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2008年8月

時間

なんだか、いろいろあった先週だった。

あの日の翌日、結局、仕事で夜は会えないという犀川君が
「夜会うのは明日にして、今日の昼にコーヒーでも飲みませんか」と
誘われた。「いいよ」と返事をしたけれど、やっぱり緊張は解けない。

同僚とランチした後、会社を抜け出して、犀川君が待つ喫茶店へ行った。
「早めに着いたので、店の奥の席にいます」とメールが入った。
店のドアを開ける手が少しだけ震える。やっぱり相当緊張している。
さんざん、恥ずかしくなるような、甘いささやきを
ずっとメールでは交わしてきた相手に直に会うのだ。
どんな顔をして会えばいいのだろう。
そんなことはまるでなかったような顔をすればいいのか
言葉の余韻が残ったような顔をすればいいのか
だけど、どれもどんな表情ならそれを表しているのか
私にはさっぱり分からなかった。
店に入って、店内を見回す。犀川君らしい人は見当たらない。
曇りガラスの仕切りに、人影があった。
きっとあれが犀川君だ、と思った。
ドキドキと外にも聞こえそうな鼓動のまま、近寄ってのぞくと、いた。
「こんにちは」と切り出した。ぎこちない笑顔をしているのが分かった。
本を読んでいた犀川君が顔をあげる。私を見て、まぶしそうに笑った。

ぎこちなさは、結局、ずっと続いた。
何を話しても、嘘っぽい気がした。
それでも、はやるように、どうでもいい言葉ばかりが口をついて出る。
犀川君は、おだやかな表情で、聞いている。
30分ほどコーヒーを飲みながら話して
「じゃ、そろそろ会社に戻るわ」と告げると、
「それじゃ、僕も会社に戻ります」と言う。
「どうする?私、先に帰ろうか?」と聞くと
「いや、いいですよ」と曖昧な表情をした。
また鼓動が大きくなる。二人で歩いている所を会社の人が見たら
一体どう思うだろう。単に、近くで偶然会って、会社まで一緒に
歩いている、と見るのが自然だろう。誰も二人の中を
勘ぐったりしない。そう、それほど年が離れているし…。

店を出て歩き出すと、隣に犀川君がいない。
振り返ると、遠くを見ながら、物悲しいような顔をして
ゆっくりとした速度で歩いている。
やっぱり、一緒に歩きたくないのかな、と思ったので
「やっぱり先に戻るよ」と言うと
「いや、いいですよ」と、無表情な顔で言う。
「そう…」と応えて前を見て歩く。
相変わらず私の速度は、犀川君の歩みよりもはるかに速い。
合わせるべきか、このままの速度で行くべきか。
時々、振り返り、どうでもいい事を話しかけてみる。
犀川君は、店の中にいた時よりも、つまらなそうな顔をしている。
何だか、やりきれない気持ちになって泣きそうになる。
だから、先に帰ろうかって言ったのに…。
相手の意向など聞かずに、さっさと帰ってくればよかった。
そう思った時、後ろから声がした。
「僕、郵便局に寄ってから戻ります」
私を見ないで犀川君が言った。
なんだ、やっぱり、一緒に戻りたくなかったんじゃないの。
だけど、「分かった、じゃあね」と精一杯に微笑んで背中を向けた。
背中を向けた瞬間、泣きそうな顔になっていたと思う。
早足で会社に一人戻った。

戻った後の私は完全に情緒不安定に陥っていた。
さすがに職場の女の先輩が「なんかあった?」と聞いてきた。
「いや、平気ですよ」と応えたが、夕方、先輩が外でミーティング
しようと言って、喫茶店に私を連れて行ってくれた。

「それはミサトちゃんの緊張が相手に伝染したんだよ」
先輩はそう笑った。「緊張してたに決まっているじゃん」と。
「いい子だよ、犀川君は。惚れる価値あると思うよ。
そりゃ、○○さん(ハヤテ)とは全然違うタイプだけど、
違うよさが十分にある。何よりもミサトちゃんに誠実だと思うよ」
そうだろうと思う。だけど…
「だけど、犀川君の気持ち確かめたわけでもないし…」
「そんなの、好きだって分かるじゃん!」と先輩は笑う。
「おかしいじゃん、メールを頻繁に交換して、仕事の用件もないのに
わざわざ外で二人で会うなんて、何の感情もないのにするか?」
そうだろうと思う。だけど…私は口ほどに自分に自信がない。
あんなに年下で、好青年の犀川君が
どうして私なんかを好きになるだろうか。
冷静に考えれば、そんな事はあり得るはずがない、と思えるのだ。

犀川君から、「さっきはありがとうございました」とメールが来た。
私は何だか悲しくて、メールができなかったけれど
犀川君は、別れ際のあの表情なんてまるでなかったように
さわやかにメールを送ってきた。「嬉しかったです」と。
嬉しかった? 嬉しかった?本当に? そんなはずはない。
そんな顔してなかったじゃない。いたたまれない顔をしてたじゃない。
素直に聞いてみようか。お世辞なんて言わなくていいと言おうか。

「帰り道、とても物悲しい顔をしていたので、寂しくなりました」と
素直に言ってみることにしよう。いつもみたいにごまかすのをやめよう。
そう思って、勇気を出して、そう伝えた。
「ごめんなさい。緊張したし、どんな顔をして隣を歩けばいいのか、
分からなかっただけです。寂しくさせたのなら、ごめんなさい」
犀川君からは、こんな返事がきた。
先輩の言っていた通りだった。

夜、元彼のミツ君から、本当に本当に久しぶりにメールがあった。
サザンのライブを見たら、急に話がしたくなりました、と。
ミツ君はサザンが大好き。ミツ君と付き合っていた時代、
影響を受けて、私もよく聴いていた。
ちょうどテレビ中継を家で見ていた。
断るのも過剰反応かと思って、いいですよと返事した。

翌日、犀川君と夜、飲みに行った。思えば、これは初デートってことか。
シングルモルトウイスキーのおいている店に行った。
私がマッカランを飲みたかったのだ。
思い出のマッカランを飲んで、私は今夜、タバコを復活させる。
ハヤテとの思い出を清算するつもりだった。

犀川君は、無口だ。あまりしゃべらない。
しゃべっても、時々、途中で言葉を吞み込んでしまう。
「ほら、言って楽になれ!」と冗談めかして言うと、
照れながら笑って、それから、選ぶようにして言葉を紡ぐ。
時々、すねたような顔をして。
時々、照れたような顔をして。
そんな顔をして、こちらをじっと見つめる。
シャイで言葉が少ないくせに、そんな時は目だけは逸らさない。
まっすぐな視線は、私の胸を苦しくさせる。
なぜか、慌てて、私は目を逸らしてしまう。

外は雨。屋根のあるテラス席にいた私たち。
私の話題が途切れると、二人の間には沈黙が流れる。
隣にいる犀川君を見たら、
黙って遠くを見るような顔をしてタバコを吸っていた。
無表情…。楽しいのか、つまらないのか、緊張なのか、
その表情からは読み取れない。
メールでは雄弁な彼も、目の前にいると寡黙だ。

緊張でマッカランとタバコしか口にできない。
食べ物を頼んだけれど、口に運べない。
もしも、隣にいるのがハヤテだったらどうだろう。
そもそも、沈黙なんてあり得ない。
きっと二人で掛け合い漫才状態になって
互いにもっと大いに酒をぐびぐび飲んで
さらに陽気になって、私は心の底から笑い声をあげていただろう。
ハヤテといると緊張なんてまるで無縁だ。
この世に緊張なんてものがあることすら、嘘のように思えるだろう。
ハヤテは陽だまり。ハヤテは私をいつも陽気にする。
お酒もご飯も大いに進み、二人はいつも笑ってる。
きっと、それは恋人という関係になっても変わらない自信がある。
犀川君が遠くを見ている間、
私はそんなことを思って、小さく笑った。犀川君は気づかないだろう。

最終電車の時間が近づいている。
店を後にして、駅まで二人で歩いた。
雨上がり。隣を歩く犀川君の顔を覗き込む。
「あれ、物悲しい顔じゃなくて、笑ってるね」
そういうと、犀川君は照れ笑いしながら言った。
「僕、そうやって突っ込んでもらった方がいいな」
ふと、手が触れる。でも握らない。
これが私たちの今の距離。
駅で「さよなら」と言って背中を向けた。
私は絶対に振り返らない。
背中を向けたら、顔から笑顔が消えた。
顔の筋肉が凝っていると思った。
そっか、無理して笑っていたのかもしれない。
本当に犀川君の事が好きなのか、分からなくなる。

帰り道、犀川君からお礼メールが入った。
「つまらなそうな顔をしてたかもしれないけど、僕は嬉しかった」
と犀川君は言う。黙って遠くを見ていた人とは思えない。
「黙って遠くを見ている犀川君を見て、一人でいるよりも
二人でいる方が寂しいこともあるのかと思った」と返した。
ハヤテのことを思い出していたくせに、と自分でも思う。
ずるい女だと自分でも自覚している。
でも、寂しいと思ったのは嘘ではない。
寂しいと思ったから、私のココロは揺れたのだ。
そう言い訳をした。
すぐに返事がやってきて、犀川君はごめんなさいと謝っていた。
犀川君は店でも言っていた。
いつも、つまらない顔をしていると言われると。
そう思われているんだろうなと自覚しているけど
どんな顔をすればいいのか、子供の時から分からなくて、と。
でも、僕、今、すごく幸せなんですよ、と。
とてもとても、寂しそうな、それでいて熱い目をして。
何だか、それを思い出したら、かわいそうになった。
いじわるなのは、私の方だったかもしれない。
「今度、黙って遠くを見る時は、私の手を握ってね」と書いた。
私に掛けられる最大級の言葉。
すぐにまた返事がきた。
恥ずかしいと思うけど、手をつないでみますと。
そのまま、ずっとぼーっとしてようかな、と冗談も添えて。
そんな控え目な犀川君が愛おしく思えた。
やっぱり、このまま、犀川君と寄り添う努力をすべきだと思った。

翌朝、会議の予定があったので早めに出社した。
犀川君から再び、昨夜はありがとうござましたとメールが来た。
メールの中の犀川君は本当に素直で、ロマンチックだ。
「ミサトさんとのメールでは、不思議と素直に思っていることが言える」
のだそうだ。つられて、つい、自分もロマンチックな言葉を重ねてしまう。
そんな流れの中で、ふいに、文脈の中に、「好きになった」と書いた。
このまま送るかどうか、読み返して、しばし逡巡。
そう、私たちはまだ、「好き」という言葉は使っていない。
「嬉しい」とか「寂しい」とかの言葉はいっぱい重ねても
「好き」だけは敢えて避けてきた。
さて、どうしよう。でももう、言わない方が不自然に思える。
犀川君は遠慮している。
性格も奥手だし、慎重だし、年下だし…。
多分、私が言わなければ、犀川君は決して言葉にしないだろう。
機会を逃せば、私だって言えなくなってしまう。
早めにこの恋を終わらせるならば、それも一つの選択だ。
傷つかずに、そっと、何事のなかったかのように消すことができる。
でも、そんな向き合い方でいいのだろうか。
これでは、いつもみたいに、逃げることが前提の恋になってしまう。
そんなんじゃ、私はいつまで経っても、
この場から飛び立つことができない。
覚悟を決めて、送信ボタンを押した。
さよなら、ハヤテ。そうココロの中でつぶやきながら。

犀川君の返事は、別に「好き」を特別扱いしていなかった。
「好き」なんて言葉を使わなくても、当たり前だという風だった。
ちょっと拍子抜けだ。こんなに覚悟して送った言葉なのに。
昔々好きだった人に言われたことがある。
「『好き』って言葉を軽々しく言うな!」と。
「お前は『好き』を軽々しく使う。『好き』って言葉はもっと重い。
もっと大切に使わなくちゃいけないんだ」。そう怒られた。
だから、私はあれから、その言葉を忠実に守ってきた。
軽々しく言ったわけじゃない。覚悟のうえの「好き」だった。
だから、確認したくなった。
「好きだ言ったのは初めてなんだよ」と。
そうしたら、「僕も好きですよ」と返ってきた。
「犀川君、私のこと、好きなんだ」ともう一度確認した。
だって、大事なことだもの。軽々しくない言葉だから。
「あれ、言わなかったですっけ」と照れていた。
「こういう事は、何度言ってもいいんですう!」と返した。
やっぱり照れていたけれど、それでも犀川君は言ってくれた。
「好きですよ。旅に行く前から、僕はずっと好きでした」と。
そうだったのか…。私よりも先に、彼は自覚していたようだ。
どうやら、鈍感なのは私の方らしい。

夜、ミツ君から電話があった。
仕事が入ってしまったので、軽く夕飯を食べに行こうと。
少し気が楽になった。
実は犀川君は、ミツ君のお気に入りの後輩なのだ。
犀川君には内緒で、ミツ君の待つ店に言った。

こうして店で二人、向き合って酒を飲むのは何年ぶりだろう。
それでも、長い付き合いだったから、
それにもう、別れてから長い時間が流れたから
今更緊張もなければ、特別な感情のない。
ただただ、懐かしい。ただそれだけだ。
いきなり、サザンのライブの感想を聞かれた。
感動して最後はちょっと泣けた、と、表面的な感想を言った。
すると、ミツ君は「ふ〜ん、そっか」と言って、遠くを見た。
「どうしたの?」と聞くと、
「すっかり合わなくなったね」と、寂しそうに笑った。
「俺はさ、正直、最後は冷めちゃったよ」と彼は言った。
彼は冷めてしまった理由を語り出した。
熱烈なファンゆえの理由だった。
思えば私は、あなたと別れた後、サザンは殆ど聴いていない。
ただ、ライブを見ていて、桑田の老いを痛烈に感じ、
えも言われぬ無常観というか、哀愁を感じていた。
だけど、感想を問われて、私はそれを口にしなかった。
表面的な感想を並べたのは、
もう二人が本音で何でも語るような関係ではなくなったことを
意味していたのかもしれない。
私は無意識にも、ミツ君にココロの奥を語ろうとはしてなかった。
ミツ君の感想を聞くうちに、
そっか、私はもう彼に本音は見せまいとしていたのだ、と悟った。
きっと、ミツ君もそれが分かったのだろう。
だから、「合わなくなったね」と言ったのだ。
あんなに愛していたのに、時の流れは残酷だ。
最後に、「互いに老けたよねえ」と言い合って、力なく笑い合った。

その夜、久しぶりにタイシが、Skypeで話しかけてきた。
近頃、一緒に仕事をする機会もないので、すっかりご無沙汰だ。
「お元気ですか」と近況を報告していたら、
いきなり、「どうしてもミサトさんに会いたい」と言い出した。
はあ?と思って、そのまま「何言っているんですか」と聞いたが
会いたいの一点張りだ。困ったなあ。
仕方がないので、来週、時間を作ると約束した。
新しい仕事の話もあったので、いい機会だと思うことにした。

それにしても、なんだろう。
入れ替わり立ち替わり、いろんな男たちが会いたいと言ってくる。
だけど、ハヤテはあれ以来、音沙汰なしだ。
一番、強引に誘ってほしい人が、いつもどこかへ消えてしまう…。

さらに、その後。
今度は女の先輩がSkypeで話しかけてきたので、しばし仕事の話。
流れで、「その後、どう?」と聞かれたので、素直に報告した。
先輩は、私の3年におよぶ片思いを、ずっとそばで見守り、励まして
くれた人だ。私の苦悩をよく知っている。そして今、犀川君の登場を
喜ばしいことだと言ってくれ、応援をしてくれている。
そんな先輩だから、本音がぽろぽろ出てくる。
自分すら意識してなかったような、本音たちが。

犀川君とは順調です。犀川君は好きだと言ってくれました。
私も好きだと告げました。とても優しいし、幸せです。
でも、時々、犀川君に言っている言葉たちは、本当はハヤテに
言いたかった言葉たちなんじゃないかと思えるんです。
言いたくても、ずっと言えなかった言葉たち。
だから時々、とても後ろめたくなるんです。
もしかしたら、犀川君への思いは、偽りなんじゃないかと。
ハヤテはやっぱり、私の運命の人です。
それだけは、たとえ犀川君と付き合っていても変わらない。
ハヤテはどう思うだろう。
ハヤテにはまだ言ってないんです。
喜んでくれるかどうか心配です。
ハヤテが傷つくんじゃないかと思うと心配です。
うまく言えないけど、ハヤテが傷つくような気がするんです。
そりゃハヤテは私のことなんか好きじゃないです。
だけど、なぜかしら、傷つくと思うんです。
ハヤテだけは傷つけたくないのに。

そういうと、先輩は、人は業が深い物だし、二人を比べるなんて
できないと言う。ハヤテが運命な人だというのも、よく分かると。
でも、ハヤテを諦めるために、犀川君に走ったようには見えないと。
犀川君は全然違う魅力がある。そこにミサトちゃんは惹かれている。
それでいいじゃないかという。無理に忘れるなんて無理なんだからと。
先輩は結婚して子供もいる。とても幸せな家庭。
だけど、好きな人がいる。彼は、先輩の運命の人に似ているらしい。
今でも、運命の人は私の心の支えだよ、と言っていた。
みんな、そういうものを心に抱えているんだから
自分だけ責めちゃ駄目だよ、と励ましてくれた。

どうして、運命の人とは結ばれないんでしょうか。
どうして、一番好きな人が手に入らないんでしょうか。

先輩は言う。でも、思い出はなくらない、と。
ミサトちゃんは、ハヤテとは、いわば戦友でこれからも続く。
ミサトちゃんは、ハヤテを失わない、と。

犀川君が好きだ。その気持ちに偽りはない。
だけど、運命の人は、間違いなくハヤテだ。
あんな人は二度と現れない。
だから、私の人生から、消えてしまいませんように。
戦友でいいから、ずっと消えませんように。
彼が消えないなら、私は安心して恋ができる、多分。

犀川君は相変わらず優しい。
ハヤテは相変わらず流れ星。
二人の優しさは全然形が違う。

ハヤテと約束した禁煙を破って、今日は雨の中、タバコを買いに行った。
夜の帳が落ちた街の中を、傘をさして一人ゆく。
雨あしが強いから、足下も腕もびしょぬれだ。
何だか、心細くなって泣きたくなる。
タバコの自動販売機にお金を入れたら、タスポをかざせと点滅している。
ハヤテと約束した3カ月前、まだタスポは導入されていなかった。
自販機の前で、時の流れを実感した。
知らず知らずのうちに時は流れ、いろんな事が変わっている。
自販機も、そして私も。

犀川君がメールをくれたので、3カ月前は好きになるなんて
思いもしなかったと書いて送った。
僕も思わなかったけど、3カ月後も好きでいてくれたら嬉しいと返事があった。
3カ月もすれば、もう外はすっかり冬だ。
3カ月後も好きでいてくれたら、一緒に雪を見に行こうと書いた。
犀川君からは、雪を見ながら、手をつなぎましょうと返ってきた。

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約束

くぅーーーーっ!
つ、つ、ついに…明日か明後日か、犀川君と二人で会うことになりそう。
くぅーーーーっ!嬉しいけど、ド緊張だ…わなわな
どうしよう、こんなにテンパったのはいつぶりだ? やばいやばい
まあ、ある意味、私が背中押しちゃったんだけど。

夕方から上司と「一杯だけね」と言いながら飲みに行った。
珍しく有言実行で、お開きの時間が早かった。
ちょっとお酒が入って、ちょっと小雨が降っているから切なくて
つい犀川君に「会いたくなっちゃったよ〜」と書いたメールを送った。
そしたら、「じゃあ、会いますか。でも、もう帰り道か…」と返事がきた。
もう帰りの電車の中だったので、一瞬、次の駅で降りようかとためらった。
でも、何だか今日の服装が気に食わなかったし、
化粧もきちんと直したかったし、
心の準備できてないし…なんていろんな理由をつけて
結局は「なんだ、残念。もっと早くに言えばよかった」と返事した。
そうしたら、犀川君は「じゃあ、今週中に会いたいですね」と言い出した。
だから、素直に「いつでもいいですよ」と返したら、
「もっと早くに約束すればよかったですね。遠慮してました。
照れくさかったのもあるか(笑)」と返ってきた。

なんだ、互いに、照れくさいうえに遠慮して、
なかなか切り出せずにいたんだわ。

しかし、とても会いたいような、緊張しちゃって避けたいような…
まるで中学生のよう。(今なら中学生の方が落ち着いているか…)
何を着ていこう。変に着飾れば同僚がおかしいと騒ぎ出しそうだし
だからといって、やっぱり、ちょっとくらいはめかしこみたいような。
こんなに、普通の女の子っぽい感覚、久しぶり(笑)
どうしよう…胸がドキドキする。

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夢幻

早朝、犀川君から「おはようございます」メール。
彼のおはようで目覚める朝は、とても折り目正しく清々しい。
「昨夜は寝ちゃいました」と詫びていた。
通勤時間中、ずっと犀川君とメール交換。
会社につくと、犀川君はしばらく会社近くの喫茶店で仕事をするという。
「邪魔したらいけないから、またね」とメールすると
「邪魔じゃないです。嬉しいですよ」と言う。
だから結局、仕事の合間をぬって、何度も何度もメール交換した。

昼過ぎ、ハヤテが急にSkypeで話しかけてきた。
「牡蠣を食いに行こう。来月の第1週か第2週がいい」
珍しく具体的だ。そういえば以前にそんな約束してたっけ。
「仕事で頼みたいこともあるんだ」と言う。
あれこれくだらないけど、笑っちゃうネタもいっぱい投げつけてくる。
くくく…!と、こんなに心の底から笑えるのはハヤテだから。
ねえ、ハヤテ。ずっと言ってたでしょ、早く誰か見つけろって。
のろけてみせてよ、って言ってたでしょ。
mixiの日記にそれっぽいことを書き込んだ。
きっとハヤテは読んでいる。
だから、こんなに投げかけが具体的で半ば強引なのだ。
いつだって、ハヤテは
何もない時は、早くどこかへ行ってしまえと言うのに
少しでも飛んでいきそうな気配を感じると
すぐさま、私を縛ろうとする。
きっと無意識な行動だから、彼もどうする事もできないね。
ねえ、見つけたよ。
ハヤテと牡蠣は食べに行く。
でも、それはこれまで通り、友達として。
これから先も、私たちは友達として牡蠣を食べに行くだろう。
それで、いいんだよね。

その後、犀川君から来たメールには
「今度、一緒に昼飯食べにいきましょう」と珍しく誘ってきた。
さらに夕方きたメールんは
「同じビルにいるのに全然会えないですね。
 今度ゆっくり晩ご飯でも食べに行きましょう」とあった。
これまた珍しく誘っている。奥手でシャイな犀川君が!
「晩ご飯賛成。でも、ふいに会ったら照れくさくて赤面すると思う」
そう伝えると、「僕は無愛想必至です(笑)。目が泳いでいたら
照れているだけなので、気を悪くしないでください」と返事がきた。
そっか、犀川君も照れ隠しなのか!
でも…照れ隠しって…ただの同僚に抱く感情だろうか??
やっぱ違うよねえ…。

でも、まあ、頻繁にメールをやりとりするようになって2週間。
その間、互いに夏休みもあって一度も顔を合わせていない。
とても親密になって互いの距離は近づいたけれど、
顔を合わせていないだけに、どこか夢幻のよう。
きっと、はっきりさせるにも、近く会わないと、と思う。
きっと、慎重派の犀川君もそうだろう。
そこでもし、違うと感じたら、何もなかったように振る舞えばいい。

ただ、いずれにしても、犀川君はあったかい。
珍しく、甘え放題。

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我慢、できない

翌日の昼まで待ったが、犀川君からメールはなかった。
まあ、順番から言えば、犀川君からのメールで終わっている訳だから
私から返事をする番なのだが…でもでも。
でも、我慢限界。もう気が狂いそう。
何度の何度も携帯を見ては、メールを受信していやしないか確認する始末。
メールがない度にため息を繰り返し、イライラは頂点に達した。
もう駄目。もう我慢できない。仕方ない、こちらからメールしよう。

我慢していたがもう限界だと、そのまま送ると
「え?我慢していたんですか?どうして?」と犀川君。
「だってうざいと思ったんだもん」と私。
「そんな事全然ないですよ。嬉しいに決まっているじゃないですか」と犀川君。
「我慢なんてしなくていいですよ」と言ってくれ、
我慢している自分が、何とも子供じみて見えた…orz。

その後は、頻繁にメールをやりとりして…
ようやく夕方になって、気分が落ち着いてきた。
抑えようにも、犀川君への感情が爆発してしまう。
これまで、ずっと抑圧の恋をしてきたせいだろうか。
まっすぐに、素のココロを犀川君にはぶつけてしまう。
いけないいけないと思っても、コントロールできない。
「感情が表にできないで、つまらない顔しているより全然いいですよ」
犀川君はそう言ってくれるけれど…。

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空振り

犀川君から早朝、ブルートレインの中からメールがあった。
旅情と哀愁が漂う、ちょっと悲しげなメール。
あと少しで、彼の住む街に着くという。
無事に帰ってきてくれて嬉しいと伝えると、
そう言ってもらえるなんて本当に嬉しいと返事があった。
午後から出社するというので、
私は午後から社外の会議に出席のためいない旨を伝えると
「いってらっしゃい」と見送ってくれるメールが届いた。

そして、私はハヤテのいる会社に向かった。
彼と会うのはかれこれ1カ月以上ぶり。
やっぱり心は揺れてしまうと覚悟していた。
ところが、思いのほか、心が揺れない。
ハヤテは、会うなり、心配そうに「大丈夫か」と
私の体調を気遣ってくれたり、あれこれ話しかけてきたが
もう熱を帯びた視線でハヤテを見ている自分はいなかった。
むしろ、犀川君からメールは来てないだろうか…と
携帯のメール着信ばかり気になってきた。
犀川君への想いはハヤテへのそれを超えてしまった。

その夜、会社の同僚と飲みに行った。
盛り上がって久しぶりに朝まで飲んだ。
犀川君にメールの返事を書いてなかったことが気になって
途中、深夜にもかかわらずメールした。
返事はなかった。きっと旅の疲れもあって寝ているんだろう。

早朝、家に帰る途中、犀川君からメールがあった。
案の定、「昨夜は10時には寝ちゃいました。
返事したかったな。体調は大丈夫ですか」と犀川君。
それから何通かやりとして、家に着いたのでもう寝ると伝えると
「起きて寂しかったらメールください」と言ってくれた。
そして午後。雨音で目が覚めた。
夢に犀川君が出てきた。
二人でバスに揺られていた。
犀川君を思うと切なかった。
「胸が苦しい」と素直に書いてメールした。
「お酒の飲み過ぎですか?」と犀川君から返事がきた。
…違うだろ、流れ的に…orz
「夢に君が出てきて切なくなったという意味だよ」と返すと
「そういう意味か(笑)。うれしいです。そういう気持ち
分かります」と返事があった。
うれしいです、か…。
そういう気持ち、分かります、か…。
なんか、素っ気なくないか?
なんか、他人事みたいじゃないか?
なんか、空振りしてないか、自分?
なんか、かみ合ってなくないか?
なんか、なんか、なんか…。

「気持ちを切り替えるために風呂に入る。お邪魔しました」と
返事をしたら、「今日はゆっくり休んでくださいね」と返ってきた。
なんか、どうでもいい感じだよね…。

むしゃくしゃする。
むしゃくしゃする。
むしゃくしゃして、ぱーっとオーブンレンジを衝動買い。
パン作りに没頭して忘れようと思っても忘れられない。
返事は書かないぞ。
「気持ちを切り替える」んだから。
すがったりしないぞ。だから返事は書かない。
なのに、犀川君からのメールも来ない。
そして日付が変わった。
メールの着信音は一向にならない。
このまま、終わってしまうのだろうか。

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最後の願い

夏バテなのか、持病がたまたま出たのか、異の激痛に襲われて
夏休み明けにまた連日病欠した。痛みに耐えている中、
犀川君から何度も何度もメールが届く。
犀川君は私と入れ替えに夏休みに入り、旅に出ていた。
旅先から、こまめにメールをくれたのだ。
結局、あれからどんどんメールをやりとりする速度が速まって
一日に6回も7回も、もう何度やり取りしたか忘れちゃうほど
メールで言葉を重ね、心を重ねてきた。
すっかりもう、犀川君との交流は私の日常の一部となり
いまや、犀川君がいない日常は考えられない。
言葉は相変わらず、核心の周辺を埋めるような甘い言葉の応酬で
きっといつかは逃れきれないことを互いに予感しながら
切なさの加速に応じて、メールをせっせと交換する。
そのもどかしいほどの速度こそが、想いを高めている。

そんな中、久しぶりにオンラインになったら
ハヤテが「だいじょうぶかーーーーー!!」と声を掛けてきた。
どうやら上司から私が寝込んでいることを聞いたらしい。
私が犀川君とこんなに親密になりつつあることをハヤテは知らない。
少しずつ心が離れているなんて夢にも思わないだろう。

明日、久しぶりにハヤテに会う。
かれこれ1カ月以上見てない。
この1カ月は劇的な変化だった。
ほんの2週間ほど前までは、まさかハヤテ以外の人に
夢中になるなんて、私だって思いもしなかった。
明日、ハヤテの顔を見たら、私はどんな風に思うだろう。
「ああ、やっぱり好きなのはハヤテ」と思うのだろうか。
それとも、「ああ、やっぱ終わったな」と思えるだろうか。
もし、そう思ったら、敏感なハヤテは変化に気づくだろう。
その時、私たちはどうなるんだろう。
変わらずに、親友になれますように。
最後の願いは、ただそれだけ。

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大切な人

まだお互い、どこまで近づいていいものなのか手探り状態。
だから、核心の周辺で、思いを託した間接的な言葉の応酬。
私も、そして犀川君も、加速するばかりの速度を止められない。
多分、互いにもっと近づきたくて、寄り添いたいと願っているのは
間違いない。だけど、お互いに臆病で、加速の中で、決定的な言葉を
意識的なのか、無意識なのかは分からないけど、避けている。

そんな中、犀川君が「ミサトさんは大切な人だ」と言ってくれた。
年も全然気にならないし、こうやって気持ちを共感できるだけで
得難いことだと言う。

メールを重ねているうちに、私たちは気づけば、心を重ねてしまっていた。
本当にいいのだろうか。これは真実なんだろうか。
私は本当に犀川君を愛している?
私は本当に犀川君を愛せる?

メールが来る度に、優しい言葉に触れる度にたまらなく嬉しいけれど
本当に愛せるのか、時々自信がなくなる。

ハヤテのことは、気づいたら、猛烈に愛していた。
それは今も変わらないし、これからも変わらない。
犀川君はどう? 努力しなきゃ駄目? いやいやもう好きよ。
でも、ハヤテの好きとはちょっと違う。
うん、違っていいんだ。違っていいんだ。

だた、私はちゃんと向き合いたい、犀川君と。
できるなら、きちんと向き合いたい。
逃げずにいられるだろうか。時々不安になる。
犀川君は強引に抱き止めてくれる人じゃない。
だから、私が自分で、きちんと寄り添う努力をしないといけない。
できるか?

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ココロの扉

犀川君とのメールのやりとりの間隔が短くなっている。
最初は、一日一通ずつの交換というペースだったのに
今日などは往復六通。
そして、ちょっとした「波紋」があった。

犀川君のやわらかで優しい雰囲気につい甘えて、
不用意にも、必要以上に心の扉を空けてしまった。
それは私が学生時代に負った、小さな傷。
今なお私の心に残る小さな棘。

誰かを好きになると、怖くなる。
その人が自分に対して好意を寄せてくれるとなお怖い。
その気持ちはいつか必ず変わる。
いつか必ず冷めてしまう。
「永遠なんてないんだよ」
私を根底から打ちのめした一言。
当たり前だと分かっているけれど、言ってほしくなかった。

この自己矛盾は重々承知している。
なんでこんな事を話してしまったのだろうか。
言わなくてもよかったのに。
でも、犀川君なりのあったかい返事がきた。
「僕も『自分の気持ちが絶対に変わらない』と言える自信、ないです。でも…」
ありがとう、でも、違うんだ。

自分のことを棚上げして、向き合いたくないの、気持ちの変化に。
都合がいいんだ、私。とてもズルいんだ、私。
犀川君のせいじゃない。せっかく真摯に受け止めて応えてくれたのに
私ったら、その返信に早くも向き合えずに逃げかけた。
一目散に、今、この場所から逃げたい…と願った。
ね、だからいつも、きちんと他人と向き合えないんだ。
だから、片思いしかできないんだ。

なのに犀川君は、逃げずにどんと構えていた。
「僕だって不安だし、どこまで自分を出していいのかなんて分からないですよ」
そう言って、また、あったかい空気で私を包む。
こんな私に寄り添ってくれようとしてくれる。
「うれしいですよ」と励ますように何度も繰り返しながら。

そろそろ、甘えてみてもいいのだろうか。
そろそろ、きちんと向き合ってみてもいいだろうか。
おそらく不慣れで、無様だろうけれど、
私ももう少し、寄り添う努力をしてみてもいいかもしれない。
こんな温かい気持ちに触れたのだから。

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当て逃げ

ポニョを見てきたよ、と犀川君にメールした。
ポニョを見たら、飲みながら語りましょうと犀川君が言っていたからだ。

雪国が好きだと犀川君に話した。
犀川君も雪国が好きだという。
雪の中を手をつないで、静かに雪の積もる音を聞いていたい。
明日にも冬が来てほしいと言った。
そうしたら、犀川君から
「そっか、手をつなぐとあったかいでしょうね。
冬、待ち遠しいです」と返事があった。
誰と手をつなぐんだろう。
誰とは書いてないけれど、
何だか、これまでの経緯を見れば、それって私?と思えなくもない。

嬉々として返事を書いていた夜中。
いつの間にやらオンラインになっていたハヤテが話かけてきた。
「ポニョ見たか」とハヤテ。
そうか、mixiの日記にも書いたんだった。見たんだな。
「うん、見た、最高、大好き」
ノーテンキに応えた。
そう、違う。大好きだけど、ハヤテに向かってはいけない。
終わるのだ。この機会に、ハヤテを諦めるのだ。
所詮、脈なしなのだ。
親友への道を歩むのだ。そう決めたのだ。

「ポチによろしくね」

ハヤテが言った…。
日記に、ポニョのことだけじゃなくて、
体調を崩した愛犬についても書いていた。
最悪の場合を覚悟するよう医者に暗に言われたことにも触れていた。

ハヤテには分かるのだ。
ポニョの話で浮かれているように見えても
実はポチの件で、かなり動揺してる私の気持ちが。

だからハヤテは妙に神妙だった。
神妙すぎて、逆にハヤテが元気ないのかと思い
「どうした?」と問えば、明るい答えがかえってきた。
これでもか、これでもか、と言わんばかりに
底抜けにアホで、底抜けにノーテンキな情報ばかり。

ありがとう、それがハヤテの優しさだと
私は気づいているからね。

でも、どうしてこのタイミングなの?
どうしていつも、諦める覚悟ができた時に限って
私のココロを揺さぶるような言動をとるわけ?
私のことなんて、どうでもいいくせに。
そうやってまた、「当て逃げ」して消えちゃうくせに。

犀川君への返事のテンポが少し狂った。


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ペルセウス座流星群

今宵、ペルセウス座流星群の活動が極限になるという。
空を見上げれば、無数の流れ星が舞い降りる。
なんてロマンチックな夜だろう。
隣に君がいなくとも、目を閉じればそこにいるのを感じながら
空を見上げたいと思い、犀川君にメールを書いた。

まだ仕事で会社にいた犀川君。
「今夜は上を向いて帰ります」とあった。
「僕も安心して「寂しいです」って言えます。」ともあった。

じんわり、じんわり。
犀川君の間合いの取り方はじんわりと温かい。
そっと包むように、そっとそこにいるような
真綿のような清らかさと、優しさで。

あいにく空は曇り空。
それでも、今の僕らには心に何か煌めきを感じてるはずだ。
その煌めきこそ、今宵の宝物。
煌めきよ、どうか流れて消えてしまわないで…。

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色あせる

あの後、犀川君からまた返事がきて、文末に
「というわけで、僕のほうも「思い切り気が向いている」ので返事
してみました。」とあった。ポーっ('▽'*)
やややや。やばいっしょ、その返事は!
誤解しちゃうよ、誤解していいの?誤解するよ、誤解しちゃうぞ。

不思議なのは、犀川君と私は、恥ずかしいーとか言いながらも
案外素直に、「寂しい」だとか「切ない」だとか「人恋しい」だとか
互いが互いに向かってなら、言えるのだ。
もちろん、他の人相手ではそんなことは口が裂けても言わない二人だ。
「不思議だな」と私が言えば、「不思議ですよね」と犀川君も言う。

スピッツの「不思議」という曲がある。
これが今の私たちにぴったり、合うような気がするのだ。

目と目で通じあえる 食べたい物とか
今好きな色は 緑色 雨上がり
絵になるスマイルが 僕に降りそそぐ
痛みを忘れた そよ風に だまされて

何なんだ? 恋のフシギ 生きた証
シャレたとこはまるで無いけれど
君で飛べる 君を飛ばす
はぐれ鳥追いかけていく

貝の中閉じこもる ことに命がけ
そんな日々が割れて まぶしかった 次の頁

ああベイビー!恋のフシギ さらにセットミーフリー
過ぎていったモロモロはもういいよ
わざとよける 不意にぶつかる
濡れた道を走っていく

何なんだ? 恋のフシギ 恋はブキミ
憧れてた場所じゃないけれど
君で飛べる 君を飛ばす
はぐれ鳥追いかけていく
恋のフシギ さらにセットミーフリー
過ぎていったモロモロはもういいよ
わざとよける 不意にぶつかる
濡れた道を走っていく


憧れていた場所(=ハヤテ)じゃなけいれど
過ぎていったモロモロはもういいよ
わざとよける、不意にぶつかる
君(=犀川君)で飛べる 君(=犀川君)を飛ばす
恋のフシギ さらにセットミーフリー

犀川君とメールを重ねるたびに
ハヤテとの日々がどんどん色あせてゆく

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気が向く

前回の犀川君からのメールで、嬉しい情報があったので、思わず返信に
「君はサイコーだ!」と書いて送った。
そうしたら、その返信に「そいつはうれしいぜ(笑)」とあった。
なんだろう、たったそれだけなのに、にんまり嬉しくなっちゃうのは。

久しぶりに親友に会いにいき、久しぶりに互いの近況報告。
「旅から帰ってきて以来、毎日、メール交換しているんだよね〜」と言うと
「そりゃあ、相手もまんざらじゃないという証拠でしょう」と言う。
そうなのかなぁ。そうだと嬉しいなぁ。

最新の返信には、「こちらこそ、お忙しい中、ありがとうございます。
メール、時間があって気が向いたときでいいですよ。」とあった。
思わず、「思いきり気が向いているから書いているのよ」と返信した。
さて、どういう反応がかえってくるだろうか。かわされちゃうかな(笑)

で、影響されやすい私は近頃、鉄道雑学の本を読み始めた。

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じんわり

24時間たってから犀川君から返事がきた。
メールの着信に気づいた時は、年甲斐もなく飛び上がって喜んだ。
すっかり年下の男にのぼせ上がっているではないか。いいのかなぁ…。

そして、今回のメールもまた、実に心地よい雰囲気に包まれていて
おまけにとても嬉しい一言がさりげなく添えられていたりする。
もちろん、そこに特別な感情が込められいるというわけでもないだろうが
それでも、なんだかじんわりしみる。

じんわりしみる…っていうのが犀川君の特長みたい。

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22時間

あのあと、ハヤテがまたメッセンジャーで話しかけてきて、
夜中の2時から、仕事をはじめてしまった。
相変わらず、強引に自分のペースに他人を巻き込むなぁ。
朝方になって、互いにヘロヘロになってきて
「もう限界。寝る。おつ」と言うと
「俺も限界。寝る。おつ」とハヤテ。
まったく、どこまでいっても、無茶できる親友という間柄。
これでいいのだ、これで。

そんなことよりも、犀川君から22時間も返事がこない。
もしかして、メール文通終わった?
まあ、いつかは終わりがくるけれど、なんだか寂しい。
犀川君はいま、何をして何を感じているのだろう。
犀川君は私をやっぱり思ってくれてないのかな。

ああ、苦しくて苦しくて食欲がだんだんとなくなってきた。
こんなことなら、新たに恋なんてするもんじゃなかった。
今ならやめられるだろうか…。

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スルー

ちょっと引っかかるところとか
ちょっと感動しちゃうところとか
それを表現する時に選ぶ言葉だとか
そんな些細なことが似ているということを発見すると
ココロの針がさっと触れて
一気に気持ちの流れが変わったりする。

犀川君とは、この2日間で、4往復のメールを交換している。
まるで文通でもしているようなピュアな感覚。
ハヤテとはメッセンジャーでの話が多かったせいか
メールとはいえ、かつての手紙のような速度のように感じ、
そのスローなテンポが返って切なさを加速させる。
不思議なもので、やりとりはスローなほど思いが深まるみたい。

犀川君からのメールが待ち遠しくて待ち遠しくて
ついついメールのチェックをしてはため息。
受信ボックスに犀川君の名前があると、小躍りしたくなる。

返信メールを出してから3時間。
まだ返事はこない。
まだか…とがっかりしていたら、
ハヤテがメッセンジャーで五輪のことを話しかけてきていた。
まだオンラインのようだけど、返事をする気分じゃない。

ハヤテから話しかけられているのに無視するのは初めてだ。

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さらば、愛しきハヤテよ

ほぼ、確実に、私は犀川君に恋をしちゃったようだ。
あっけないな。想像していよりも、あっさりした終わりだな。
ハヤテが私の運命の人なのは、間違いないと今でも思う。
でも、ハヤテと私の人生は、やっぱりクロスしない。
結局、私はそれをどうすることもできないままだったけれど
多分、これでいいのだ。
ハヤテ、大好き。
今も、ハヤテのことが大好き。
でも、変わらないまま、他の誰かに胸をときめかせることができるんだね。
犀川君はあったかい。
そのあったかさに、寄りかかりたい。

共通の関心事について、ひょんなことから犀川君とメール交換中。
犀川君が使う言葉は、どこかあったかい。
今度また飲みに行きましょう、という約束ができた。
2通の返信メールを見て、にやにやが止まらない。
何度も何度も読み返す。
届きそうな気がしちゃうのは思い過ごしかな。
もしも届いたら…ハヤテではない人を選択する事に
今なお一抹の不安を感じるのは、多分、片思いが長過ぎたせいだよね。
今度、ハヤテに会った時にココロがぐらつかなければ、本物だ。

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ココロ変わり

犀川君を想うと胸が苦しい。
空が青ければ青いほど、犀川君が恋しくて切ない。
今日は、会う口実がない。
旅が終わってしまったから、彼がうちの部の部屋にくる口実がない。
つながりが切れてしまうようで、なんだか不安。

別件の用事で、犀川君の部があるフロアへ顔を出した。
帰り際、犀川君の席の方に目をやると、
こめかみに手を当てて、考え込んでいる犀川君がいた。
視界の片隅に犀川君の存在を感じながら、フロアを後にした。
犀川君は私に気づいたろうか。
気づいたとして、何かを感じたろうか。

昨日の夜、一緒に飲んでいた時のことを思い出した。
好きなカクテルの名前がどうしても思い出せなくて
ようやく思い出した時に、
「スプモーニだ! 覚えておいてね」と言うと、
「はい。もう大丈夫ですよ」とうなずきながら微笑んでくれたっけ。

犀川君は覚えているだろうか。
ココロが犀川君色に染まってしまって、
すっかりハヤテが消えてしまった。
さよなら、ハヤテ。ココロ変わりをしちゃったわ。

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胸が苦しい

職場の先輩が、旅の慰労会をやろうと言うので、犀川君にメールすると
すぐに返事が返ってきたのだが、その文頭、さわやかに「おはようございます」とあっただけで、悩殺されてしまった…(笑)。メールの文章は長くはないものの、言葉のひとつひとつが温かい。そう感じるだけで、胸の奥がキュンとしちゃうのは、やっぱり恋をしちゃったのだろうか。
先輩が慰労会をやろうと言い出してくれたからよかったけれど、今日は朝から、どうやったらまた犀川君に会えるだろうか?と、そればかりが心を占めていた。これが恋じゃなくて何なんだ? 
なるべく早く行けるように、きりきりと仕事しますね、と返事がきて撃沈…。

そんな時に、ハヤテは今日から夏休みなんだそうだ。
ハヤテの後輩とメッセンジャーで話していたら、そう言っていた。
以前の私なら、なんで言ってくれなかったんだと、イライラしただろうけれど、今日は「ふーん」てなもんで、ずいぶんと執着心がなくなったもんだな〜と、他人事のように思ったりして。昨日もそう感じたけど、ハヤテへの恋は、ここでいよいよフィナーレを迎える可能性が非常に高くなってたな。

で、ハヤテの夏休みよりも、犀川君に会えるということで浮かれていた。仕事で遅れるというから、「じゃ、仕事終わったら電話してね。○○君(=彼の同期)か、私のどっちでもいいから」と、念のため私の携帯電話の番号を教えておいたのだが、午後8時すぎに、犀川君から電話が掛かってきた!ただそれだけで、心ときめく自分。落ち着け落ち着けと心で言い聞かせても、つい笑みがこぼれちゃうよな。

犀川君がやってきて、昨日の話の続きをしているだけで、じんわり幸せになる。そんなおだやかな、あったかい気持ちにさせてくれる人は久しぶりだ。ハヤテはとびきりのドキドキをくれるけれど、あったかい気持ちにさせてくれることはあまりないしな(笑)。そんな予想不可能なハヤテが大好きだけど、全く違う魅力を持っている犀川君に、じわりじわりと惹かれてしまうのは、少々、破天荒なハヤテに疲れてしまっている、というのもあるのかもしれない。

帰り道、駅まで犀川君と2人で歩いた。
意識しちゃうと途端に言いたい言葉が遠くなってしまう。
逆方向の電車に引き裂かれて、切なさに輪をかける。
なんでだろうな、久しぶりに、泣きたくなってしまった。

で、そんな夜。久しぶりにタカ君からメール。
あまりコンタクトをとりたくなくて、メッセンジャーで不在にしていたので、しびれを切らしてメールをしてきたようだ。「まだ(ハヤテに)片思いをしていますか? 話したいことがあるんです」という。タカ君、年があまりにも離れているからと断った私が今、タカ君ほどじゃないけれど、それでも結構、年の離れた犀川君に恋をしかけているんだよ…なんて話したら、なんて思うかな。
こうなってみて一つだけ明らかになったのは、年下だからとタカ君をふったのではなく、単に好きになれなかっただけなんだ、ということだ。

ああ、それにしても胸が苦しい。

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変化、そして終末

やっぱり、共に旅をするというのは、互いの心境に変化をもたらす。
きっと、ふいに相手のココロに触れてしまう機会が、日常よりもはるかに多いせい。
ボックス席で向き合って、思わず膝と膝が触れ合ったり、
街を散策しながら、思わず肘と肘がぶつかったり。
意識をしない相手なら、なんてこともない、実に些細な事柄が重なって
静かに静かにココロのどこかが少しずつ溶けていく感じ。

「私さ、町中にひっそり建っている看板が好きなんだよね」と言ってカメラを構えたら
普段クールな犀川君が、小躍りするように「え!!本当ですか?」と喜んでいる。
何事かと思えば、「僕も大好きなんですよ。そっか好きなんですか」と嬉しそうだ。
「出家するのが夢なんだよね」と言うと、「そんなぁ、そっちに行かないで下さいよ」と笑う。
きれいな夜景を見て感動していたら、「まちの灯りが一つ一つ消えるまで
ここで一緒に見てますかね」と照れながら言う。

ああ、すっかり私のココロの中では、犀川君の存在が大きくなってしまった。
旅が終わった帰り道、ふと隣に犀川君がいないことが寂しく思えた。
そういえば、こんな感覚、以前もあったな…
そう、それはハヤテと欧州に旅した帰りの成田エキスプレスの中だった。
まさか、隣にいなくて寂しくなる対象が、ハヤテ以外にも現れるなんて…。
いやいや…犀川君に関しては、ちょっと感傷的になっているだけだと戒めていたら、
夕方になって、犀川君がオフィスに顔を出した。
昨日はお疲れさまでした、楽しかったね…普通なら簡単に振り返って、さよならなのに
結局また終電の時間になるまで、犀川君と二人、話し込んでしまった。
今回の旅のこと。夢のこと。自分のこと。次の旅のこと…。

寂しがりやでロマンチストな犀川君。そのクールな表情で、そんな彼の本質を
知っている人は少ない。道中、嬉しそうに電車を見ているのを見ていて、
この人は電車に恋でもしているのかと思ったと話したら、
「僕は電車よりも人の方が好きですよ」と笑う。そして、
「誤解されやすんです。どうしたらいいのか教えてください」とまた笑う。
「人との距離を測って、誰かと近づく努力をするのは難しい。時々、面倒くさくなって
どうでもいいやという気になってしまう。結局、孤独という現実は変わらないし。
そう思っちゃうと、このまま一人でいい、放っておいてとなるんだよね」と言うと
「そりゃ孤独ですけど、放っておいてなんて寂しいこと言わない下さいよ」と笑う。
そのほか、他愛もない夢を話しているうちに、いつの間にか一緒に喫茶店をやる話に
発展したり、冬にはまた一緒に旅に行こうとか、今度は九州のどこそこでうまいもの
食べましょうとか…話は尽きることなく、時間が流れてゆき、最後は、
「なんだか人恋しくなっちゃったな〜」とつぶやきながら、去っていった。

犀川君と、ロマンチックで感傷的な話をしているのは楽しい。
好きなものとか、感動することとか、感性が非常に近いからだと思う。
普通なら、恥ずかしくて絶対口にできないような事も、
似ているから、分かってくれるだろうと思えるから、ためらいなく言える。
そして、言葉を重ねる度に、ココロの変化が大きくなってしまうのだ。

これは実にまずいことになってきたぞ…と思って帰り支度をしていたら、
犀川君と話し込んでいる間に、ハヤテがメッセンジャーで話しかけてきていた。
「そっち、すごい雨じゃない?」
その一言だけが、取り残されていて、どこか寂しげだった。
ハヤテ、相変わらず、マイペースだよね。
ハヤテ、まさか私がココロ変わりするなんて、思いもしないだろうな。
もちろん、ハヤテを好きだということをハヤテは知らない。
知らないけれど、ココロが感じていて、それが当たり前だと思っているはず。
だから、私が犀川君にこれほどまでにココロ奪われている状況は予想外だろう。
ハヤテ、こっちはすごい雨だよ。
そんなことよりも、もしかしたら、本当にこのまま私はココロ変わりしちゃうかもよ。
いいかな?いいよね、別段困りはしないだろう。
きっと、犀川君は、あんたよりもはるかに優しくしてくれるよ。
やっぱり、毎日、顔を合わせられるというのは大きいよ。
ずっと憧れてきた場所じゃないけれど、
それでもそこは、あたたかい気がする。
ハヤテはハヤテらしく。これまで通り、遠く輝いていてほしい。
もしかしたら、終末かもしれない。

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カウントダウン

今日も犀川君が職場にやってきた。
夕方からオフィスで宴会をしていたので、犀川君に声を掛けたらしい。
「よう!」と声を掛けると、微笑みながらうなずいてくれた。
うむ…なんとも素敵だ…。
つまみに、クサヤを持ってきてくれた人がいて、
「これ、すごくうまいよ」と渡すと、
「ほんとだ、いい匂いがする」と犀川君。
どうやら食の趣味が近いようだ、と思うだけで何だか嬉しい。
今日はちょっぴり犀川君寄りな夜。
旅までカウントダウンだ。

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散り散り

ちょっと今宵は、ほんの少しココロが散り散り。
ココロの破片の一部はハヤテに向かい、
ココロの他の破片は犀川君に向かい、
それぞれにふわふわと漂い、行く宛もなくさまよっている。
どちらかに落ち着きたいような、
でも、どちらにも落ち着きたくないような、
このまま、しばらくふらふらした後はふっと消えてしまいたい…
そんな衝動さえ覚える。

今日もまた犀川君がやってきた。
念のため、食いっぱぐれないように、事前にカロリーメイトのような
栄養補助食品を買っておくといいですよ、というので、
カロリーメイトはまずいから、オレオでいいかと聞くと、
それは単なるお菓子だからなぁ…と突っ込まれ、
ええ〜お菓子でもいいやん!と反論すると、
それじゃ食事にならないでしょう、と
静かに、でもおかしそうに笑っている。
名古屋でてんむすが売っているかもよ、と他の人が言うので
じゃ、オレオをやめててんむすを買うと主張すると
乗り換え時間が9分しかないんだから、
乗り遅れないで下さいよ、とクールに言った後、
また、おかしそうに笑った。
この間よりも、昨日。昨日よりも今日。
その笑顔は確実に、柔らかく、親しみを感じるものに変わっている。
その笑顔が実にさわやかで素敵だ。
時々、彼が年下であることを忘れてしまう。

一方で、ハヤテはハヤテのまま、のんきでマイペースだ。
仕事の合間には、今日は何キロ痩せたとの報告をし、
一緒に牡蠣を食いに行く日のことを楽しそうに話していた。
深夜オンラインになると、今度は、私の夏休みはいつなのか聞いてきた。
その後は、仕事の話でしばし盛り上がり、
そうして、安心したのか、流れ星はまた消えていった。
最近、ハヤテが深夜にオンラインになるのは珍しいので
おそらく、仕事が終わらずに会社に泊まり込んで徹夜でもするのだろう。

犀川君と旅に行く日、ハヤテも参加するミーティングがある。
旅のほうが先に予定が入っていたので、私はミーティングを欠席する。
そのままハヤテも私も夏休みに入ってしまうので、
しばらくハヤテとは会えない。

3カ月前、私はハヤテとある約束をした。
それぞれに誓いをたて、達成できなかった者が達成できた者に
互いが大好物の牡蠣をおごる、という約束だ。
私はほぼ99%の確率で達成できる見込みがある。
ハヤテは現在奮闘中だが、そもそもの誓いのハードルが高かったので
現状でもすでによく健闘した、ということで許してあげようと思う。
その約束の日が13日なのだが、
互いが夏休みでコンタクトがとれない。
すっかり忘れていた。
ハヤテが17日まで延期?と確認してきたのはそのためだ。

この3カ月、この約束が二人をつないできた。
いよいよそのゴールが近づいてきた。
一緒に牡蠣を食べに行った後は、互いに誓いが守れているかを
報告する「義務」は事実上なくなってしまう。
ハヤテが私に話しかけてくるきっかけが、
一つ消えてしまうことを意味している。
離れていても、一緒に並走している気分を味わえたこの3カ月。
犀川君に揺れながらも、並走が終わると思うと胸が苦しい。

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