。
会社へ行くと、ハヤテが早々にメッセで話しかけてきた。
「昨夜は健全であった」とご満悦の様子。
私が落ち込んでいたなど夢にも思わないだろう。
それよりも、ハヤテはプロジェクトの巻き返しに向け、俄然やる気になっていた。
あれをしよう、これをしよう、ああしよう、こうしよう…
そして、一緒に大阪へ行こうと言い出した。
確か昨夜もそんなことを言っていた。
どうせハヤテは覚えてないだろうと思って聞き流していたのだ。
ところが、どうやら本気のようである。
もちろん、目的は仕事。
男友達のような、気の許せる仕事仲間として共に行くのだ。
どうせなら、あれを食おう、これを食おう…
ハヤテは楽しそうだ。
仕事仲間以上、恋人未満だけれど、
楽しそうなハヤテを見るのはやっぱり嬉しい。
たまにどかんと傷つくけれど、
身動きとれなくて途方に暮れるけれど、
それでも、近くでハヤテの笑顔を見てるのは至福なのだ。
この気持ちが完全に消えてしまわない以上、
私はもうしばらく、ハヤテに翻弄される時間を過ごすことになるだろう。
フラれた!(と思う)
「ミサトさんはプログラマーにすごい人気があるよね」とハヤテは言う。
「でも、(プログラマーでハヤテの親友の)タケちゃんは、私に冷たいぜ」と返すと
「うちの故郷ではね、女性にジェントルに接するのは恥、みたいな風習があるんだよ。
だから、ついつい裏腹な態度をとってしまう。きっとタケはそれを脱してないんだ。
俺は初恋で失敗したから、脱したけどね」とハヤテは言う。
「だから、お前は私に優しくしないのか」と言うと笑いながら
「つかさ、ミサトさんって守ってあげなくてもいい感じがするんだよね。
だからさ、なんか荷物持ってあげたり、傘差し出したりしなくて大丈夫だと思っちゃう」
「フラットなんだよ。だから、ミサトさんとは仕事できるんだろうな」
そう微笑みながらハヤテは一人納得していた。
所詮、私は彼にとってみれば、男同然だったということだ。
守ってあげなくちゃとか、守ってあげなくてもいいとか、
私には正直、何がボーダーなのかよく分からない。
私のどの部分が、相手に「守らなくても大丈夫」と思わせるのかがよく分からない。
「守らなくちゃ」と思う相手じゃないと恋にならないのかどうかも分からない。
ただ、彼の口調から、守ってあげなくちゃいけない相手こそ恋の相手だと分かった。
つまり、私は論外、ということに他ならない。
仕事をする相手としては最高だと彼は言う。
私は所詮、その程度の相手なのだ。
そうだよな、とこれまでを振り返って納得してしまう自分。
つくづく、自分という人間が全くもって魅力のない人間だと痛感した。
これ以上のフラれ方があるだろうか。
ハハハ、そうか、と笑うのが精一杯で、返す言葉を失った。
酒がぐるぐると回って、気持ち悪くなったのは、自暴自棄のためだろうか。
あの後…
某プロジェクトの雲行きが怪しくなったため、上司がハヤテに連絡。
その後、「明日の夕方、そっちに行くことにしたよ」とハヤテから連絡があった。
話は結構深刻なのに、楽観的なハヤテは、こちらに来る口実が明確になり
何だか楽しそうだ。「結構深刻なんよ」と言っても、「よし!じゃ、カラオケだ」と
相変わらず飛んでいる。最終的には「牡蠣食いに行こうよ」と騒いでる。
きっと…これもハヤテなりの思いやりなのだ。
深刻に考えて、みんなそろってどよーんとするよりも、
少しでも楽しい事をを見つけようとするのが、ハヤテ流なのだ。
それが分かったから、「よっしゃ!パ~ッと行くか!」と応えると
「よし!じゃ、体調を整えて、そっちに行くぜ」とノリノリだ。
仕事の事を考えると気がとてつもなく重くなるが、
ハヤテに会えるのなら、少しは楽しい気分にもなろうというものだ。
私の気分が落ち込むと、決まってハヤテはやってくる。
ノーテンキを装って、ハヤテはいつもやってくる。
私には優しくできないと豪語するハヤテなりの
私への優しさなのだ、と、今夜は思うことにする。
期待しただけアホだった。
うなぎのように掴み切れないハヤテは、今日になって
「どうしようかな、こっちに来るついでない?」ときたもんだ。
やっぱね、と心のどこかでは、こうなることを予想していた。
でも、今回だけはもしかして、という期待が捨てきれずにいた。
ハヤテに限って、「今回だけ特別」なんてことはないことを痛感。
「で、結局いつにすんの?」と聞くと、「また連絡する」との返事。
「好きにしてくれ」と返した。先週末の高揚した気分が嘘のよう。
ハヤテは今日、お葬式に参列するため、オフラインだ。
それでも、彼の地へ行ってくると、事前に伝えてくれただけに
不在でも心は安定していた。今頃、あの辺かなぁ…とぼんやり思うだけだった。
夕方、職場の電話が鳴った。
受話器をとった先輩が、「ちょっと待ってください」と言って
私に「トトロから」と受話器を差し出した。
「トトロ?」と受話器を受け取り、耳に当てると
「トトロじゃねぇ~~~」と、甘えた声が聞こえた。ハヤテだ!
滅多に電話などしてこないハヤテが、わざわざ電話してくるなんて。
「行ってきたよ」とハヤテ。
「ご苦労さま、ありがとうね」と私。
「でさー、香典返しを預かってきたんだけどさ」
「ああ、そうか。ごめんごめん。いいよ、そのままあげるよ」
「いや~そういう訳にはいかんよ(笑)でさ、今からそっち行こうかな」
「えええ、もう都内についたの?」
「いや、まだ。多分ねぇ、そっちに着くのが夜の11時ごろになっちゃうな」
「11時かい!(笑)ま、今日は用事があって、その時間くらいまでいるけどさ」
「そうするとさー、でも、時間あんまないしね。帰れなくなるし」
「マンキツか~(笑)」
「そうなんだよ。どうしようかな。来週、そっちに行こうかな」
「うん、それでもいいよ」
「今日はこのままこっちのマンキツにでも泊まって…」
「何を読むんだー、いいなー、私もマンキツ行きたい(笑)」
「へへ」
「でも、大変じゃん、別にいいのに」
「いや、そっちに行く口実できたし。来週行くよ。行くからさ…そしたらさ、おごって」
「はは、いいよ(笑)」
「やった!じゃ、来週行くからさ」
「うん、分かった」
「うん、じゃ、またね~ばいば~い」
「ばいば~い」
「そしたらさ…」の後、短いためらいがあった。
そして、とても照れくさそうに「おごって」と言ったハヤテ。
その照れくさそうな言葉は、
「おごって」という言葉の裏にある照れくさい気持ちを
わざと隠そうとしているように聞こえた。
まさかまさか・・・・
「会いに行くよ」と言うと照れるから?
まさかまさか・・・・そんなはずは、ない。
でも、どう考えても、そうとしか聞こえないような口調だった。
昨日は私が「会いに行くよ」という気持ちを「行こうか?」という言葉で隠し、
今日はハヤテが「おごって」という言葉で隠していたような・・・・
連日、私たちは一体何をしているんだか。
会ってはないけれど、会いたい気持ちを遠回しに伝えているようで
なんだか照れくさくて、どこかあったかくて、どこか切ない。
ハヤテはなかなか素直に言葉を紡ぐのが得意ではない。
ついはぐらす。ついかわす。それが習慣づいてしまっている。
だからこそ、いつも本心を言う時に、刹那ためらって、照れくさそうに言葉を発する。
この間の仕事の相談もそうだった。
だから今日、刹那のためらいを感じた瞬間、
ハヤテが本音を言うな、何を言うのかな?と心構えをしていた。
「おごって」という言葉が出た瞬間、たまらなく愛おしくなった。
だって、私たちはいつも、会いたいの代わりに、
何度も何度も「おごってよ」「おごるよ」と互いに言い合ってきた。
もしかしたら・・・・・
今日だけは、本当にハヤテが会いたいと思ってくれていたかもしれない。
もちろん、思い過ごしの確率のほうが高いだろう。
でもいい。今夜だけは、この甘くて淡い期待に包まれていたい。
気持ちが悪いほど、ここ最近、ハヤテとの接触時間が長い…。
互いの惑星軌道が完全にすれ違って離れたと思っていたのに。
ボブがまた私のことについてハヤテに話したようで
「ボブがさ、『ミサトはゲーム狂なの?』って言っていたけど、そうなの?」と聞いてきたり、
「○○の著作権はミサトのものなのか~~~」といきなり騒いできたり。
そんな中、「○○さんのお父さんが亡くなったんだ。明日行ってくるよ」とハヤテ。
私も仕事で世話になっている人だったので、「お香典立て替えておいてよ」と言うと
「今日の夜、飯おごってくれたら、お香典代、俺が出すよ」とのこと…(苦笑)
「そういう場合は普通、飯食おう→その時お香典渡して、と言うだろう」と返すと
「そういうもんか」とハヤテはすっとぼけている。
一方、私は内心、「え?今夜飯おごれ?会おうってことか??」としばし興奮。
どぎまぎしながらも、結局、いつもように他愛ない会話に埋もれていった。
夕方になって、どうしようかと思い、「どうすればいい?」とメッセで聞くと、
「会議が白熱しているから生返事」とハヤテ(笑)。
じゃ、いいかと思って帰ろうとしたら、「10時ごろまでこっちにいるけど」と返ってきた。
10時ごろまでこっちにいるけど…何よ?肝心な後の言葉は返ってこない。
「来いと言うなら行くし、立て替えておくというならお願いするけどどうする?」と
再度聞くと、「いいよ、立て替えておくよ」と返ってきた。
内心、なんだ、立て替えちゃうのか…と残念に思う自分と
10時ごろまでこっちにいるけど…なんだったんだろうか…と気になる自分。
それでも結局、「じゃ、よろしく」としか返せなかった。
私は一体、何をしているのだろう。
今なお、ハヤテに対して、自分の本音をぶつけずにいるなんて。
ハヤテに会いたいなら、「じゃ、行く」とどうして言えなかったのか。
それでも、立て替えてもらったお香典を払う、という名目で会うことができると思うと
それはそれで、私の心を満たすのだった。
ハヤテの友人で、近頃仲良くなったボブからメール。
mixiのマイミク登録のお誘いだった。
その後、私がゲーマーだということを知ったボブが
ゲームの話題のメールを送ってきて盛り上がった。
すると、ボブがハヤテにそのことを話したようで、
ハヤテがさりげなく、ボブとのことを聞いてきた。
「ボブはおちゃめで楽しい人だよね」と言うとスルーされ、
唐突に「タカ君がさ、とんかつ食いたいって」と返してきた。意味不明…
しばらくしてから、またハヤテが話しかけてきて
「例の件(=心配事)が完全解決したよ」と伝えてきた。
そのままあれこれと雑談していたら、
今度は「中華でも食いに行きたい」と言い出した。
「いいよ、いつでも」と言うと、「よし!じゃ日程調整する」と張り切っている。
どうやら、心配事が完全に解消されたことで浮かれているのだろう。
よかった、よかった。お祝いだ。
ハヤテとまた宴会だ~と喜んでいたら、
今度はタカ君が話しかけてきて、
「なんか、いいことあった?」と言い出した。
「別にないけど、どうして?」と言うと、
「いや、なんか楽しそうだからさ」とのこと。
そんなに自分ははしゃいでいただろうか。
そもそも、タカ君はいい加減、諦めてくれたのだろうか。
確認すると面倒だから、当たり障りのない話でかわすことにした。
最近、よくハヤテと遊びの計画を立てることが多くなった気がする。
ま、親友ですから…それ以上に意味ないですから…
期待しない、期待しない…。
「心配をかけました。なんとか、このまま頑張るよぉ~」
ハヤテが少しおどけながら、メッセで話しかけてきた。
内心、かなり心配していたので、少し安堵したけれど、
少し追求したら、案の定、また背負おうとしていた。
「まったく、いつも背負っちゃうんだから」と言ったけれど、笑っていた。
そんな馬鹿正直なところに惚れたところもあるからなぁ。
「この間は、思い切り飲めなかっただろうから、また日を改めて」と言うと
「うん、ぜひ。でもこの間は○○さんが凄く喜んでたからよかったよ」とハヤテ。
「○○さんだけが私にジェントルだったな」
この間の悲しいハヤテの発言を思い出し、精一杯の厭味を言うも
「最初だけさ」と笑って交わされた。
このするりと交わすハヤテの態度に、どういう訳か惹かれてしまう。
とはいえ、今日の会話をしみじみ思い返すたびに、
私たちは所詮、大親友なのだ、と痛感。
ハヤテと飲むことになった。彼の心配事の相談を受けるために、最初は2人だけで飲もうかとも思ったが、彼がやってくれば人気者なだけに、みんながせっせと宴席のセッティングを始めてしまい、仕方なしにみんなで飲みに行くことになった。
ところが、その宴会は気づけば、私がどういう人間か、どういう女か、という話題になってしまい、ハヤテが言うのだった。
俺さ、こう見えても結構ジェントルなんだよ。
昨日、フランス人の女性と飲んでたんだけど、雨が降ってきてさ。
さっと傘を差し出した時に、ふと思ったんだけどさ。
なんで、俺、ミサトさんが相手だと傘出せないんだろ。不思議。
なんだそりゃ。挙句の果てに、「ミサトさんはフラットなんだよなぁ。他の女の人じゃ、なかなかない。レアケースなんだよ」と笑っている。なんだそりゃ。要は、女として見てないというのを大宣言しているようなものだ。周囲は「分かる分かる」と楽しげに頷いているが、私は内心、悲しかった。
私って、そんなにイケてないんかなぁ(苦笑)。
色気がないのは自覚しているけれど・・・・なんだかなぁ。私よりも色気ないように思える人にも、ハヤテは優しくしているように見えるだけに、どんどん自信がなくなる。本当、悲しくなるほど、脈ないなぁ。これじゃあ、駄目元でも好きだんなんて、口が裂けても言えないな。
このまま、墓場までこの想いを抱えていくことになりそう…orz
そんな中、ただ一言、私を救ってくれた言葉があった。
I trust her.
外国人の知人に、彼は私のことをこう紹介した。「trust her」、かぁ。ま、いっか。
仕事のことで、かなり失望していた。
会社という組織の中にあって、自分ひとりでは、どうにもならないことが多々ある。
この先、どうしたものかと思っていたら、偶然にもハヤテからこっそり相談があった。
なんとハヤテも同じようなことで悩んでいたのだ。
「他の人には話せないんだけどさ。ミサトさんだけしか言えない。
まるで中学生とか高校生みたいだけどさ(笑)
今度、まじ相談したいんだけど」と珍しくしおらしい。
「いいよ、じゃあ、他の人を交えないで、こっそり飲みに行くか」と言うと
「うん、ぜひぜひ頼むよ~」とのこと。
明るく振舞おうとしているが、言葉の端々に失望が見え隠れする。
暗中模索は自分だけかと思っていたら、ハヤテもそうだったなんて。
いつも考える事や感じる事が似ているな、とは思っていたけれど
まさか、これから仕事どうしようか、というところまで同じだったとは…(汗)
これまで、あまりこうした事を言わない人だったから、ちょっと驚きつつも
何でも話せるのはミサトさんだけだと言ってくれたことに嬉しさも隠せない。
自分も途方に暮れてはいるが、何とかハヤテの力になれないものか…
惚れたはれたの、熱のある関係にはなれないけれど、
何も言わなくても心が通じるという安心感のある関係になれているなら
それも悪くないと思う今日このごろ。
「俺、惚れた女の前では断然かっこつけるんだ」と笑っていたハヤテ。
私はそんな気取ったハヤテを見たことがないので、
惚れられていないことだけは確か。でも、多分、私が一番、ハヤテの
かっこ悪いところを見ている気がする。恐らく、ハヤテはどういう訳か
私の前では油断して、安心して力を抜いてしまうようだ。
それでいい。かっこいいハヤテよりも、弱いハヤテの方が私は好きだ。
等身大のハヤテに惚れたのだから、これでいい。
ハヤテの悩みを少し聞いて、自分がもっと元気にならなくちゃ、
ハヤテに元気をあげられない、と妙に気合が入った一日。
新年になって早29日。
年末に会って以来、いまだハヤテには会っていない。
それでも、何だか心が軽いのは、この1週間ちょっとくらいの間、
他愛もないことで、よくメッセで話したせいだろう。
私はちょっと重い仕事の三重苦で、連日、徹夜の一歩手前のような
むちゃくちゃな生活を送っていた(といういか、今も)。
一方、ハヤテは海外出張であった。
事前に、本人から聞いたわけではなく、彼の後輩から又聞きしたため
当初は、ちょっぴりすねていた。
が、オンラインの状態で黙々と作業をしていたら、
出張先の海外の空港から、ご機嫌なメッセージが入った。
まったく、私は君から海外に行くなんて直接聞いてないのだぞ。
にもかかわらず、当然知っているよね、という口調だ。
「今、着いた。トランジットだから、あと4時間ある」とハヤテ。
「ここさ、タバコ吸えたよね?」と聞いてくる。
「うん、ほら、カバンを受け取るところの近くにあったじゃん」と私。
「そうか、でもトランジットだから無理か…外出るか」とハヤテ。
そう、彼は今、二人で珍騒動を繰り広げた思い出の空港にいるのだ。
「こっちは雨だよ。雨は初めてかもな」とハヤテ。
メッセを通して、彼の地に思いをはせ、
もう2年も前になる、あの旅を思い出しては切なくなる。
それからも、数日間にわたって、行った先々で
気が抜けるような一言を投げつけてきた。
ハヤテにしてみれば、単なる時間潰しだろう。
昼夜逆転の地にいるから、彼がオンラインの時間帯は
日本ではオフラインの人が多い。
たまたま私の生活がおかしくなっていたおかげで
暇つぶしの相手に、私が選ばれたに過ぎない。
それでも、味気のない深夜の作業が楽しみになり、
しみじみと、ハヤテが好きでたまらないことを痛感する。
彼の地から、他国へ移動した先で、
「いいよ、こっち。おいでよ」とノーテンキな台詞を無責任に発するハヤテ。
そこに、何の感情も隠されていないことくらい、
もう2年以上も思い続けているのだから分かっている。
それでも、私はそんなハヤテが大好きで、
彼の軽さに呼応するように、「いいね~行きて~~♪」などと返す。
そこに私の本心が潜んでいるなんて、ハヤテは思いもしないだろう。
出張前の宴会の約束を、彼はすっかり忘れていると思っていた。
ところが、出張先から日程調整をしてきたハヤテ。
その日が明日。
ハヤテに会うのは、1か月ぶりだ…。
ハヤテの顔を見たら、さらに私の心は溶けてしまうだろうなぁ。
さて、余談だが、元彼と、元彼上司が異動となった。
間違いを犯すことなく、日々をこれまで過ごせたことに安堵。
まあ、そもそも、両者には、全く萌えないなら、ありえないことだけど。
ハヤテの破天荒さを前にしたら、誰も色あせてしまう。
この魔法は当分解けそうもない。
2008年の幕開けは、スローなものであった。
確か、2007年は、年明けと同時にハヤテが
メッセンジャー越しに「明けましておめでとう」を言ってきた。
しかし、今年は仕事始めになって、サインインしているのに
一向に声が掛からなかった。
同じ職場というわけではないので、奴のタイムラインは不明。
忙しいかもしれないと思い、こちらからは何も話しかけずにいた。
そして、今日になってようやく「あけおめ」と暢気に話し掛けてきた。
「今年も酒よろしく」と、色気のない言葉が続いた。
忘年会は互いに時間が折り合わなかったのでやらなかった。
「新年会やるか」と言うと、「おう!」と前向きな回答があった。
去年の前半までの私ならば、必死になってそのセッティングをしただろうが
今年の私は暢気に構えている。
忘れっぽいハヤテに向かって「じゃ、セッティングよろしく」と言うと
「このオレにたのむか」と飽きれていた。
一生懸命、心が揺れないようにしていた。
会いたいには会いたいが、会ったからどうという訳でもない。
きっと2008年もすれ違いのまま通り過ぎてゆくだろう。
それを無理矢理にでも軌道修正しようとは思わない。
静かに静かに、思い続けるだけでいいのだと思っている。
思うことだけが自由なのだから。
まあ、それでも、こうしてメッセンジャーであっても
言葉を交わせたことを、やっぱり嬉しいと感じずにはいられない。
というわけで、ハヤテに片思いをして、今年で2年目に突入…
人恋しい季節がやってきてしまった。
それでも近頃は、なんとなく心穏やかな日々が続いていた。
別に何かハッピーなことでも起きたわけじゃない。
変わらないことに、そして、ハヤテのいない時間に、少し慣れてきただけだ。
なのに、今日は久しぶりに心がぐらついた。
ぐらつき始めると、季節と相まって、刹那さが膨張する。
なぜいきなり?
そう、予想外なところで、珍しくハヤテがメッセで話し掛けてきたからだ。
仕事だったために、昼すぎからずっとサインインしていた。
ハヤテがいることは気づいていたが、
別段話し掛けるようなこともしなかったし、
彼が話し掛けてくるとも思わなかった。
その状態には近頃すっかり慣れていたので、どうってことはない。
「あ、ハヤテいるな」と思いつつ、単に仕事を進めればよいだけのことだったのだ。
なのに、突然、ハヤテが話し掛けてきて、私の調子は狂ってしまった。
「どう?最近」と、何ともどうでもいいような質問である。
「どうってことはないよ」と私も、素っ気ない答えを返す。
きっと、こんな態度だもの、私がハヤテを好きだなんて
ハヤテは夢にも思わないだろう。
しばし、最近の仕事の話とか、来年の見通しとかを話す。
ハヤテの仕事はどんどん大きくなっていって、
そのたびに、どんどん遠くなっていってしまうようで、ちょっぴり悲しい。
ひとつ、共通のプロジェクトはあるけれど、
最近は後輩にそれを任せて、殆どハヤテはタッチしていない。
それでいいのだと思っている。
ハヤテはもっと広い世界に行くべきだ。
それができる人なのだから、そうするのは当然で、応援したいと思う。
そう思う一方で、一抹の寂しさを感じずにはいられない。
ま、その寂しさすら、相手にぶつけることは叶わないけれど。
「これから飲みに行くんだー。○○さんの結婚式」
「そうなんだー、おめでとさんだね」
「それじゃ、Have a nice holiday!」
「Have a nice holiday!」
そう言ってハヤテは消えていった。
今年はもう、会えないだろう。
来年はいつ会えるだろう。
窓の外のイルミネーションを見ながら、無性にハヤテに会いたいと思う。
2007年…また1年、想いを告げることなく、片思いのまま暮れてゆく。
2008年はどうなるだろう。やっぱり言えずに過ごすんだろうな。
ハヤテに飽きちゃう日は、一体いつになったら訪れるのだろう。
先日、とあるセミナーでハヤテが講演することになった。
知らずにそのセミナーに申し込んでいたのだが、後から知って顔を出そうと思っていた。
ところが体調を崩し、ハヤテの顔を見ないまま会場を後にした。
生気のない顔を見られたくなかったわけだ。
今日、別の場所でハヤテが講演することになり、
「来てくださいよぉ」と、いつもの甘えた声で言うので、顔を出した。
久しぶりにハヤテの顔を見たかったのもあるが
別の講演者の話にも興味があったためでもある。
会場に行くと、ハヤテが正装をしていた。
そんなハヤテを見るのは初めてである。
何だか、知らない人のような雰囲気。
挨拶にたったハヤテを見たら、ちょうど目が合った。
何だか照れたような表情をしている。
正装のハヤテ、照れたハヤテ、その両方がおかしくて
つい噴き出してしまった。
講演者の話が一通り終わり、質疑応答の時間になった。
誰も手を挙げない。ハヤテが会場を見回している。
目が合うとやばそうだな、と思って、アンケート用紙に目を落とし、
書き込み始めると、いきなりマイクを持ったハヤテが言い出した。
「ミサトさん、どうですか?質問はいかがでしょう」
見れば、いつもの甘え顔。
おいおい、こんな時まで私を利用しようというのか、君は。
仕方なしに応じたものの、しどろもどろ(涙)
ま、なんとかセミナーはそのまま無事に終わったのだが…
なんてこったと思っていたら、ハヤテの部下たちが
「いや~すいませんでした」「ありがとうございますー」と
笑いながら周囲に集まってきた。
当のハヤテは、他の講演者とともに談笑している。なんて奴だ。
帰途は、へんてこな質問をした自分を悔いつつ落ち込んだ。
深夜、サイインインすると、ハヤテがいた。
なんだかムッとして、すぐにサインアウトしようと思った矢先に
珍しくハヤテが迅速に話しかけてきた。
「今日は本当にありがとう!助かったよーー」
相変わらずノーテンキなハヤテなのであった。
「しどろもどろになって、へこんだ」と応えると
「えー、頭よさそうに聞こえたよ」と、あっけらかん。
「そんなわけないだろうに!」と応戦しても、
「ありがと、ありがと」とご機嫌なハヤテ。
そんなハヤテの話しぶりを見ていたら、どうでもよく思えてきた。
珍しく長きにわたってそのまま会話をした。
会場じゃ、一言も話し掛けてこなかったくせに、
どういうわけか、メッセンジャーでは話せるのだ。
ハヤテはどうだか知らないが、
少なくとも私には、意識して以来、照れがあり、
面と向かって話すよりも、メッセのほうが話しやすい。
そんなメッセでの会話も近頃ご無沙汰だったのもあって
久しぶりに昔にもどったかのような気分。
そういえば、講演中に、共に行った欧州の話題に触れていた。
「縁あって行くことになりまして…」とハヤテ。
縁ねぇ、縁。
それでも、あの旅行は双方にとって、少なくとも、その後の
仕事にとっては非常にプラスになったものであり、
今もなお、とても重要な旅であったという認識は彼も持っていたようで
それが分かっただけでも、何だか満足した一日であった。
ま…旅の内容がハヤテにとってプラスだったであり、
私と行った、ということはあまり重要じゃないんだろうが…(苦笑)
すれ違って会えなかった日からしばらく、心の芯の辺りが疼いた。
それでも、ハヤテとコンタクトをとることはしなかった。
もう、この距離をどうすることもできないように思えてきて、
歪んだ気持ちはついに、ハヤテに会えた先輩たち2人への嫉妬に発展した。
こんな不健全な心の循環をしていてはいけない、と仕事にのめり込む…。
ハヤテの後輩エンジニアとあれこれ打ち合わせをオンラインで重ねるうち
重要事項を決めないといけない局面になった。
後輩君が「○○さん(ハヤテ)が、明日の夕方、こっちに来てもらえると嬉しいと
言っていますけど、どうでしょう?」と聞いてきた。
「いいよ」と返事をしつつ、「やっと会えるのか…」と感慨深くなる。
それでも、変にはしゃぐことなく、平常心を保たねばと自分に言い聞かせた。
ハヤテの会社に顔を出すと、久しぶりに、あのヘラヘラした笑顔に面会できた。
あのヘラヘラ…なんとも疲れたような、緩んだような、曖昧でいて甘えた笑顔。
あのヘラヘラを見るだけで、これまでの苦しさが一掃されてしまう。
「久しぶり」と声を掛けると、「歪んじゃった」とMacBookを見せられた。
「どうしたの」と聞くと、「落としちゃった」と再びヘラヘラ。
絶対にもうこちらからはコンタクトとらないぞ、とか
もう二度とフォローなんかしてやるものか、とか
会う前まではあれこれと無駄な力が心身ともに入っていたが
一瞬にして流れ、そして、改めてハヤテを見ながら
どうしようもなく好きだと認識する。
そのヒゲ、すごく似合っているよ、と心でつぶやきながら。
その夜、ハヤテの夢を見た。楽しげに2人で笑っていた。
なんとも目覚めがよろしいことで…笑
翌日、ハヤテが珍しく話しかけてきた。
「あのカンファレンスのチケットいる?」とハヤテ。
「ええええ!買っちゃったよ」と私。
「そか、残念」
「遅いっちゅーの」
「あああああ、帰りたい。疲れた…」とハヤテ。
珍しく愚痴っている。
「帰るべし」と言うと、会議があって帰れないとのこと。
「そっちに行く予定入れたいな。そっちへ行きたい」とハヤテ。
「いつでも逃げておいで」と私。
簡単には逃げられないハヤテはうなっていた。
きっと、すれ違ったあの日も、隙間をみつけて逃げてきたのだろう。
今度こそ、私のいる時に逃げてきてくれ。
顔を合わせて、ほんの少し、広がった距離が縮まった気がする。るん♪
【追記】さらにこの後、ハヤテが話しかけてきた。
一体、どうしたんだろうか???
あまりはしゃがないようにしよう…といいつつ、思わずスキップ。るんるん♪
ご無沙汰しているうちに、なんだか、ハヤテとは地球の反対側にいるような
とてつもない距離が生じてしまった気がして、なんともやるせない。
どうしてこうなってしまったのか…考えても考えても理由が分からない。
ただただ、なんとなく離れてゆき、どんどん気まずくなっている。そんな感じ。
メッセではもう殆ど話さなくなった。
仕事でも会う機会がとんと減ってしまった。
こうなると、もう、「いつか会えるだろう」なんて、
漠然とした約束すらないも同然だ。
1か月ほど会っておらず、我慢我慢と思っていたら
なんとハヤテがうちの会社に顔を出したという。
それも私が夜勤で、職場にいない時間帯にだ。
もちろん、ハヤテは私が夜勤で不在などとは知らない。
知らないけれど、なんでよりによってこんな時にやってくるのだ。
男先輩曰く「突然、行きますと言ってきてさ」とのこと。
特にうちに来なくちゃいけない理由はなかったらしい。
なんでハヤテはやってきたのか。
相変わらず訳の分からなさは変わらないけれど、
どうやら私たちは、会えない運命にシフトしたらしい。
ハヤテにしてみれば、息抜きにうちの会社に来たようだが
男先輩や女先輩と会えばそれでよかったのだろう。
彼の息抜きは、私がしてあげられるのだ、なんて思っていたなんて
とんだ勘違いも甚だしかったことが本日明らかになった。
こうなるともう、私はハヤテにためにしてあげられる事など何もない。
「○○さん(ハヤテ)さ、風邪ひいて元気なかったよ」と男先輩。
「ふ~ん、そうですか」と私。
「やっぱり、ここはいいですね。こっちで作業したいなと言ってたよ」と先輩。
「先輩たちと会えて元気になっただろうからよかったですよ」と私。
「う~ん」と先輩。
もう本当に終わったのだな。
依然、お祓いの効果は続いている。
今日もサインインした途端に、ハヤテが声を掛けてきた。
お祓い前の3週間ほど、ずっと音信不通だったことを思えば驚きだ。
仕事の件で、しばし話す。仕事の話でもハヤテとなら楽しい。
相変わらず、風邪は治ってないらしいが、これから出張だという。
「ミサトさんも検査だったんでしょ?大丈夫?」とハヤテ。
「へ?検査?私が?」
「○○さん(=女先輩)が言っていたよ」
「うーん、なんだろ?元気いっぱいで病院行ってないんだけどw」
「違うのか。それならそれでよかったっす」
ちょっと心配してくれていたような…。こんな事でも嬉しい。
「○○の件さ、やるんでしょ?」
別件の新しいプロジェクトについてハヤテが聞いてきた。
「うん、やるやる」
「じゃ、協力するよ」
「おお!ありがとう~。さすがハヤテ様。何でも言うこと聞きます」
「じゃ、ふかひれ」
「牡蠣のシーズンだから、牡蠣がいい」
「よし、じゃ、牡蠣食いに行こう」
確かな約束じゃない。それでも、こうした会話ができる時間が愛おしい。
「それじゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
「おう!」
離れていた距離が、少しずつ埋まっているという実感。
そういえば、欧州旅行から早1年。
1年前の今日は、欧州で2人してコンファレンスに出席していた。
未明までホテルのロビーで、ハヤテは仕事をし、私は本を読み
そうして静かな時間を過ごしていた、あの日が懐かしい。
言葉などあまり必要ではなく、ふと本から目を上げた時に
気配を感じたハヤテもPCから目を上げて、ふと微笑み合うだけの時間。
それ以上、距離を縮められないもどかしさと愛おしさと…。
何だか、妙に、欧州の日々を思い出す今日このごろなのである。
先月のMTG。久しぶりに会ったハヤテは、やっぱり素敵だった。
会社への泊り込み5日目だと言っていたわりには、こざっぱりしていて
CROCSの黒のサンダルをはいて登場した姿がかわいかった。
まるで、クマさんがサンダルを履いているようで…。
MTGの内容そのものが、ちょっとHeavyだったため、黙りながら
あれこれ考えをめぐらせていたら、ハヤテが妙に気を遣ってきて
「ミサトさん、どうでしょう?」「ミサトさんの意見は?」などなど
いちいち聞いてくる。そのたびに、「うーん」と煮え切らない答えを
しつつ、最後に「もうちっと時間をもらえないだろか」と言うと、
優しく微笑んで、「うん、いいっすよ」と言うハヤテ。
その笑顔、見せられると弱いんだよなぁ、なんて、関係ないことを
本当は心の中で思っていたりして。
この日、本当は昇進祝いをしようと言っていたのだが、
他のプロジェクトに追われて、全く余裕がなかったハヤテ。
「ごめん、今日は無理だ」と言うことでキャンセルとなった。
なんだか最近、ドタキャンばかりだ。忙しいから仕方ないけど。
その後、どういうわけか全くメッセンジャーでも話さなくなってしまった。
多忙を極めていたのだろうが、どんどん離れていく感じが不安だった。
とはいえ、私も課題山積で、そんなことに思い悩んで止まっている
わけにはいかない状況。邪念を振り払い、違うことに集中せねば…
そう思って耐えること3週間。他にも要因が複雑に絡み合って、
珍しく仕事に関しても後ろ向きになっていた。
何だかすっかりリズムが狂ってしまったので、思い切ってお祓いに
行くことにした。お祓い人生初体験!
お祓いを終えたら、いい加減なもので、何だか心が軽くなった。
おみくじを引いたら、なんと大吉!凶に違いないと思っていたのに
どうやら本当に悪のスパイラルから抜けられそうだ。
こう思うと事態はいい方に転がるもので、昨日は社内でとても
前向きになれる出来事があった。その後、ハヤテととある会社の
人達とMTG兼懇親会があったのだが、3週間ぶりに連絡があったと
思いきや、「風邪が悪化してどうにもならないので、本日欠席」だと。
またかよ、ドタキャン…と一瞬ブルーになったものの、気持ちを切り
替えてMTGにのぞんだところ、これが実に面白かったのだ。
おまけに、素敵な外国人がいて、思わずうっとり(笑)
帰宅後、オンラインになったらすぐさま、待ち構えていたように
ハヤテが「(外国人を)ゲットした?」と聞いていた。なんじゃそりゃ。
「握手した」と返すと、「ふ~ん」とハヤテ。「男前だったな~」と言うと
「それじゃ、あっちの国に行っちゃえ」と言うので、「それも悪くないね」
なんて返したら、「ほ~」と、何だかよく分からない反応。
「あのさ、どうでもいいけど、体調不良なんだから、こんな時間まで
起きてないで、さっさと寝なよ」と言うと、「うん、そうする」と素直。
「明日、休みたいんだけど、仕事で休めないんだ」と珍しく弱気だ。
「それじゃ、あったかくして、すぐさま寝るのだ」と言うと、
「うん。おやすみ」と消えていった。何だかよく分からないハヤテの言動。
翌日、男先輩にそのことを話すと、「そりゃ~、嫉妬に決まってるじゃん。
本当に子供だな~、○○さん(=ハヤテ)は」と笑っていた。
「あのさ、昨日のMTG中さ、○○さんがメッセンジャーで話し掛けてきて
『女性陣の反応はどうですか?』と聞いてきたんだよ。で、『女性陣と
言っても、ミサトちゃんのことでしょ?ミサトちゃんの食いつきはいまいち
ですよ』と言ったんだけどさ。きっと心配だったんでしょう、外国人の男に
フラフラ行っちゃうんじゃないかって。だから、ミサトちゃんがサインイン
するまで待っていたんだと思うよ」とのことだった。
……ホントかよ?(;^A^)ゝ
もし、それが本当だとしたら…なんて子供っぽいのだ(笑)
ていうか、散々放置しておいて、このリアクションは何なのだ(絶句)
嫉妬だって?どうせなら、思い切り嫉妬に狂ってみろってーの。お仕置きだ!
そして今日。体調が悪いから昼過ぎに仕事に行くと言っていたハヤテが
昼前にサインインしてきた。「おや?」と思ったが、特に話しかけもせず
仕事をしていたら、しばらくして、いきなり「○○さん(=いつものかわいい
彼女)に変な事言ってないだろな~」と、唐突に言いがかりをつけてきた。Σ(゚д゚|||)
「な、なんだよ、いきなり~」と返すと、「今、○○さんと話していたんだけどさ」と
ハヤテ。実は昨日のMTGには、その彼女も参加していたのだ。
「何も言ってないよ。○○さん(=彼女)がいるのに、今日欠席したって
ことは、体調が悪いというのが事実だということだろう、とか、
ハヤテは○○さんのことが大好きだから、とても残念がっているだろうとか、
そんなことしか言ってないよ」と言うと、「十分言っているじゃんか」と言うので
「だって事実しか言ってないもーん」と言うと、「ふーん」とな。とはいえ、
怒っているというよりも、じゃれているという印象だったために、微笑ましい。
「早く風邪を治して会いに来ないと、昇進祝いしてあげないよ」と言うと
「おお!治す」と相変わらずのハヤテであった。
外国人の彼は確かに素敵だった。確かに見とれた(笑)。
でも、大好きなのは、ハヤテ以外にいるわけないじゃんか。
そんなこと、分かっているだろうに、ハヤテだって、本当は、きっと。
ちなみに、タカ君とはずっと話していない。
一度、会いたいと言われたが、多忙のため会えないと返事した。
多忙だというのは本当だ。だが、もしこれが、ハヤテの言葉だったら
どんなに忙しくても会っただろう。ハヤテに会いたい。
次の「約束」は、まだ、ない。
ハヤテが昇進した。
「祝ってくれー」とメッセで言ってきた。
なんとも無邪気な人だw
若くして会社の中枢中の中枢になったにもかかわらず
気負いは全くなく、彼は彼のまま、自然体で天真爛漫だ。
「牡蠣でも食いに行くか~」と言うと
「おお!やった!」とハヤテ。
「牡蠣とワインは最高だ」とご満悦だ。
「いつがいいか決めておいてくれ」と告げると、
すぐに今度のMTGの日がいいと言ってきた。
こういう時のレスの早さは、貪欲なほどだ。
呆れる一方、これがハヤテのよさでもあると笑えてくる。
何だか最近、ハヤテとはいい感じだ。
女先輩が「昨日の夜、ミサトちゃんがサインインする前にさ」と言い出した。
唐突にハヤテが話しかけてきて、お話したという。
「この間のセミナーで、ミサトちゃんの写真を使ったらしいよ」
「ええ!その写真くれと言ったら、ないと言ってたのに!」
「あったらしいよ」
「普通、使うなら使うで本人に使用許諾とるでしょ~」
「ミサトちゃんなら何でも許してくれると思ってるんでしょ(笑)」
まったくどういう神経をしているのだ。
ハヤテは私に一言もなく、資料だけくれとせがんで、
ありがとうも言わずに消えていっただけだった。
なんだよ、なんだよ。先輩と話したけれりゃ、二度と私んとこ来るな!
そう、私はこんな些細なことにも嫉妬していたのだ。ちっ
翌日。サインインしたらハヤテが既にオンラインなのが分かったが
メッセの画面に向かって、「バカ野郎~!先輩のところへ行っちまえ」と
年甲斐もなく大きな声で一人憎まれ口をたたいていた。
するとしばらくして、のんきなハヤテがやってきた。
しばし仕事の話になった後、
「どうでもいいけど、次のミーティングのドタキャンは許さん」と言うと
「。。すいません」と珍しく殊勝な態度。
「たまには私のメールを読んでよね」と強気にでると
「。。はい」と素直だ。ま、この一瞬だけなんだけど。
「14日だよね」と確認してきたから「そうだよ」と応えると
「そうか、バレンタインデーから7カ月か」とハヤテ。
「は?まだ気にしているのか、バレンタインデーの存在を」と聞くと
「チョコ好きだからね」と無邪気な回答。
「私も好きだからチョコくれてもいいよ」と返すと
「ミサトさんには花を贈ろう」ときたもんだ。
えっ…Σ(゚д゚|||)…まじっすかぁ???…シンジランナイ
「どうせ落ちがあるんだろうよ」と返すと
「いい花言葉が見つからない」のだそうだ。
「愛とか感謝とか、いっぱいあるだろうが」と言うと
「うーん。もっと他の」と言うので何かと思えば、くだらないことだった…orz
教えてくれた花言葉のサイトを見てみたら
誕生日の花と性格が書かれていたので、ハヤテの誕生日を見てみた。
すると、「まじめで誠実」とあったので、「これ嘘じゃん」と言うと
「すぐにばれるから、俺は素直だぞ~~」「まじめだぞ~~」と主張していた。
「ふ~ん」と冷たく突き放したが、
内心、ハヤテは素直だと思うし、まじめだとも思う。
同時にハヤテはあまのじゃくだとも思うし、誠実ではない所もあると思う。
少なくとも、後者のハヤテは、私の知る範囲では、私にばかり見せる。
それでも好きなんだから癖が悪い。
花か~。どうせなら愛の言葉をのせて贈ってほしいけど
きっと「おいおい…」と言いたくなるような、笑える花言葉なんだろうな。
ていうか、そもそもこの言葉もまた消えてしまことだろう。
それでも、ハヤテが放った言葉は私の中で生き続ける。
明日、タカ君と会う約束をしていたが、多忙のためキャンセルした。
うざいうざいと思っていても、「気が利かなくてすいません」なんて
素直に謝られちゃうと、なんだか、「こっちこそごめん」と切なくなる。
何揺れちゃってんだか、自分…Σ(´Д`υ)ハッ
タカ君がうざい。
でも、うざさの原因は私が作っているとも言える。
だから、正面切って、「うざい」と言えない。
金曜日、帰り際にハヤテが「ミサトさ~ん」とSkypeで話しかけてきた。
なんのこっちゃ?と思いきや、「○○さんが夏休みでいないよ~」だって。
○○さんとは、いつもの開発会社のかわいい女の子だ。
ハヤテは今、そこの会社のアプリを使ってさらなる開発をしている。
どうしても彼女とコンタクトをとって至急聞きたいことがあるらしいのだが…
「愛しい彼女は夏休み~」と返してやったら、
「ミサトさんはいつから夏休み?」と聞くので
「ふふふ。教えないけど、1週間はとるぜ」とじらしてやった。
あまり意味のないじらしだが、心に余裕が生まれた証拠だ。
土曜日、大学時代の親友と会った。
6時間にわたり延々と飲み続け、語り続けた。
話題はもちろん、ハヤテとタカ君のことだ。
途中、ふとタカ君と付き合う気になった。
「けじめをつけずに彼を思い続けたとして、
もしも、一人で辛かったら俺と付き合ってくれませんか」
そんなタカ君の台詞にふらりとしたからだ。
だが、最後になって親友が言った。
「やっぱ無理だよ。ミサトはさっきからハヤテ君の話しかしていない」
なるほど、確かにそうなのだ。
口をついて出るのは、ハヤテとのくすりと笑えるエピソードや
ハヤテに思い切り傷つけられた話ばかり。
結局、どんなに目を背けようとしても、ハヤテが好きなことに変わりない。
日曜日。仕事を終えて、さて寝ようかと思ったとき、
タカ君がメッセで話しかけてきた。
「今度の金曜日に飯でも行きませんか」
正直、げげっと思った。うぜ、面倒くせ、というのが本音だ。
これはもうどうしようもない。
しかし、返事をするいい機会かもしれないと思い直し、
「いいよ」と答えた。
タカ君は私の覚悟など知るはずもなく、浮かれた様子だ。
ああ…心の芯がどよ~んとする。
月曜日。
明日予定していたミーティングをハヤテがドタキャンした。
いつものことだが、日程調整をしておらず、
直前の今日になって、出席できないと言い出したのだ。
呆れる一方、奴らしいと笑ってしまう。
関係者全員が笑って許すのだから、
ハヤテという男は本当に不思議な男である。
メールでめずらしく全面お詫びしていたので、
メッセで、「申し訳ありません、だって。ぷっ(笑)」と送った。
しばらして、ハヤテが「うむ~」と一言寄越した。
どうやら忙しさでテンパっているようだ。
夕方、タカ君がまたメッセで話しかけてきた。
「そういえば、映画に行くって話、どうなりました?
都合がよい日ができたら教えてくださいね」
げげ。そういえば…酔った勢いで、映画に行こうと言ったのは私だ。
そういえば、そんなことを言ってしまったのだが
すっかりこちらは忘れていた。
「好きな人の言った言葉って、どんな些細な事も忘れないんだよね」
親友が言っていた。
私はハヤテが放った些細な言葉に一喜一憂し、
タカ君は私が放った些細な言葉に一喜一憂している。
ハヤテは私に対して何の気なしに放った言葉を忘れ、
私はタカ君に対して何の気なしに放った言葉を忘れている。
上記の公式から悲しい現実が見えてくる。
タカ君は私が好き。
私はハヤテが好き。
ハヤテは私が好きじゃない。
これが現実。それでも、私はハヤテが好きだ。
不思議な1日。
ハヤテとタカ君が同席する場にいる私。
ハヤテが好きだということを知っているタカ君。
タカ君に想いを寄せられている私。
何も知らないハヤテ。
3人の微妙な空気。微妙な時間。微妙なバランス。
日曜日、以前から約束していたライブに行った。
ライブの約束は、まだ3人の思惑がなかった時にしたもの。
何だか嫌だな~という思いもあったけれど、
ハヤテに会いたい思いが勝って、
何事もなかった顔をして行くことにした。
事前に心配になって日曜日の件をハヤテに確認すると
案の定、「忘れていた」とすっとぼけていた。
分かっちゃいるけど、なんて奴なんだ!
金がないと言い出して、言いだしっぺのくせに無責任なことを言っている。
女先輩が「仕方ないからローンにしてやる」と言ってくれたら、
今度は途端に前のめりになって、無邪気にはしゃいでいる。まるで子供だ。
呆れた私は「遅刻だけはするなよ」と言って、前日は早々に退散した。
当日。女先輩と早めに落ち合って、ライブ会場近くのバーで飲んでいた。
ハヤテとの待ち合わせの時間を3分ほど過ぎたときに携帯が鳴った。
「今どこ?もう着いたよ、遅いぞぉー!」
無責任男が受話器の向こうで楽しそうに話している。
そういえば、私の携帯に電話してくるなんて珍しい。
そんなどうでもいい、ささいなことに感動してしまう自分が悔しいが…。
「今すぐいくよ。すぐ近くだから」と言って待ち合わせ場所に行くと、
ハヤテがにこりと笑って、手を振った。
この笑顔についつい甘くなってしまうのだよな~。
ライブ直前、タカ君たちがやってきた。
ハヤテの隣で笑って「やあ」と声を掛けながら、
タカ君はこの状況をどう感じているだろうか、と頭をよぎる。
が、ハヤテの隣から移動するつもりはなかったけれど。
ライブ後、みんなで一杯やりに行こうということになった。
店を探して歩くこと数分。
「アジア系のうまい店がこの先にあったんだけどな~。ちょっと見てくる」
そう言い残してハヤテが駆け出した。後姿を見ながら、
この人は自分が貪欲だからというのもあるけれど、
みんなが喜ぶためには労を惜しまない人なんだよな、と思った。
ぼ~っとただ付いてくるだけのタカ君には、こういう事は望めない。
2人でいても、積極的にどこかに連れていってくれることはない。
どちらかというと、付いていく方が楽な私としては、
ハヤテのこういうところが好きな所の一つでもあるのだが。
結局、目的の店はなくなっていて、仕方なしに
適当に見つけた店に入ることになった。
「芋焼酎がいいんですけどぉ…」と酒のオーダーをしようとしたら
お店の人が「それじゃ、これが一番芋芋しいですよ」と言うので
「じゃ、これをロックで」と頼むと、
すかさずハヤテが「じゃ、俺も同じやつ!」と元気に注文。
「ポテトフライが食べたい」と私が言うと
「フライドポテトならあるよ」とハヤテが悪戯っぽく笑う。
いざ店の人に注文しようという段になって、
「えっと…なんだっけ」と私が考え込んでいると、
すぐにハヤテが「フライドポテトを1つ」と注文してくれた。
こんな調子で、タカ君の視線が気になりつつも、
ついついハヤテと2人で漫才のようなやりとりを重ねてしまう。
それが楽しくて、抑えることができない。
合間合間にハヤテが甘えたような顔でこちらを見つめてくる。
そこに何の意味もないと知りながらも、
嬉しさで顔が緩む自分をどうすることもできない。
宴席が終わり、帰ろうということになって駅に向かった。
振り返ると、ハヤテしかいない。
「あれ?みんなは?」と聞くと
「タカ君たちは飲みに行った。○○さん(女先輩)は○○線」
「そっか。ほんじゃ帰ろうっか」
「うん」
図らずも2人きり。うっとりしながら、ハヤテと肩を並べて歩く。
「あ、この広告。ミサトさんじゃん」
とある女優のポスターを指差して笑うハヤテ。
「うん、まーね」
「いくらくらい?」
「ま~、ざっと1億円ってとこかしら」
「いいな~」
「ま、大したことないわよ」
と、あほな会話をしながら、くすくす笑う。
一瞬、このまま告白してしまおうか、とも思ったけれど、
この何とも言えない緩い空気がそうさせない。
どの面さげて、ハヤテに面と向かって「好き」だと言えばいいのだろう?
笑って言えば冗談にされる。
真面目な顔をしても信じてもらえないだろう。
どっちにしたって、本当の気持ちを言葉で伝えることは難しい。
そんなことを脳裏で考えていたら、すぐに目的の駅についてしまった。
「じゃ、俺はこっちだから」
「うん、私はこっち」
「じゃ、また」
「うん、バイバイ」
別れはいつもあっけない。
追いかけてきてくれるはずもなく、
私もまた、彼を追いかけていくこともしない。
縮まることのない距離がそこには厳然とある。
翌日、仕事の件でハヤテがメッセで声を掛けてきた。
彼「○○さん、いる?」
私「いるよ。今、美女と話している」
彼「ミサトさんのこと?」
私「あら、気が利いているじゃんw」
彼「美女だと思っているよー」
彼「だって、昨日のポスターなんか最高じゃん」
私「ま、まーね」
彼「今度、あのポスターのまんまで来てください」
私「これ以上、悩殺の被害者を出したくないからな~」
彼「そうか、ちゃんと仕事とプライベートを切り分けているのか。感心感心」
私「当然よw」
アホアホ。でも、こんなアホな会話が何より楽しい。
アホなハヤテが好き。
会社からの帰り道、ふと、昨日の着信が気になった。
着信履歴を見ると、先頭にハヤテの名前があった。
このまま、この履歴を残したいな。
タカ君はあの後、一言も言ってこない。
※ 仮名を使用します。登場人物についてはこちらをご覧ください。
昼間、タカ君が「今日は忙しいですか?」と問いかけてきた。
「いや、別に普通だよ」と返した。
反応がないと思ったら、しばらくして、「会いませんか?」ときた。
その健気さに、つい「いいよ」と答えてしまう。
答えた直後、オフィスから見える空と海を見ながら
なんともいえない、複雑な思いにかられた。
約束の時間が迫っている。
そろそろ会社を出なければと思っていたら、
ハヤテが唐突にメッセで話しかけてきた。
「今ならミサトさんを悩殺できる」
……ええぇぇっ?∑(゚Д゚;)
驚いていたら、「…臭いで」とのことであった(笑)。
3日も家に帰らず、オフィスにこもって仕事をしていたらしい。
「もう帰る。限界だ」とヘコんでいる。
そのまま、久しぶりに他愛もない話に花が咲く。
ふと、「またハヤテと一緒に欧州珍道中したいなー」と言ってみる。
「じゃ、プロジェクトの目標が達成したら行くか!」
そんな夢みたいな言葉ですら、私を高揚させる。
彼のふとした言葉が、私に魔法を掛けるのだ。
「じゃ、風呂入れよー」と一言残して、会社を後にした。
タカ君とこれから会うなんて、ハヤテは思いもしないだろう。
もしも知ったら、どう思うだろうか。
ハヤテとの会話を思い返して、
「臭くても、そんなお前に悩殺されているんだよ!」と
言葉にならない思いを心の中で叫んでみる。
タカ君と沖縄料理の店へ行く。
核心に迫った話をするのが嫌だったので、
はぐらかすように、どうでもいい話を転がしていた。
タカ君も、ハヤテのことには触れたくないようで
わざとその名前だけは避けている様子だった。
知らないふりをするほどに、ハヤテの存在は大きくなるというのに。
結局、最後まではぐらかしたまま別れた。
しばらくして、タカ君から携帯にメールが届く。
楽しかった。また誘わせてください、という内容だった。
マメだな…。私なんかメールを出すなんて発想すらなかったのに。
そういえば、その昔。
ハヤテと仲間と飲んでいた時に、ノロウィルスの疑いがあるといって
真っ青になったハヤテがひとり先に帰ったことがあった。
あの時は、帰りにメールを送ったっけ。
無理に誘っちゃってごめんね、と。
惚れていれば自然とマメになるものなのか。
返事を書こうと思って、携帯を広げたら、
壁紙にハヤテの写真があった。
そうだった…ハヤテの写真をはったんだった。
無性に切なくなりつつも、
タカ君に「こちらこそありがとう」と返事をした。
※ 仮名を使用します。登場人物についてはこちらをご覧ください。
この土日、私が退席中に限って、ハヤテがメッセで声を掛けてきて
何だか意味不明な一言を残して消えていった。
その真意は、いつものことながら、まったくもって不明である。
それでも、すれ違いながらも、その足跡が嬉しい。
こんな些細なことで、心がじんわりとするなんて。
彼の気まぐれが、こうも私を一喜一憂させているなんて
当人は想像もしていないことだろう。
出社したら、お盆休みということで、社内はガランとしていた。
メッセのサインイン状態を見ても、みな休みのようで閑散としている。
昼前にハヤテがポーンとサインインしてきたが、
いるな、と思っただけで、特に声も掛けなかった。
夕方、タカ君がサインインしてきて、
「今度の水曜日にお茶でもいいからしませんか?」と誘ってきた。
少し逡巡していると、「会うのは気まずいですか?」と聞いてきた。
「まだ心の整理ができていない」と返すと、
「ミサトさんの心にケリがつくまで、ちょっと引いて待とうかな」と言い出した。
自分の立場を忘れて、「そんな苦しい選択をしてはいけない」と言ってしまう。
「我慢していたら、タカ君が幸せになれないよ」と。
するとタカ君が言い出した。
「ミサトさんが好きな人とケリをつけて、うまくいけば身をひく。
もし、うまくいかなかったら、もう一度、チャンスがほしい。
もし、ミサトさんが好きな彼とケリをつけられないとして、
もしも、一人じゃ苦しいということならば、
今のままの状態でいいから、付き合ってほしい、というのが本音。
だから、その好きな人というのが、やっぱり気になるというのも本音」
ならば正直に話さねばなるまいと思い、好きな人の話をした。
タカ君は、たまに相槌を打っては、殆ど黙って聞いていた。
最後に、「それってハヤテさん?」と聞いてきた。
その瞬間、心臓がバクバクいいだして、絶句してしまった。
嘘でもいい、うまくかわさなきゃ…と思うほどに、
うまく言葉が出てこない。
どうしよう、どうしようと思っていたら、
「ま、いいや(笑)。言いづらいことを言わせてしまってごめん」と
タカ君が先回りして言葉を投げた。
そして、タカ君はそのまま、黙ってしまった。
こうして、どんどん周りが壊れていく。
守ろうとするほどに、結局、私は何もしないまま、
それでもボロボロと壁が崩れ落ちてゆく。
みんなが仲良く、笑っていられるチームでいることは無理なのかな?
ハヤテも大事。タカ君も大事。
特別な存在にならない代わりに、
みんなでバランスを保つという選択肢はないのかな?
でも、好きだと言葉にしてしまった瞬間に
そんなことが幻想だと本当は知っている。
動き出した歯車を、もう止めることはできないし、巻き戻す術もない。
結局、すべてを失ってしまいそうな予感。
ハヤテ…何でもいいから、くだらない事を言って私を笑わせてよ。
※ 仮名を使用します。登場人物についてはこちらをご覧ください。
今日は急遽、休日出勤となった。
休日のオフィスは人が殆どおらず、静かで仕事がはかどる。
途中でハヤテがメッセにサインインしていたが、
今日は結局、一言も話すことはなかった。
そういう意味でも静かな一日…。
同じように、タカ君も長時間にわたってサインインしていたが
これもまた話すことはなかった。
まったく話さないようになって、これで2日。
何だか座りが悪いような気がしないでもないが
余計なことをしてはいけないと、
短絡的な行動に走りそうになる自分を抑えた。
さて、返事はいつ、どういうタイミングで言うべきかな…。
一方、今日は、タイシと長時間にわたってSkypeで話した。
最初は仕事の話であれこれやりとりをしていたのだが
途中から恋愛話に発展。
タイシは、私がハヤテに告白したのか?とせっついている。
しまいには、嫉妬作戦がよいと言い出した。
「俺の存在を利用して、ミサトさんが俺を好きになったように
彼に思わせるんだ。そうすると、彼は心配になって
ミサトさんに俄然迫ってくるだろう」というのだ。
しかし、「そんな姑息な手段はしたくない」というと、
「だいたい、気のない素振りをして素直になっていないミサトさんが悪い」
と、思い切り突っ込まれ、さらには以下のような分析をされてしまった。
あのさ、ミサトさんってさ、どうして素直になれないの?
すぐに茶化したり、はぐらかしたりするでしょう?
なんかさ、ミサトさんって、真面目な話をさせない雰囲気がある。
告白しようと思っても、笑いのネタにされるんじゃないかと思っちゃう。
言わせない雰囲気を作っているのは、ミサトさんだと思うよ。
幼馴染みたいな、親友の雰囲気だって?
そんなの、ミサトさんが一方的に作り出しているんでしょ。
そうなるとさ、行動に出れるわけないじゃん。
……おっしゃる通りです。返す言葉もないとはこのことよ。
でも、私がその雰囲気を作り出しているとはいえ、
今更、好きだなんて素直になれるような関係じゃないんだよな。
なーんて、思ってみたりして…。
それでもさ、タカ君は行動に出たわけで…
もしかしたら、私はタカ君の前の方が素直だってことか?
確かに、ハヤテに甘えることはできなくても、
タカ君には甘えることができる。
これまた不思議なのである。
うーん…。困った。
※ 仮名を使用します。登場人物についてはこちらをご覧ください。
ハヤテの気まぐれに翻弄されて、
時に喜び、時に腹を立てる私だが、
かく言う自分も相当気まぐれであることを痛感。
ハヤテの気まぐれは、今日も炸裂して、
会社に着いて、メッセが立ち上がった瞬間に
狙ったようにコメント攻撃が始まった。
昨夜、あれこれ話していた仕事の件で、何だか興奮しているのだ。
最初は専門用語が羅列していて、エンジニアではない私には
まったくもって理解不能…∑(゚Д゚;)
それでも、そんなハヤテの興奮状態を見ているのが好きなんだけど。
今回、彼がドタバタと騒ぎ出したのは、
男先輩がとある案件で彼に仕様書を丸投げしたことに始まる。
どうも、男先輩の方は資料を単に彼に投げただけで終わっていたし、
彼は彼で、ろくに確認しないまま、簡単だろうとたかをくくっていた。
双方の認識の甘さゆえのドタバタ劇なのだが、
彼の性格を知っているこちら側が先回りして、
簡単ではなさそうだということを伝える必要があった。
「そこまでやる必要があるのか」と言われればそれまでだが、
私と彼で組んで、いつも滞りなくプロジェクトが進行するのは
そうした「先回り」が重要なのだ。
男先輩は言う。「やっぱり、ミサトちゃんは珍獣(=彼)使いだね」
ハヤテがあまりにもドタバタと焦りつつ走っているのを見て、
「ごめんね、こちらの情報共有が足りなかった。ちょっと調整する」
「いや、こっちがちゃんと見なかったのが悪い・・・」
落ち込んでいるのを励ますのも、私の役回りだ。
「今度さ、おごるよ。お詫びに」 そう言うと
「いやいや、俺がおごるよ」と珍しく殊勝だ。
タカ君経由で私の体調不良を聞いたと、ハヤテがしつこく言い出して以来、
仕事のこともあって、以前のようにハヤテと会話する機会が増えた。
ところが、これに反比例するように、
今度はタカ君が私の目の前から消えつつある。
意識的なのか、無意識なのか、タカ君のログイン時間が減っている。
これまでの彼のログイン時間帯を考えると不自然なほどだ。
こうなると、今度はタカ君が心配になる。
とはいえ、こちらから話しかけたりすると、変に期待を持たせてしまう。
それはかえってむごいことだろう。
だから、極力動かないようにしている。
それでも、やっぱり気になってしまう。
結局私は、タカ君にもいい顔をしたいだけなのだろう。
この気まぐれが、結局、タカ君を、さらには自分を追い込むことになると
分かっているのに、都合のいい私は、己の気まぐれさを持て余している。
※今日から仮名を使用します。登場人物についてはこちらをご覧ください。
今日は何だか、久しぶりに気分がよろしい。
今日は久しぶりに、ハヤテと以前のようなトークが出来たからだろう。
そうそう、これなのだ。こうでなくちゃつまらないのだ。
会社に到着して、暑い暑いと騒いでいたら、
唐突にハヤテがメッセで「PCを電車に忘れた…」と一言。
えええええ!∑(゚Д゚;)と話しているうちに、
いつもの彼の珍騒動を聞かされて大爆笑。
当人はびびった、びびったと言っているが、
こうした他愛もない日常について話してくれるのは
一体どれくらいぶりであろうか。
今日はそれだけで気分がよく、一日中、ハイテンションであった。
ところで、先週、新たな男が私の人生に登場した。
登場人物のエントリーにも記載したが、タイシという男である。
仕事で知り合い、近頃、毎日のように顔を合わせているのだが
このタイシ、ちょっとだけ中身がハヤテに似ていて
相当のハプニング男で私を翻弄する。
会うたびに、「ミサトさんはいいよね~」「素敵だな~」と危ない。
タカ君(年下の彼)のこともあるので、早々に手を打っておこうと
「猛烈に好きな人がいて、その人に夢中だ」と布石を打ったのだが
今日も仕事の件でSkypeで話していたら、
「明日会えないの?ミサトさんに会いたい」と言い出す始末…('A`)
「どうせ会うでしょう、○○の会場で」と冷たく突き放した。
このタイシも困ったことにAB型で、mixiの日記に
「最近は困ったAB型ばかりに会う。磁場がおかしい」と
何の気なしに投稿したら、夜になってハヤテがいきなり
「AB型でなんかあったかい?」とまた話しかけてきた。
一体どうしたというのだー!今日は2回も話しかけてきて!
ちょっとだけタイシの話をすると、「ふーん」とそっけない。
ま、いいんだけど。その後、また30分ほど仕事の話や
他愛もない話をして、流れ星は消えていった。
今日はタカ君がオンラインではなく、心もグラつくことなく
精神衛生上大変よろしい一日であった。
さ~て、ハヤテの気まぐれは、明日も私に降ってくるだろうか。
年下の彼に告白されて以来、何をしていても
思い浮かべるのは彼のこと。
これまでの彼との日々を思い出しては、涙をこらえる。
溢れそうな想いと涙を、ただただじっとこらえる。
そうやって無理をするほどに、どんどん体が悲鳴を上げだして
微熱生活からなかなか抜け出せない。
そんな苦悩を彼に言えるはずもなく、
彼とのメッセでは、必要以上に明るく振舞う自分がいる。
今日はちょっとしたイベントがあって、朝から年下の彼からメールが入る。
体調は大丈夫かとしきりに心配している。
今日のイベントに、もしかしたら、彼も来るかもと淡い期待を寄せるが
メンバーを確認したら、その中に彼の名前はなかった。
それが分かった途端に、急にモチベーションが下がり、熱も上がる。
年下の彼のはしゃぎようを見ると、帰りたい気分になる。
イベント前。メッセで彼の名前を見つけた。
思わず、話しかけずにはいられなくなり、
「今日は来ないんだってね、残念」と投げた。
「うん、今日は若いもんに任せた」と彼。
「そっか」と私。これだけの会話で泣きそうになる。
それでメッセージのやりとりが終わるかと思いきや、彼が言い出した。
「○○君(=年下の彼)から聞いたんだけどさ、体調悪いんだって?」
「○○君に聞いたんだけどね」
「そうそう、○○君に聞いたんだよ」と連続投稿。
「あのさ、○○君というのを強調しているのが嫌な感じ」と返すと
しばらく書き込んでは消すのを繰り返した後、結局、すっとぼけて
「○○(=年下の彼の上司で、彼の友人)に聞いてもよかったんだけど」と
何だか意味不明の言葉ではぐらかされてしまった。
一体、どうして、彼と年下の彼が、私の体調不良について
情報共有をしたのかが理解できない。
年下の彼がわざわざ彼に言うとも思えないし、
彼と年下の彼が頻繁に話しているわけでもないし…謎。
ただ、彼は何だかいつも、年下の彼のことになると異常反応する。
「○○君には優しいよね」とか「○○君のそばにいけば?」とか…。
知ってか知らずか、彼のノーテンキさに心がどよんと重くなる。
何だかな~、彼の真意をつかみとれないまま、
彼と同じ年の会社の先輩に愚痴をこぼすと
「そんなの○○さん(=彼)の嫉妬に決まっているじゃん」と一言。
「ええ?そうなんですか?何だか、すごく感じ悪かったんですけど」と返すと
「そりゃそうだよ、嫉妬だもん。○○君から聞いたのが気に食わなかったんだよ」
「きっと、ミサトちゃんのことは何でも知っておきたいんだよ、○○さんは。
だけど、それを○○君から聞くのは嫌なんだよ。嫉妬、嫉妬。」
先輩はそう笑って一蹴した。
本当にそうかなぁ。単に冷やかしているのかもしれないのだ。
私が年下の彼がお気に入りで、どうやら体調不良を告げているという事実を
単に冷やかしているだけなのかもしれないのだ。
彼特有のやり方で。子供のように…。
嫉妬なら嬉しいけれど、本当にそうなのか微妙なのだ。
熱が下がらず、今日も会社を休んだ。
とはいえ、やらねばならないこともあり、自宅でPCに向かっている。
年下の彼に告白されて以来、ずっとメッセにログインしていない。
「避けている」と思われるのもなんだし、
かといって、「熱が出た」というといらん心配を掛けるだろうし、
ためらって、連絡をとらずにいた。
仕事の件で、久々にログインして、会社の先輩と仕事の話をしていたら
年下の彼が一瞬だけログインして、消えた。
もしや、気に病んでいるのでは?と心配になり、メールした。
そうしたら、熱を心配して「電話してもいい?」と返事がきた。
それには触れずに返信したら、電話が掛かってきた。
何だか甘ったるい。
体が弱っていると、年下の彼への甘え心がまた芽生えてしまって
自分の都合のよさに呆れてしまいながらも、その甘さに身を委ねる。
「元気ないっすね」と年下の彼。
「うん。元気そうだね」と私。
「元気ないっすよ」と苦笑する年下の彼。
「なんで?」と私。
「それをミサトさんが聞くかなぁ」と笑う年下の彼。
「電話して声聞きたかったから嬉しいですよ」と言うので
「こんなに変な声を聞きたかったなんて物好きだね」と返す。
「長電話だと体によくないだろうから、切りますね」
優しさに触れて、少し心が揺れる。
PCに気持ちを戻すと、メッセに彼がログインしていた。
仕事の件で確認せねばならないことがあった。
「○○の件、大丈夫?」と声を掛けた。返事はないだろうと思っていたら
「大丈夫。明日までには何とかなると思う」と彼。
「何か手伝うことは?」
「大丈夫」
そうか、ならいいやと思って、別のことをしようと思った瞬間、
彼が「そうだな~」と言い出した。
「○○(=私の住んでいる場所)で飲み会くらいかな」と彼。
「わざわざ○○まで来るというなら、飲み会くらいいくらでも」と応えると
「おお!じゃ、車で行こう。△△(=愛犬の名前)と散歩するぞー」と彼。
今日は何だかご機嫌の様子。
本当に○○まで車でやってきた年下の彼。
行くぞと言いながら、結局来ないだろう彼。
愛犬と3人で散歩できたら素敵なのにな、と夢見る私。
約束を、本当の約束して形にしない私たちは、
本当に不思議な関係だ。
昨日、年下の彼に誘われて、断りきれず会った。
その大半はファミレスでだらだらと話をし、
核心に触れないように自分なりに配慮していた。
だが、最後になって、話があるんですと言われ避けきれず
結局、年下の彼に告白された。
「先月、すごく弱ってましたよね。
で、頼られたのが凄く嬉しかったんです。
信じてもらえないと思うけど、ミサトさんのことが好きです。
生まれて初めて苦しくなって、
ご飯も食べられなくて、仕事も手につかなかった。
こんな風には一生ならないと思っていたのに
自分でも驚いているんです。
会ってみて、この気持ちが本当かどうか確かめようと思った。
で、会ってみて、本当だと分かったんです。
初めて、気持ちを伝えたいという気持ちになったんです。」
それはとてもストレートで、純粋な告白だった。
だから、素直に応えるべきだと思って、
「先月弱っていたのは、私にも同じように苦しいほど
好きな人がいるの。片思いなんだ。
ちょっとした一言で、先月私は自分でも驚くほどバランスを崩して
思い切り取り乱してしまったの。そして、○○君(年下の彼)に
悪いなと思いながら甘えてしまった。本当にごめんなさい。」
「そうですか。好きな人いるんですか。告白したんですか?」
「いや、多分、これからもしないと思う」
「なんでですか?」
「怖いから」
「怖いですよね。僕も振られるだろうと思うと、すごく不安だった。
でも、それでも言わずにはいられなかったんです。
一度、ちゃんと考えてもらえませんか?付き合ってほしいんです」
「好きな人がいるのに?」
「うん。一度考えてもらいたいんです」
分かった…としか言えなかった。
途中で眩暈がするな、と思っていたら、翌日、発熱した。
彼が好きで好きで仕方ない。
年下の彼は、私が彼を想うように私を想っている。
悲しいほどに、その苦しさが私には分かる。
だから、どうしても、冷たく突き放すことができない。
もしも、年下の彼と付き合ったりしたら…
彼はなんと思うだろう。
もしも、彼に「おめでとう、幸せにね」なんて言われたら
私は自分が崩壊してしまう気がする。
でも、彼に届かない。どうしても届かない。
好きだと言ったら、それは私たちの関係を破壊することを意味する。
そんな気がしてならない。怖くて私はまた身動きがとれない。
年下の彼は好きだ。
だが、彼への想いとは、桁違いなのだ。
熱が下がらない。
今週は久しぶりに、彼と2回も顔を合わせることができた。
火曜日は暑気払いで、今日はMTG。
結局、彼のことが大好きなのだなぁ、と思い知るとともに
やっぱり届きそうもないなぁ、と小さい絶望も抱え込んだ。
そんな1週間だった。
暑気払いでは、店に入ってくるなり彼が唐突に
「今日、おごりだよね?」と人なつっこい笑顔で話しかけてきた。
「ええぇぇ!」と応えると、「だってぇ~」と甘えてくる。
実は何度もおごってくれていたから、お礼するよとは言っていたのだ。
「仕方ないなぁ、おごってやるよ」と言うと、満面の笑みで
「やった!」と誇らしげ。まるで子供だ。
この宴には年下の彼もやってきた。
私と彼のやりとりを、少しだけ目を丸く